41 ー魔物ー 影喰い現る!
林道際に大勢出没していて魔王関連のスタンピード化が疑われるが、ひょっとして俺たちの前に現れたのはこの瞬間が近かったせいなのか?
出来ればイベントから遠ざけたくて小屋を囲み威圧したが、強いヒト種だったから脅しに失敗して追い払えず、放置に変更したのか?
まったくの勘だが。
(『 おいでなさったぞ…………あれだっ! 』)
上空から円陣の中央めがけて滑り降りてきたものがある。
異形の生物だった。
それは玉子の下部分から尖った複数の、タコみたいな短い触手状を持ち、頭部だかボディの正面にはティアドロップ形の大きな単眼が開いている。
しかも、それが人間の眼とそっくりときていて、気味が悪い。
(「うわあ~、アレが影喰い?! 本当にいたんだ。……気持ちのワルイ見た目だね」)
コボルトたちの黒い影は両腕を天空へ掲げつつ、大きな二重円を狭めるように集い、その熱狂度の高まり示すがごとく、短いうなり声をあげ廻り続ける。
(『どうやら分かってきたぞ……あの魔物、コボルトどもに幻覚を見せて、自分をキングだと思い込ませているらしい。本物の王じゃないから、モブ・コボルトどもの活性もいまひとつ上がらないようだな』)
(「これからどうするんだろう? まさか……」)
(『そのまさかだ。やはり野盗たちを殺したのはあの魔物だったんだ。そして最大限の頭数を集め終えた今、こいつらの影も喰っちおうってわけだ』)
(「ひどい、なにそれ?! どこまで大喰らいなのさ!」)
大きな瞳が下の円陣中央を見下げていて、危機意識なく取り巻く獲物たちを狙っている。
自分たちが〝王〟として崇め奉る対象に騙され踊らされたあげく、命を搾取されるとは。
――ウルの言う通り、まったく憐れとしか言いようがない。
さらに上空からの距離が狭まる。ところがあれよあれよ、体の表面に光の粒みたいなものがキラキラ浮かんできて、それに覆われた全身がさらに煌めき、より輝きを増した。
(アイツ、獲物を見て興奮してるのか?!)フト感じた俺も神秘的な気分になる。
――…………………………………………。
俺が取り出したサコーのボルトを引き、実弾を装填し終え構えたとき――――
円舞を繰り広げるコボルト群の傍へ、突然パメラの背中が飛び込んで来たのを見た。
(「あっ!!」)
驚愕したウルの声が響く。
――しまった! いつの間にっ…………
またしてもパメラが、俺に覚らせぬまま離れていた。
コボルトたちは突如乱入してきたヒト種の女を、まったく意に介さぬ様子で踊り続けている。
『パメラ?! 何してるっ馬鹿! 返せ、戻れ!!』
「 マッツ! マッツ! もう元気になったんだニャ……うわあ! 良かった! ウルちん、ウルちん! すごいっ。ウルちんの現象世界のハナシって、本当だったんだニャ! 」
――おまえ! 元気な弟の姿が見えてるって言うのか?!
魔物に魅入られた女は、餌として取り込められたらしい。想定外の事態だ。
(「まさかっ……師匠、本当にマッツの魂が降りてきてるの?」)
(『違う! さっき影喰いは獲物が見たいものを見せて引き寄せるらしいと言ったろ。死んだ野盗どもの表情を思い出せ。アイツらは楽しそうな笑みを浮かべていたじゃないか』)
(「じゃあ、パメラもコボルトたちと一緒で獲物扱いになってるの!? 危ないじゃん」)
「 わーい! マッツ。ここまで降りてきて欲しいニャ! 頭なでなでさせてニャ♪ 」
――……それは本人じゃないぞ! パメラっ…………
女はぴょんぴょん跳ねて上空へ伸べた両手を振りながら、名前を連呼し続ける。
泣いているのか。――――――
それほど懐かしいか? それほどまでに愛おしいのか。
ガラにもなく目頭が熱くなる。
ひょっとして、もともとウルの涙腺が緩いせいなのかも知れないが。…………、……、……いかん! これ以上遅れては、照準を誤りそうだ。
もはや一刻の猶予もない。俺は影喰いを斃そうと、杖口を向けた。
(「 師匠っやめて!! 」)
爆裂音と共にオレンジ色の烈火が咲く。だが強力な反動を肩に受けながら、俺は手元が狂ってがく引きになったことに、内心で舌打ちする。
影喰いは拡げた足を筆状にすぼめ宙を蹴り、吊り上げられたように闇へ吸い込まれ消えた。
「はニャ?! …………………… ………………」
女はへなへなと腰を落として尻餅をつき、ぺたん座りのままで呆然としている。




