28 人質立てこもり犯との交渉開始です!
俺が(ウルの顔で)苦虫を噛み潰したような表情をすると、女は慌てて取り繕う。
「あ、でもでもっ、ランクは〝シルバー〟級だニャ!」
『ほう。そりゃ大したものだ。真実ならな』
「うわ~~~~~ん! 本当のことニャ、事実なんだってばニャ!」
『どうしてもと言うなら邪魔せず、黙って見ていることで協力するんだな』
――ついでだ。ウルの方にはゴルゲットの種類を、ざっと説明しておくことにするか。
まずは事実上の最高位〔ミスリル〕級をはじめとして〔プラチナ(白金)〕級、
〔ゴールド(金)〕級、〔エレクトラム(金銀合金=琥珀金)〕級、
〔シルバー(銀)〕級、〔アイアン(鉄)〕級、〔カッパー(銅)〕級、
そして最下等級(見習い)が〔レッド(鉛)〕だ。
(「シルバー級って、冒険者としてはどんな地位なの?」)
(『パメラの言い草が事実なら、彼女はまずまずの腕前といったレベルだろう』)
しばらくして、さっきの男がライスボール2個を包みにのせて戻ってきた。
この世界のそれは俺の世界でいうオムスビ(三角形)ではなくまん丸のお握りで、文字通りただの米の塊だ。
(『さあいこうか、ウル』)(「だね!」)
俺たちは包みを携えて小屋へむかう。ドアはほとんど壊れた状態で、入り口の前に立つだけで薄暗い屋内を垣間見ることができた。
『ごめんくださ~~~い……』
ウル風の声音を使いながら扉を開くと、奥に痩せぎすで鋭い目付きの若い男が座りこんで、左腕に抱えた赤ん坊に小さなダガーナイフの切っ先を突きつけた。
「 だ、だれだ! てめぇは!? 」
――ふん。しょせんチンピラか。うろたえやがって。
『こんにちは。お、ボクはオルフェ。おじさんに食べ物の差し入れを渡しにきたんだけど』
「 だれが食い物なんぞ頼んだ?! 勝手なことするんじゃねぇ!! 」
『ああっ? ナマを抜かすな若造! 気が立つのは腹が減ってるからだ。素直にコレを受けとって喰らえ! そして赤ん坊を解放するんだ!』
若いのは突如豹変した口調に驚いたのか、怒るよりも(ふぁっ?!)という顔をして唖然。
(「ちょっと師匠、なんてこと言うのさ! もうボクと替わって!」)
――俺は蹴飛ばされる勢いでどかされ、本来の体の持ち主が交渉に立つ。
「お兄さん大声だしてゴメンナサイ! 赤ちゃんのことが心配で、つい興奮しちゃったの」
「 このガキが……コイツの命が惜しけりゃオレの機嫌を損ねないようにしな。いいか 」
「うん。本当にごめんなさい。赤ちゃんの無事も確かめたし、このライスボール受けとってくれる? べつに今すぐ食べなくてもいいから……ねっ」
「 ちいっ、うっせえな………… 」
――こんニャロ、性根が腐ってやがる。この若さでこのふてぶてしさ。殺したい。
どうも俺と相性が最悪らしい。ウルが交渉した方が遥かにマシだろうと分ってはいるんだが。
「お兄さん。本当は野盗の一味じゃないんでしょ? そんな悪いヒトには見えないもの」
「 ………… 」
(『いいやウル、コイツは若い割りに中々の凶相だ。相当のワルだ。人殺しに違いない』)
(「シッ!」)=====(『……すみません』。)
「ねえ、お兄さん、お願い! 赤ちゃんを解放してあげてっ」
(『俺のことはおじさんなのにソイツは〝お兄さん〟って、なんだかなぁ……』)
(「ちょっと師匠! 気が散るから少し黙ってて!」)
「 おまえ、そのライスボールかじってみろ。二つともだ 」
――すぐに、ウルは少し食べてみせた。一丁前に用心深い奴だ。……それにしてもちゃんと塩をまぶしてあるんだな。結構イケる。コレってもしかしなくても〔魔王岩〕なンだろうな。
前回の魔王出現は90年も昔の話だ。
勇者が魔王と直接対峙して神威の力を全開放すると、黄金色の光に覆われた魔王の身体はどういう仕組みか知らないが岩塩へと変化してしまうらしい。
上半身だけで18ロゥル(約55m)余りで見上げるばかりの巨体らしく、かなりの量になる。遠い戦地から海の遠い内陸部に〝ピンクソルト〟などと洒落た商品名を付けられ、食塩として流通してくる。
だが明らかに朱色を帯び、中には赤黒い品もある。ゆえに元魔王の体だったと気味悪がられ豊かな階層は敬遠するが、庶民や貧困層は安価なので割りきって使う。
別に祟るわけでもなく無害だから、それでイイと俺は思う。
「飲みこんだ。毒なんてはいってないよ」
「 よし。近くに来い。届くところまで 」
『だめだ! まずお前が赤ん坊を中間地点へ置き、次に俺が子どもと引き換えにライスボールを置いて退く。それでどうだ?』
「 ふざけんなバカヤロウ! 人質を取り返されたら、食い物のかわりにこちとら捕まっちまわあ! ぼうず、オレを舐めるんじゃねえ! 」
『バカはてめぇだっ おっ……ボクは、女の子だ!!』
(「ちょっと師匠! このさいどうでもいいでしょソレ。引っ込んでてよ!」)
「お兄さん、赤ちゃんが心配だから早く解放してあげたいの。おねがい!」
ウルは両手の指を組み合わせて、潤んだ上目使いをして必死に…………。
まあ、幼子の命がかかっているので当然なんだが、ぶりっこが媚びてるみたいで痛ましい。
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