34 キミが死んだら俺も死ぬ
パメラは極まったのぐっと黙った直後、一気に感情を開放した。
「 本当にっ……できるなら、替わってあげたかったんだニャ! 」
――やがて弟は言ったそうだ。
「お姉ちゃん……ゴメンね」
「うん?! どうしたの?」
「ボク、もうだめかもしんない…………」
ウチはその時、すごく恐ろしくなった。
この世にもう、たった一人だけ残された肉親。この子を失ったら、もうどうやって生きゆけばよいのかわからない。それで思わず――――――――――
「ダメだよそんなコト言ったら! ウチとの約束忘れたの?! 絶対大人になって、一緒に冒険の旅に出ようって言ったじゃん。男の子の約束は、それほど簡単に破っちゃいけないんだからっ」
「………」
弟はうっすらと目を閉じて黙った。疲れたのかと思って今度はやさしく語りかけた。
でも、返事はなかった。
呼びかけて揺すっても、反応はなかった。
「ウチが間違ってたニャ! ウチは馬鹿だっ」
感情が高まり、囲炉裏の中央を火箸で叩き、炎が灰と一緒に爆ぜる。
「あの子はもう限界だったんだニャ! ……お別れの言葉だったのにっ……強く励ますんじゃなくて『今までよくがんばったね。エライよ』そう言って褒めてあげるべきだった。それなのに……………」
(『驚いた。この部分は本物っぽいな』)
「ゴメン……最後まで厳しいばっかりの冷たい姉ちゃんでっ…………」
女は声を忍ばせつつ、激しく嗚咽している。
――こいつ、今度は泣き上戸なるのか?
この嘆き方を見るかぎり〝実の弟〟は実在し、この話も事実らしいと、俺も信じ始めていた。
ウチはいつも間違えて後悔することばかりしてる、そう言って、パメラは泣いた。
ウルもさらに強く心を揺さぶられ共鳴して、シクシクと貰い泣きをし始めた。
彼女には似た境遇からくる感情移入があるのだろう。
パメラや俺と違い、ウルは両親の顔すら知らないが。
孤児院には年下の収容児がいて、年長者が世話をやいている。脱走する時も最後までその子らのことが心に引っ掛かっていたようだ。
後ろ髪を引かれる思いだったはず。
俺には兄弟がいない。
だが大切な人間を失い、初めて気付くという経験ならある。だから何となく分かる。
ウルはニコラシカ村で関わった優しい未亡人のことにまで想いを馳せ、心に描いていた。
本当にこの子は感受性が豊かだ。
あの女性がなぜあれほど自分の世話をして引きとめようとしたのか、家族を失ったその深い寂寥感にまで思い到って、余計に悲しんでいる。
ウルと俺はバディになったが、俺と一緒の旅とくれば常に命の危機が伴うモンスターハントになる。ドラゴンを捕獲するのが真の目的だから、なおのことリスクは高い。俺たちの世界なら小学三年生くらいの女の子であるウルに、命をかけたこっちの都合を背負わせているんだ。
改めて大変な割を食わせてしまったと思う。
自分の都合でキミを危険にさらす分、俺は絶対にキミを守りぬかなきゃならん。
そう決意を新たにする。
キミが死んだら俺も死ぬ。それ以外でも、何らかの理由で俺の存在がキミの中から消えてしまっても、キミの方は断じて生き続けなきゃならん。不公平だなんて考えないで欲しい。
これは大人の責問なんだから。
ついにこの俺までがこんなことを考えるようになった。
孤児院を出たあとに出会ったのが、もしパメラだったならどうなっていただろう? と。
迫真性あふれる様子に、俺もつい慰めてやりたくなった。
『そんなに自分を責めて、泣くことはないぞパメラ。風邪とよく似た症状だったのなら深刻な病気とわからなくても無理はない。手足が動かなくなった時点でようやくおかしいと気付いたんだろ? 仕方ないんだ』
「だって……だってっ……」
『お前の弟は亡くなったといっても、存在そのものが消えてしまったわけじゃないんだよ。俺たちヒューマンや亜人・獣人には心と言うか、不滅の魂があるからな。お前の弟は……』
「マッツ」
『んっ?』
「弟の名前ニャ。……クスン」
『うむ。そうか…………マッツはな、生まれる前にいた世界へ還っていったんだ。そこは脆くて壊れやすい肉体を捨て去った者が、魂のみで暮らす現象世界でな。もう病気や苦しみも無くて、とても心地よい環境なんだ。今頃は身体も自由に動かせるし、飛び跳ねることもできるようになって喜んでいるさ。お前のことを変わらず愛して、見守っているだろうよ』
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