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29 非情のライセンス・立てこもり犯の末路

「 ンならぼうず……おまえが替わりにこっちへ残れや。ライスボールと一緒にな。そンならこのガキは解放してやらぁ 」

 

「ホント!? それでいいよっ……お兄さん、ありがとう」


 (『ちょ~~~~~っ! ウル、それって少々想定外な取引きじゃないか? 危ないよ』)


 (「――・――・――・――・――」)


 俺は…………ついに無視された。


 まあ、想定外の事態は必ず起きるので、常に臨機応変な対応が必要だ。この場合も、やっと赤子を取り戻す機会を得られたんだから、ウルは大したものなんだ。

 9歳女児にそんな基本を教わるなんて。


 …………俺、上級冒険者なのに。


「それじゃあお兄さん、ボクはそっちへ行くから、まずこれ(ライスボール)を受けとって。食べ終えたら一緒に出入り口まで行って、ボクが赤ちゃんを外に置いてドアを閉める。それでいい?」


「 ああ。それでかまわねぇよ。ぼうず 」


 若造はふざけた薄ら笑いを浮かべ、返答こたえる。…………どうもコイツは信用ならん。絶対、二人とも手放すつもりは無いだろう。


「じゃあお兄さん、まず一つ受けとってね」


 (『ウル。ここからは俺にやらせてくれ。食い物は左手で置く。利き腕を掴まれる可能性があるからな』)


 彼女の決めた方針に沿って、俺は子どもを取り返す手順を組んだ。


 『おじ…… お兄さん。目の前に置くから、自分で取ってね』


 ウルの口調を真似しつつ背を低め腕を伸ばし、慎重にライスボールをヤツの目前に置いてからウルは退く。三白眼でこっちを睨んでいる若造を見て、フトかつて師匠に聞いた話


「人間と対峙した時、白目がちにこちらを睨む羆は、特に性格がひねくれて凶暴な個体よ」


 を思い出す。左腕に赤ん坊わ抱えたまま、すぐ空いた手でもって食い物をつかみ口へ運んだ。


 (『 今だ! 』)俺は右手親指でつぶてを弾く。


 右下瞼に命中。目を潰された若造は、うっ、と一瞬両目をつむった。

 俺はその機を逃さず体当たりを食らわせる。懐へ飛び込まれたヤツは面食らってか、左腕のホールドが疎かになった。


 強引にヤツの懐から子供をもぎ取って、ついでに相手の体に蹴りを加えてその反動で退く。


 若造はとっさにナイフを大ぶりしたが、すでに俺(たち)の姿はなく、空を切った。


「 このガキィッ……!! 」

 吐き捨てる悲鳴が追いかけてきたが、もはや手遅れだ。


 あとは全速力で表に飛び出し、赤ん坊の安全を確保。外へ出た途端、子供を抱いているのを見た連中の《オオーッ、やったやった!》の歓声が耳に飛び込んできた。


 俺たちは人だかりの前に滑り込み、やっと一息つく。作戦の成果である幼子を覗き込んだ。


 (『ふうっ、冷や冷やしたぜ』)


 (「落っことさずにすんだね! …………フフッ、この赤ちゃん呑気に寝ちゃって……」)


 ウルは指で子どものほっぺたにちょこんと触れる。


 ――あとは地元の連中が犯人を捕縛し司直の手に引き渡して、一件落着だ。

 ところが直後の思わぬ展開に、たちは愕然とした。


「 このガキャ――――――!! ぶっ●したるぅ――――――――――!! 」


 一斉に殺到してきた男たちが、引きずり出した野盗容疑者を、棍棒やとび口を手に手に振り上げて袋叩きにし始めた。若造の〈まって! ……情報がっっ〉――短い悲鳴が聞こえたが、すぐ声は途絶える。


 (「 ああっ!! 」)(『 見るなウル! 』)


 湿った桶を叩くみたいな不気味な音。あとは、荒々しい怒声にすべてが包み込まれた。


 すさまじい私刑リンチ――裁判抜きの、いわゆる〝現場処刑〟だ。


 殺伐とした空気に驚いたのか、目覚めた赤ん坊は火がついたように泣きはじめた。


 ぺたん座りしていた俺(たち)は赤ん坊を抱いたまま立ち上がり、その場から逃れるように移動する。目に付いたおばさん連中のもとへ近づくと、後ろから推されかき分け、母親らしい若い女が現われ両腕を伸ばすので、子供をその手に託す。


 母親は泣きながらわが子を愛おしげに抱きしめた。


 しばらくその様子を見ていたウルは、人だかりの方向へ視線を移して震え声でつぶやく。


 (「あの若い男……………………本当に野盗の一味だったのかな?」)


 (『濡れ衣だったら気の毒だが。たとえ潔白であっても、この結末はある意味仕方がないと言えるな。子供を人質に取った時点で、奴の運命は決まったよ』)


 (「でもあの赤ちゃん、さっきの騒ぎの中でさえ寝ていたのにね…………」)


 (『ああ。将来は大物に成長するかも知れないぞ。今だって、まるであいつを憐れんで泣き始めたみたいじゃないか』)


 そして今回の結末は、野盗が世間一般からいかに嫌悪され、憎まれているかの証明だ。

 俺が教えるまでもなく、ウルはその現実を認識したといえる。




「さすが上級冒険者だな」


「それにしたって、もったいねぇ」


 早々に出発の準備を終えたウルを、男たち数人が取り巻いて言う。惜しげもなく報酬を辞退して去ろうとする気持ちは理解し難いようだ。本心から見返りを求める気持ちはないのか? そんなことを質してくる。


 『自分の身を守れない赤ん坊が相手ではな。抵抗できない彼らを守るのは、すべての大人の責任であり、義務だ。金にならないなら見てみぬフリ。って訳にゃいかなかっただけさ』


「ずいぶんと奇特なハーフリングなんだな、あんたは」

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