32 師匠曰く、女で暴飲酒乱は扱いがたい
『あっ!!』
「ニャハ! ニャハハハハハ! ウフ♡」
肌の香りがした。
一瞬、まったく似ていないのに、師匠の白いたわわがホントに一瞬だけ、揺らめくランプの灯火みたいに脳裏をかすめた。
(「抱きつかないでよ! ウチの師匠がヘンに目覚めちゃうじゃない!」)
『 べっ……ベタベタ触るんじゃねぇっ 』
俺もあわてて、抱きつき魔を押しのけた。
「ニャわ~~~ん。ツレないニャ♡」
(「師匠しっかりっ誘惑に乗らないで」)
(『大丈夫だって! それどころかキミの貞操の方が心配なんだ。コイツは……』)
――この女、ひょっとしてレズビアンのうえ小児性愛者じゃあないのか? 冗談じゃない! こんな変態女にウルをこまされてたまるかよ。
パメラは個人的にウルが気に入ったのか、やたらと《可愛がってやろう》とする。
俺はそれを特殊性癖から来る誘惑と警戒して、タッチやハグなどのあまりに大胆な密着を伴うスキンシップには拒否反応を示し続けた。
「とっころで一つ、しっつもぉ~~~んだニャ!」
『ああ、ハイハイ』
「ウルたんわぁ、〝おれ〟と言ったり〝ボク〟と言ったりして、時おり一人称が入れ替わるのは、ニャぜ?」
ギク! っとした。《入れ替わる》って……こいつ酔いも回ってるうえ軽薄そうなくせに、ずいぶん真実を穿った指摘をしやがる。
――どうやら俺の人格を出すせいで、ウルが年齢よりもずっとマセた精神構造を持っていると勘違いしている様だぞ。……言葉使いには気をつけなきゃならん。
(「ねえ。この女の人、ボクが直接話しても差し障りないが無いと思うんだけど?」)
(『ああ、そうだよね……その方が良いかもしれない。じゃあ頼むよ、ウル。だけどいざ危ない時は、また俺が出るからね』)
選手交代。
「ボクっていうのが本当。おれって言っちゃうのは、気が大きくなってるとき。……本来は気が小さいから、その反動かな……」
「へえ~~~~~、そうニャんだぁ」
――少々苦しい言い訳だが、とっさによく考えた。えらいよ、ウル。
「でもニャ、カワイイ見た目でイザとなったら頼もしいっていうのは魅力的だニャ~~!」
「だ、抱きつかないでっ」
少女も拒絶した。甘い顔を見せるとすぐこれだ……まったく油断も隙もない。ウルは苦笑いを浮かべて身構えつつ、話を逸らそうとする。
「ところでボクはさ、ビクセン郡まで行って、どこかで冒険者登録をしたいんだけど」
「安心しな。アタイ、あんたを見捨てたりしニャいよ。一緒に街へ連れて行って、イイ所へ案内してあげるニャ。まっかせニャさぁ~~~~~~い!」
パメラは腰裏の横へ寝かせた鞘からスムーズな動きでナイフを抜き、取り出した砥ぎ石の表面へ当てて撫でるような動きで刃を滑らせる。
(『ウル。ちょっとまた俺がでるぞ』)
(「え? うん、わかった」)
女が危険物を出したので、一応警戒をしておく。
『…………酔ってるんだろ? 気をつけろよ』
「フフ~~~ン。ヘーキヘーキだよん」
俺は興味を抱いた。
『……なあ。ちょっとそれ、見せてくれないか?』
断られるのを承知で言ってみたが、彼女は「うん。いいよ」そう言うなりあっさりと切っ先を持って回し、柄の方を俺に差し出す。
意外だった。
――こいつ、こんな無警戒で大丈夫なのか?
自分で頼んでおいてなんだが、俺なりに心配になってしまう一方で、有り難くモノを眺めた。
(このダガーナイフ。こりゃあかなり使い込んでるな)
パメラと名乗る巨乳女のナイフは、両刃のナイフだ。とはいえこの世界で、特に冒険者が使用するナイフといえば、もれなくダガーと相場は決まっている。
昔から洋の東西を問わず、暗殺などに使用されていた。
この女のものは大きく砥ぎ減りしているうえ、何とも不気味で鈍い光を宿している。使い込んでいるという事は、それだけ多くの獲物の血を吸っているという事を意味する。
日本では通り魔事件がきっかけで、小振りなものでも改めてその高い殺傷力が注目を浴びて、発売が禁止された、いわく付きの物である。
「ウルちんの方は、どんな得物を持っているのかニャ?」
『うん? ああ、こいつだ』
信頼に応えるため、俺も自分のナイフを取り出して女に手渡した。
女がびゅんびゅんとナイフを振り下ろすに伴って、大きな胸がプルンプルン小さく揺れる。
「あんたの得物は片刃で血どりも刻まれてないけど、音はまずまずだニャ。鋭いし、コレって、どういう焼き入れの仕方ニャんだろうか?」
(鍛え方と言って欲しいが…………)
俺の得物は折れた日本刀の切っ先部分をナイフとして再生させた物だ。この世界の鍛冶屋では、とても再現できないだろう。
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