37 急展開・屍【しかばねらん】乱
無勢の俺たちがまとわりつく多勢の連中を追い回し、つんのめってひと塊になったところを押し出して包囲を崩し、闘いの流れを握る。
(『やっぱりチョロイな!』)
(「油断しないでね、師匠」)
(『ああ。鋭い爪で引っ掻かれてもつまらんっ』)
またしても連中はこちらを窺いつつ、そろそろと森林の奥深くへ引いてゆく構えだ。俺もその後を追って飛び込んで茂みを掻き分ける。
「ノリノリに乗って来たねぇ、ウルちん! 大胆かつ積極的な行動だニャ♪」
『〝虎穴に入らずんば虎児を得ず〟ってやつさ』
「ニャ? おケツ?!」 (「師匠、それって、どういう意味?」)
――ああ……そう言やぁ、こっちの世界に〝虎〟って生息してるのかな?
コボルト相手とはいえ、他にも魔物やモンスターが潜んでいるかも知れない場所への追跡は当然大きな危険が伴い、慎重を要する。
(「うわあ! スリル満点だけど、やっぱ怖いや」)
(『 もちろん気を配ってはいるがね! 』)
だがパメラの方は丸っきり無警戒で、迷いを感じさせない飛び跳ねんばかりの調子で森の中へ突進してゆく。いつしか両手にダガーを握り閉めている。
二刀流だ。
まるで狂気の沙汰だが、狂人は力のリミッターが解除される上恐怖心もないため、自然と理にかなった大胆な動きをすると聞く。
「 ニャッほほ――――、ニャッほほほ――――い! 」
前方から喜びの雄叫びが響き、ブッシュがゆれる。
その勢いに牽引される形で俺(たち)も入り組んだ枝を避け、奥へ分け入っていったが――――――――――茂みを掃った次の瞬間。
ふいに拓けた場所へ出て、驚くべき光景が飛び込んできた。
(「えっ!?」)『 おおっ!? 』
ざっと見ても十人以上の男たちが雑魚寝状態で転がっていた。
(「 なにっなに、なに、これっ?!! 」)
少しのめって体勢を整えた俺たちは、すぐ事態を把握する。
両手にダガーを握りしめたまま、立ち尽くすパメラの背中が見える。
この女も呆然としているのか? ……表情は知れないが。
(「どうしよう? 師匠…………」)
(『とりあえず、検死の真似ごとを始めるしかあるまい』)
(「ケ、ンシ…………?!」)
(『死んだ理由を調べる』)
行きかけて、おっと! ……――大切な事を思い出した。
(『ウル。今後も視覚を共有し続けるつもりなら、ショックを受けないようにしてくれ』)
もはやパメラには脇目も振らず通り過ぎ、前へ出た。
彼らはいずれも異様に白っぽい顔色をしていて、それは服の袖・裾から露出した手足の部分も同じだった。どいつもこいつも、パメラの服装とよく似た山賊スタイルだ。
横たわる遺体を覗き込みながら移動した俺(たち)は、内一名の前でしゃがみ込む。
――妙だな。みんな苦痛どころか眠るみたいな表情で逝ってる。死体は無傷で動物や魔物に食われかけた様子もない。コボルトどもにしても、かじりつく位の事をしても良さそうなもんだけど。やはり不味そうだからか?
パレアンヌ村へ入って遭遇した人質事件を思い返す。
(体の硬直は完全に進みきってるし、もしあの若造が野盗の一味だったとすれば死んでから三日以上は経っていると思うが。……死臭すら発してない。コイツなんか、どことなく楽しそうに笑ってるような顔してないか? ……。どうなってんだ?)
脅えているみたいで、ウルは不安を声に出した。
「今にも目をひらいて起きあがってきそう。大丈夫かな…………」
「ニャハハハ!」
後ろで女の愉快そうな笑いが上がった。ふり返るとダガーを腰両側の鞘へ収めながら、自称冒険者が言う。
「ノーライフ・キングが呪いをかけて、生者を襲わせるってハナシ?! あんなのは迷信だニャ、ウルちん。死体を動かしたりできるのは、ネクロマンサーくらいだよん」
「ねくろまんさー?」
ウルは小声で呟き復唱した。俺に対し解説を要求してるんだろう。
(『死体呪術……死霊を使役したり、アンデット・モンスターを作ったりもできるらしい。詳しくは知らないが一度だけ関わったことがあるよ』)
以前、俺はずっと西方にあるロメロンという田舎町で〔死者の舞踏〕と称される祭りに遭遇したことがあった。
日本にもある習慣・お盆とよく似た風習だったが、まったく異なるのが死者の〝魂〟をお迎えするどころじゃなくて、死体そのものが起き上がって墓場から戻ってくるという衝撃の祭典だった。
遺体だから当然、ほどよく腐敗が進行した状態のモノが押し寄せてくる。
マンドレイクの存在を知って以来の衝撃だ。
だが人の肉が腐った臭いは、夏の気候も相まった凄まじいもので、吐き気がする。
近くに寄ると目に沁みて、ヒリヒリするほどだ。
おまけに【死びと帰り】共の体は蛆虫だらけ、周囲は蝿の大群がまとわりついていて、中には飛び交う蠅のせいで上半身が真っ黒になっているやつまでいる。
「なあ! 追いかけてくるぞ、大丈夫なのか?」
ゾンビだから、やはり人を喰うのかよ!? と戦慄したが、その町在住でネクロマンサーのじいさんが、
「どうして? そんなことは決してねぇズラよ」。平然と答えた。




