39 つぶやき * ボクが師匠にできること
◇◇◇
ボクは大人を信用していない。
信用できなかった。
物心ついて以来、体の大きいやつの中で、ロクな人間を見たことがなかったし。
……ううん、違う。
本当は五つのころ、一人だけ新しく孤児院へやってきた若い修道女さんが優しそうな人で、自然となついたボクらは、自分から寄っていって話しかけたりまとわりついた。
ところが二週間くらいしてその人は、突然姿を消した。
シスター・トロルたちは何も言わなかったけど、しょっちゅう口汚く怒鳴られていたから、たぶんイビリ出されたに違いないと、ボクらは噂しあった。
かわいそうな若いシスター。
今から思えば、特別に優しくて親切だったわけじゃなく、対応がことさら冷たいとか怒鳴ったり殴ったりしない、普通のお姉さんだったんじゃないか。
他のおばさん修道女がひどかっただけだった。
ボクらみたく、虐待されていたんだ。陰でひとり泣いていたのかな。
大人になってもきっと同じなんだろう。
孤児院から逃げだした後、その思いは確信に変わった。
遭ったこともない魔物とかモンスターより、もっと恐ろしい野盗っていう鬼を見たから。
それ以来、人目を怖れて身を隠しながら旅してたけど、ついにボクは出会った。
ノル・ホタカミと名のるおじさん――――
師匠は冒険者で、竜すらも倒してしまうドラゴンスレイヤーだった。
ミスリルランク。異世界エルデランからやって来た、この世界にはない攻撃魔法の使い手。
魔法具の〔火花杖〕は、異世界の魔法〝カガク〟の具現物らしい。
ホタカ師匠の言うには『地獄の力の末端』だとか。
ボクは師匠に教えてもらったその火花杖を使って、でかいトロル(本物)をイチゲキで倒すことができた。
あれで末端の威力だって言うんだから、スゴイ。
その力の『最先端』魔法ともなると、幾つか同時に発動すれば世界そのものを壊してしまうほどの威力があるというから、恐ろしい。
神様の憐れみがエルデランには届かないのだろうか?
だけどボクはホタカ師匠みたいに優しい大人と会ったことがなかった。
はじめて心底あまえることのできる人を見つけたんだ。
異世界からきた大人に、勇気をもらった。
大きなモンスターを倒せるほどの力をもらった。
きっと神様が結びつけてくれたんだと思う。
思いっきりあまえているうちボクは、ちっぽけなボクの方からも、ホタカ師匠の力になれるかも知れない部分を見つけた。
師匠は人との係わりについて、強い苦手意識を持っている。
以前ホタカ自身が言っていた通りだ。
ボクにも、師匠の過去の記憶や感情の動きが、大体わかって来ていた。
日常会話をそつなくこなせても、一定の期間同じ人と過ごしていると、相手の感情が必ず良くない方向に変わってきて、結局離れたくなるらしい。
ホタカは長い時間、同じ人とのつき合うことは、あきらめているヒトだった。
正体が露見したらさっさと身を引いて避けるのリコウ。そんな考えでいるみたい。
やがて家やお金、体ひとつをのぞいたすべて失ったとしても、放浪の旅に出て行きたい場所へ行き、見たいものを見て、餓えや病気に倒れたときは野たれ死にすれば良い――――
それで満足だと。
だからこの世界へきて放浪するのも平気だったんだ。
実際、ボクが行き倒れているのを発見したし。
子供っぽい部分を引きずっている。
ボクらは似ているところがあるけれど、違うところもある。
師匠と比べてボクは、人とのつながりをそれほど苦にしない。
ヒト全般に不信感を抱くあまり、期待してない点も違う。
だからそんな部分で、ボクは師匠をふぉろーすることができるかもしれない。
今回はじめてボクは他の冒険者と組んで仕事に臨んだけど、レンケイという点でギクシャクし始めている。
そもそも今回の依頼、師匠はあまり乗り気じゃなかったんだ。
パメラがニセ冒険者だったら無報酬になってしまうから。
でも仕事を持ちかけられて引き受けたってコトは、気持ち的に半信半疑状態なんだと思う。
コボルトを追いかけ、野盗の隠れ家も見つけよう。って方針が決まったとき、パメラを疑う師匠は、最後にこう告げた。
〝――あらかじめ言っておくぞ。安請け合いならやめることだ。こっちは命と時間をかけて仕事をしている。お前が何者であろうと、それなりの覚悟を持って臨めよ――〟
口調は「お前のことを、信じてはいないぞ」そうクギを刺してた。
パメラもそれが分ったみたい。肩を小さく揺すって、シッシシシ…………。って。
気まずそうな笑い声だけで、何も言わなかった。
まったくの勘だけど、ボクはパメラを本物の冒険者だと信じている。でも師匠が裏切られたと判断したら、とっても嫌なことが起きるだろう。
ああ、もうだいぶ暗くなってきたな。
こっちは夜目が利かないのに、大丈夫だろうか…………?
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