30 臨時クエスト ~エタルの森とコボルトと~
「そんな無欲なあんただからこそ、肩入れしたいのが人情ってもんだ。ほら、署名しといたからコレを持っていきな」
年配の一人が、B5大の羊皮紙を差し出して言う。
「この書類をな、コロンポルのギルド本部で申請すれば事後の報告で現場契約でも報酬を受け取れる。ささやかな額だが……」
「 ホント?! そんなに便利なものがあったの! 」
(『ちょっとウル。急に物欲しそうな顔したら、格好がつかないじゃないか』)
「こう見えても、こちとらは地区の自治会長だからな。礼くらいさせてくれや」
「う……まあ、請求する気はないけど、一応ありがたく受けとっておこう。かなぁ……」
(『ふふふ。ツンデレみたいだぞ、ウル』)
「ああ。危険をともなう人命救助を成し遂げたんだ。あんたは冒険者なんだから、堂々と対価を受け取ってくれや」
――考えればウルの身体を使った命がけの作戦。俺一人の方針で報酬を断るのはおかしいか。
物思いにふけっている時、先ほどの自称〝冒険者〟女がまたもやぴょこぴょこ寄ってきた。
「よかったニャ~~~。ややこ助かって、ウルちんも報酬無事ゲットだニャ♪」
『パメラ……だったか? おまえ、まだ居たのか』
「まあまあ。これからコロンポルの町へ向かうのかニャ? お金受け取りに」
『さあてどうするかな。(ウルと相談する必要があるし)……おまえには、関係あるまい』
「ウチに雇われるつもりはないかなぁ、ウルちん。いまの報酬に上乗せができるニャん」
『なんだと?』
「実はウチ、この村からコロンポルまでの中間に位置するエタルの森林。そこの捜索依頼を受けているんだニャ」
――こいつ、本当に冒険者だっていうのか。いずれにしろ依頼の内容が不明瞭だな。
『そこでなんの捜索をする? 具体的な内容を話してみろ』
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(『よくご覧、ウル』)
深く鋭い4筋の疵。それが辺り一面の木の幹に刻まれている。
(「爪あと? ……どんな獣がつけたものなの?」)
(『コボルトだろう。ヒト型の山犬モドキとでも言うか……』)
自身の中でもこの獣人に対し定義づけが曖昧だと感じた俺は、少女への補足説明を行った。
(『彼らは変わっていてね。短時間ではあるけど幻術を使って、ヒト種や他の生物に幻を見せたりする能力があるんだ』)
さっき山犬とは言ったものの…………。
骨相を見た限り、俺個人としてはイヌと比べ口と鼻がするどく尖っていて細面であり、全体的に頭部の印象が薄いことなどから、どちらかといえば狐モドキの獣人。いや、キツネが人間を化かすこと自体(日本の)昔話の中のエピソードではあるが、非常に興味深い共通点だと思う。
妖怪の一種や魔物ではないが、犬系と例えられてるのは、集団を形成する性質ゆえだろう。
(「じゃあどうしよう? ここいらでキャンプするのは危なくない?」)
(『そうだな。コボルトは群れをなす種族ではあるから、もしワーウルフみたいに凶暴な性質だったら夜中まで襲撃されてさぞ厄介だったろう。俺たちヒト種は夜に灯火が消えたら詰み。にっちもさっちもいかないが、半獣のあいつらは抜群に夜目が利くから』)
(「まるでコボルトは性質がおとなしい。みたいな言い方だけど?」)
(『じっさい、そうなんだよねぇ』)
彼らも基本的に森の奥深くで棲息する種族だが、にもかかわらず今回は藪の途切れた林道沿いまで出現し、木の幹にキズをつけて廻っている。
――何等かの原因で、やつらにヘイトが溜まっているのか? このあいだのニコラシカ村でも、単独とはいえトロルが異常な行動に出ていた。奇妙な偶然の一致で、気にはなる。
「ねえねえウルちん、さっきから何一人でブツブツ言ってるんだニャ?」
『いや。別に……』(そうそう、コイツが一緒だったよ。集中し過ぎには気をつけなきゃ)
俺たちはいまパレアンヌ村から城砦都市コロンポルまでの中間に位置する、エタルの樹海。そこを突っ切る林道を進んだ中ほどまで達していた。
(「ねえ師匠、さっきの続きだけどさ。コボルトが大勢うろついてる場所へ、二人で入ったら危険じゃない? コボルトがおとなしいって、根拠のある話しなの?」)
(『まあ大丈夫だろう。アイツらは人間を怖れていて、めったに襲い掛かってくることがない。食べ物を持って祖母の家を訪ねていった女の子に数匹がつきまとったあげく、バスケットに伸ばした手を棒で叩かれて、鳴きながら退散した。なんてエピソードも聞いたよ』)
(「弱っ!」)
「そんじゃま。行きますかニャ、ウルちん。気構えはヨロシ?」
『ああ』
原生林の中を進みつつ、ウルと俺は依頼の内容を再確認する。
『他所で奪った金品を隠すため、野盗がこの森林の中へ一大アジトを築いてる可能性があると言ったな?』
「だニャ。連中は半年前くらいにビクセン郡からの荷馬車を襲撃して、それらを奪ったんだんだけど、相手が悪かったニャ。なにせアウトモッド商会の品だったから」
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