33 良い話に続けて悪い話も聴いてしまった……
囲炉裏の弱くなった炎が静かに揺れていた。
雑談に興じながら酒をあおってほろ酔い加減になったパメラは表情をよりゆるめつつ、言葉少なになっている。
――こいつ、さすがウルに酒を勧めたりはしないな。
9歳女児にそんなものを飲まそうとしたら、叩きのめすところだが。
「……ねえ、お姉さん。その〝にゃ〟って語尾だけど。どうしてそんなしゃべり方をするようになったの?」
「じつは、アタイの家族にキャットピープルで双子の妹たちがいるんだニャ。それで口癖が移ったんだニャ。もちろん、血はつながってニャいけどね♪」
「妹たちはいくつくらいなの?」
「ムッフ・フ・フ・……ウチの子たちに興味があるのかニャ?」
エロ女は妙なアクセントをつけて、ウルの手を取り迫る。
「近いっ!」
「さっきも言ったけど、二人とも種族が違うから、はっきりとは判らニャいけど。……ヒック。歳はたぶん5~6才で、と~~っても可愛いニャ」
「もしかして二人は……孤児院にいたとか?」
「スルドイ! でも正確には奴隷商人が連れていた子たちで、ウチが買い取ったんだニャ」
「ドレイッ……て、孤児院なんかより、ずっとひどい境遇じゃないさ!?」
「うん……そうだニャ。どうにも目が離せなくなって……でね」
「そんなにカワイイの?」
ウルはこの女のことを……いや、庇護下にあるキャトピ姉妹の様子を、もっと詳しく知りたがっている。実の両親と縁が薄いなど自分の境遇と似ているせいなのか。
「……ニシシシ、……うん。一人は素直でもう一人はちゃめで少しナマイキ。…………左右の眼がオッド・アイで、片方それぞれそれ緑と青。ふたりが向かい合うと、ちょうど同じ色がご対面ニャ。緑は森の色で青い方は抜けるようなスカイブルーなんだニャ。美しいお空の色。…………もと~~っても、と~~ってもカワイイニャ。二人ともウチの生きがい。心の支えなんだニャ。ウチの宝物なんだニャ」
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潤んだ目とその表情は、脳裏に愛する者の姿をリアルに想い描く人のものだ。
(「幸せな子たちだなぁ……」)
ふとウルが漏らした心のつぶやきも、俺は聞き逃さなかった。
いやいや、――――――――――――でもそれはこの女が真実を語っているのが大前提だ。
その幸運な姉妹を羨ましがるのはまだ早いのでは?
(『ウル。話半分に聞いておいた方がいいよ。その妹たちだって、存在すらあやしいもんだ
眉に唾をつけて考えるんだ』)
(「ええ?! …………そうかなぁ、疑いすぎじゃない? ……………………ボクは本当のことだって感じるけどなぁ……………………」)
「 ううっ、…… 」
(――?)
驚いたことに、急に女は鼻を啜って涙をぽろぽろ零し始めた。ウルもびっくりしたのだろう。息を呑むような気配が伝わった。
「もともとウチには、実の弟が一人いたんだニャ。……ヒック」
パメラの語るところによると、彼女の母親は弟を生んで間もなく産後の肥立ちが悪く息を引き取った。冒険者だった二人の父は姉のパメラに幼い弟を託して、危ぶみながらもクエストを受けて遠征へ――――そしてそれ以来、二度と帰っては来なかった。
(「……かわいそう」)
(『嫌な話を聞いてしまったな。この部分だけは偽りであってほしいものだ』)
パメラは幼児の弟を抱え、近所への貰い乳に奔走することになったが、彼女の育った村にはまだ人情が生きていていた。幼い姉弟を憐んで、助けてくれる大人は少なくなかったらしい。
実弟は生まれた頃から健康優良児で、立って歩けるようになるとそこいら中を走りまわり、一瞬でも余所見をしていると危ないので、襟首を掴んで手を離せないほどだったようだ。聞いている俺も少しニヤリとした。お袋から自身の幼い時のことを、色々聴かされていたからだ。
だが弟が6歳を目前にしてから、事態は急変する。
「最初は熱がでて、だるそうにしてたからカゼひいたんだと思っていたんだニャ。でも幾日たっても回復しないし、心配になって何とか医者に診せられないかと思うようになって……」
『待て! 医者に診せるほど余裕があったなら、なぜすぐに連れて行かなかった?』
「ウチは昔からド貧乏で、よゆーなんてないニャ。医者は拉致して来なきゃならないから、当時はさすがに難易度が高かったんだニャ」
『ああ~~~、、、、そう。……続けて』
「その日の夜中になって、やっと熱が引いてほっとしてたら…………今度は背中が痛いって。翌朝になってから足が動かなくなってて」
――この症状……それって、もしかしたら小児麻痺ってやつじゃないか?
「それだけじゃなく、足が痛いって言うし、息も苦しそうで……」




