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38 横槍!…って、 初見の魔物かも知れないの?!

 よくよく見てみると、蜘蛛の子を散らすみたいに逃げて行く者の中には、明らかに歓声を上げ爆笑しながら逃げている若い奴らが散見された。


 魂のない抜け殻でも、腐りかけた脳内に生前の記憶が残っているせいなのか、もしくは人恋しくて懐かしいのか、人(生者)を見かけると、ああしていつも寄ってきて抱きつこうとするそうだ。

 オマケに新しい死体モノは意外と動きが早いときている。


 しかし筋肉の腐敗が進行したある時点で動けなくなり、やがてはだだの骨になってしまい、崩れ落ちて野ざらし化するという。それとともに人々は骨を拾い集め供養し直して、ひと夏恒例《お盆のお迎え行事》は終わりを告げる。


 映画の世界みたいに、人を食おうとしないだけマシとも言えようが、まさか異世界で死霊の盆踊りモドキが見られるとは思わなかった。


「ネクロマンサーっていうのはニャ、死体呪術師のことでぇ~~~」


「しってるから。ね、お姉さん…………」


「ああそう?」


 俺が説明し終えてからパメラがしようとした解説を、ウルはやんわり辞退した。


「……まあそのネクロマンサーが死体を動かすのは、近づきたくないほど腐ったやつを起き上がらせて自分で移動してもらうとか、みょうちくりんなカッコウで硬直しちゃった変死体を、自分から棺に納まってもらうため魔法でポキポキ整形したりするのに使うんだニャ」


 『ほ~~う。そういえば、背後から死体の腕をとり操って躍らせるのを〝カンカンノウ〟って呼んだりするのは《棺々納》って意味だったのか…………?』


「えっ?! 楽しそう。ウルちんの故郷の葬式は、そんな賑やかな習慣があるのかニャ?」


「 ないない! 知らないから、ボクはっ 」


 (『うっかり声に出しちまってた。ごめんよウル。俺の故郷のハナシだもんな……』)


 通常ならありえないほど不自然な野盗たちの遺体をしばらく見てまわった俺は、ようやく一つの可能性を導き出した。


 (『ウル、こいつはひょっとして〝影喰い〟の仕業じゃないかと思う』)


 (「それってなに?! どんなやつなの?」)


 (『魔物らしいが。……すまん。伝説上の存在みたいな曖昧なヤツで、俺も詳しくは知らないんだ。以前聞いた話だと、生き物の実体じゃなく影を喰らって生きるらしい。そいつに影を食われた者は、やがて生体エネルギーを失って衰弱死しちまうそうだ』)


 過去、俺は影喰いと遭遇したことはない。だからこれも伝聞を元に推測したもので、対処の仕方も手探り状態になるだろう。


 (『もっとも本当に影喰いかどうかも今は断定できないから、お手上げになるかもな』)


 (「そんなの困るよ師匠! こっちの命が危ないじゃんっ」)


「ね~え、ね~え、ウルちーん。さっきから体を左右に傾けたり、一人うなづいてブツブツ言ってるみたいだけど、いったいどうしたのかニャ?」


 ――やべぇ! はたから見ていると、それほど怪しげな挙動を取っているのか。


 『どうもしてないっ…………それよりもだパメラ。この件について、俺なりの推測を聞いてくれ。今後の方針についてもだ』



 **********************************



 『やつらはすでに全滅していたろう。これを依頼人に報告するだけじゃ駄目なのか?』


「そもそも野盗の根城を特定するのがウチたちの任務だニャん。こうなればアジトだけでもめっけて報告しないと、依頼人に対して義理が立たないニャ」


 『……コボルトどもを追跡していけば、それはどうにかなるかも知れないが…………』


 伐採した木の枝を組んで仕立てた簡易テント内。

 ここを臨時のキャンプとして、俺たちは打ち合わせを始めていた。いま会話を司っているのは俺の意識だ。ウルは胸の内から身体の方へ干渉していて、火花杖を抱える腕にキュッ、と力を込めつつ耳を傾けている。


「盗品。ホンの一部でも残っているのを取り返したら、クライアントもきっと喜ぶニャ♪」


 『まあ、相手はヤクザまがいのアウトモッド商会だからな。野盗どもの死体だけ示しても、約束通りの報酬を支払うかどうかわからんか』


「報告が中途半端だってケチつけられるかも。――うん、きっとそうなるニャ」


 『だが俺は夜目があまり利かん。今ここに小さな明かりで照らす魔導具しか持っていない。お前が責任を持って眼の代わりができると言うなら良い。暗闇でも決して相手を見失うなよ』


 耳打ちするかのようなウルの声がささやく。


 (「ホタカ、ホタカ。約束の報酬がもらえない場合があるの?」)


 (『契約がトラスト経由になっている場合は、依頼した側が約束の履行を拒むと大変だよ。たとえそれが国家権力であろうと無事ではすまない。世界的な規模を誇る実力組織だからね。でもこのパメラ……本物の冒険者でないとすればトラストは一切関知していないから、踏み倒し放題ってことだ』)


 (「 まだ疑ってたんだ?! 」)


 (『うん。本物かどうか、いまだ確信は持てないな』)


 (「疑りぶかいんだなぁ、オジサンって……」)


 (『ヒドイ!! 二人の命と安全がかかってるのに。あと、おじさん連中を一括りにしないであげて!』)


 下手をすると依頼自体が存在していない可能性もある。その場合、この女はクエスト終了後、俺たちをいて逃げるか、最悪口封じで殺そうとするかも知れないのだ。


 だとすれば、外見でウルを甘く見て誘ったか?! ハーフリングをなめるなよ。こっちは見た目が小さくてもミスリルのゴルゲット持ちだぞ! ――よ~~し。それなら……


 これが魔物の仕業、本当に影喰いとやらがしでかした事なら、とことんやってやる。


 『パメラ。これからはコボルトの動きを徹底的に見張ることにする。異議はないだろうな。なにせ、お前さんの大切な依頼人のためなんだ』


「おっウルちん、やる気に満ち溢れてきたニャ。モチのロン、こっちは異議ナシだニャ♡」


みなさん読んでいただき、ありがとうございました。

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