3 狩りの時間だよ ーキリング・フィールドー
パーティのボス、バノンは一瞬(ハテナ?)という表情になった。
『ああ、すまん。〝射殺〟――要するにな、ヤツラの司令塔である親を、夜中のうちに俺がこっそり、この《火花杖》を使って殺しちまったんだ』
意図せず、得意満面で革ケースを示す。
「なんだとう!?」
『だからもう間もなく統率を失って、歯止めのきかなくなった無秩序なワイバーンの幼鳥どもが、此処へ殺到するってことさ。雛っつーても馬鹿でかいことにゃ変わりないが』
「ウソつけ、はったりだ! テメェみたいな小人族に、どうしてそんな真似がっ」
『ノル・ホタカミ。俺のもうひとつの名前だ』
「このやろう、ワケの分からねぇ適当なことばかりぬかしやがってっ!」
「いや……火花杖とかホタカミって、聞いた名だぞ」
「知ってる。暴君竜より恐ろしい奴だから、三ローク(約330メートル相当)以内の距離には絶対近づくなって言われてる冒険者……〝竜殺し〟だ!」
「そう言やぁこいつ、チビのわりにやたら怪力だったじゃねぇか。ポーター兼雑用係として雇ったが、ロバ並みの荷物を担がせても平気で歩いてやがった!」
「ドワーフならともかく、小人族の怪力なんぞ聞いたことがねぇ」
「だが噂じゃソイツは、いい歳のおっさんだったんじゃねぇのかっ?!」
「そその筈だっ。どう考えたって、こンなガキがホタカミであるワケがねぇ!」
ギルドから的にかけられていた事実がよほどショックだったのか、パーティーの面々が乏しい情報を持ち寄りながら、混乱をあらわに右往左往している。醜態、じつに見苦しいヤツラだ。
心底おかしくなって、俺は思わず――――――
『〝ボ ク〟を甘く見たな』 彼女の自称でやってしまった。
すまんなウル、女の子なのに凶悪な笑顔うかべちまって。
「 ヒャアァ! ギョエエエェエエエ――――――――ッ!! 」
突如、クズ野郎どもの背後から屠り場のブタみたいな叫び声がとどろく。
驚愕づらした二人が後をふり返るのと同時、俺は素早く革ケースを開いて相棒の火花杖を取り出し、ボルトを引いて実弾を弾倉から薬室内へ送り込む。
黒い影がほとんど平行で突っ込んで来て、甲高い奇声を上げながら首を振り上げる。
人が宙へ放り投げられるのが見えた。
次々と舞い降りて殺到するワイバーンの幼鳥が、モブメンバーたちを銜えて呑み込んでいくのだ。
空へ向けた頭を細かく前後させ嚥下すると、膨らみが咽喉を下ってすぐ胸元で消える。巣立ったばかりらしく、雛の特徴が残っている。
『どけっ』そう叫んだ次の瞬間、大きな菱形の黄色い物体が目前に迫る。雛鳥独特の、エサをもらうため気味悪いほど目立つあの口だ。
邪魔な二つの雁首の真ん中を狙って、引き金を絞った。
大音響ともども、杖の先端に紅蓮の花が咲く。
衝撃波で後頭部を殴られたバノンとサーハンが左右に押し出される呈で吹き飛び、弾頭を文字通り食らった雛はきびすを返して飛び去る。
二人の不良冒険者は這いつくばって耳を手で覆っていた。衝撃波をあびた鼓膜が腫れ上がり、目がまわったらしい。
雛は即死をまぬがれただけで、まもなく死ぬはずだ。
『逃げろ! モタモタしてると喰われるぞ!』
聞こえるかどうか分からないが、言い捨てて身をひるがえし、荷物を満載した大きなズタ袋の影に身をふせる。あらゆる物品をつめ込み担ぐと重いシロモノだが、こういう場面では小さな体をすっぽり隠せてありがたい。
「ああ、あ、あああ――――――――――、ヒイィイイイィ――――――――――――ッ」
土ぼこりが猛然と舞い立ち、モブメンバーもろもろの悲鳴が交錯するなか、雛にくわえられたサーハンが竜騎兵さながら空へ飛び去ってゆくのが見えた。
よろめきながら逃げようとしたバノンもまた、散々尻を突かれ足をもつれさせたあげく、嘴でつまみ上げられるや、んぐんぐと呑みこまれ、一緒に飛びたつ。
あいつも撃つか!? 杖をかまえて狙いを定めつつあった刹那、上空から影がさし、ヒヤリとする。
とっさに仰向けになって脇へ銃床をはさみ、杖の床尾を大地につける形で真上に向けて発砲した。
覆いかぶさるように足先から舞い降りてきたワイバーンが、腹をぶん殴られた衝撃で一瞬速度ゼロになり、すぐ脱力して羽ばたけぬまま、両翼を拡げて落下してくる。
ズタ袋ともども雛鳥の巨体が覆い被さった。
『うはあ!』
生温かく日向くさい強烈な臭気にびっくりしたが、断末魔の中バッサバッサと羽ばたくたび新しい外気も供給されて、ホッと一息ついた。
(『このまま静かになるまで、やり過ごす方が安全かも知れんな。それにしても……』)
やがて幼鳥ワイバーンは悲しげな一声をあげて羽ばたくのをやめ、静かになった。
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