40 コボルトたちの核心に迫る
(『ウル、もう少しの間辛抱してくれ。二晩で成果がなければ、俺たちは撤収しよう』)
(「……野盗の隠れ家を見つけるのは難しいって思ってるの? 師匠」)
(『ああ。コボルトたちの行動頼みだからね。期限を設けないとキリのない話になる』)
野盗が全滅したからには、手がかりはもう切れている。本来ならそれ以上の探索を要求される筋合いは無い。これはあくまでパメラの顔をたてるため、追加のプロブレムワークだ。
今度は俺たちの方がストーキングする番になる。
木こりの休息小屋に現れたコボルトの一団に目をつけた俺たちは、野外に設けた簡易キャンプを移動しながらヤツラを見失わないように見張り続けた。
コボルトは俺たちの存在に気付いていない筈はなかった。だが小屋へ最初現れた時みたいにドアの下を掻きむしって威嚇したり、振り切って逃亡しようとする様子は見せない。
一定の距離を保てば相手に敵意はないと判断して、安心できるのか? ことさら排除したいとは考えないみたいで、ゆるいものだ。
この調子なら、小さな明かり程度ではコボルト共を刺激しないだろうから、燈しても問題はないだろう。
本音を言えば、俺としてはもう切り上げたかった。
だが追跡を開始した当日夜半――――――
『おい、見ろ!』
森林の奥に幾つもの光が現れ、色めき立つ。俺はパメラと、俺の中の小さな相棒に低い声で知らせた。
おぼろげな光は、隊列を組んでゆっくりと進行している。
(――こりゃ松明じゃないっ…………狐火かよ?! やはりコボルトってのは、犬系の中でもキツネに近い獣人なんじゃないか?)
この光の列を遠くから望めば、まさしくキツネの嫁入りみたいに見えることだろう。
(「師匠。これって野盗の隠れ家に結びつくかな? パメラの期待通りになる?」)
(『それは分らんが……にしても大きな動きだ。何が起るか、確かめぬ手はない』)
「 ほらほら、ウルちん。他からいくつも光が出てきたニャ! 」
散りぢりに潜んでいたらしい個体も、周辺の繁みから寄り集い合流を図っている。光の動きを見れば一目瞭然。
……よくも大勢潜んでいたものだが――――
これは確かに僥倖だ。
野盗の金倉以外の大事にも結びつくかも知れない。
『追うぞパメラ。先に立って進め。あまり急いで、勝手に距離をとるなよ』
「 ニャア~~~ンッッッ、逃げたりしニャいってばぁ~~~~~~~っ 」
『そうじゃないっ暗くて見失ったら困るだろうが!』
(「ボクは鳥目じゃないにゃん」)
(『言い方!!』)
足下は暗がりで分りづらい。
樹林の根が交互に入り組んだ凸凹道を、俺たちは四苦八苦しながら上がり下がりしばらく進んだあと、前方を眺めるとコボルトたちは小高い坂を越え、その向こうへ姿を消す。
俺たちも低い茂みを踏み分けつつ登る。
辿り着いて同じ所へ立つと尾根状になっていて、ヤツラは藪をかき分けて下って行ったらしい。ここは高台でどこか低地を見渡せる場所があるはずだ。
『木の密生度が薄い地点を探すぞ。まだ下りるなよパメラ』
「んニャら、あっち。明るく見えるから」
右の方向を指差してのたまう。なるほどボンヤリながら空が白んでいて有望そうだ。しばらくそちらへ進んで行くと、ついに潅木の割合が多い場所を見つけた。
丘陵に囲まれた盆地状の中央部は広い平地で、百頭近いコボルトが集合しているのが雑木の合間から窺える。
(「すごい、明るい。焚き火みたい!」)
興奮したウルが声をあげた。淡い光もあれだけ大勢集まれば、かなりの光量だ。
むしろ照らす範囲が広いため、あれはキャンプファイヤーよりも明るいだろう。演劇の舞台のように浮き上がっている。
窪んだ地形下の開豁地に集合した一団は二重の同心円を描いて広がり、内側のコボルトは自らの肩を交互に叩き、音を出しながら左回りに歩いている。反して外周の者たちは右回りで、上半身を揺すりながら踊るように歩く。
中央を空けているので、そこへ何かを迎え入れる準備をしているかのようだ。
(「コボルトたちは何やってるの? お祭りでも始まるの?」)
(『その程度で済むなら連中にとって幸いだ。魔物だけが美味しい思いをするカーニバルが始まるかも知れないよ』)
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