26 新たな到着地で、さっそくトラブルが待ってました。
パレアンヌ村は城砦を備えた宗教都市コロンポルの出先集落とされている。先のニコラシカ村とくらべものにならぬ規模の大きなコミュニティとはいえ、周辺にはまだ牧歌的な風景が広がっている。したがって村の入り口に高い城壁などはない。
木製の柵が両側へ伸びており、出入り口わきにやはり木製の小さな立番小屋があって、門番一人が通行者の往来を見守っている。時代劇の関所と似ているが、よほど挙動が胡乱げな奴でもない限りいちいち誰何されることはなさそうだ。
(『ウル。関門をくぐる時だけミスリルのゴルゲットをさげて行こうか』)
(「えっ、大丈夫? 怪しまれないかな?」)
(『ただの子供が一人で旅してる方が絶対に怪しまれるぞ。だが上級冒険者なら話は別だ。《年齢と関わりなく変り者が多く、プライドも高そう》は定評だからね。怒らせると面倒だと考えあえて引き止めないだろうから、堂々と行こうよ』)
(「うん。わかった」)
(『ああ……! あと耳も、一応よく見えるように出しといて。小人族とわかれば、この外見で成人してると勝手に思い込んで、よりスムーズに通れるかも』)
(「それでも本物かどうか疑われて、止められた場合は?」)
(『肉体言語で教えてやるさ』)
ハーフリングの耳の形状は、先が尖っているだけでヒト種と殆んど変わらない。
これがエルフ族ともなれば、尖ってるより耳長と言った方が正確で、おまけに横へ開く形になっていて隠すのが難しかったりする。
門番らしいやつも最初こそもの珍しげな目で追っていたようだが、冒険者とわかったのだろう。すぐに視線を街道の方へ戻し、まったく問題なく通れた。
(『ウル。もうゴルゲットを外していいよ』)
(「じゃあしまっとくね。ここからは逆に目立たないようにしなくちゃ」)
ところが十数分ほど歩いたところで、俺たちは前方の異変に目を留めた。
無数の男らが慌ただしく動きまわっている。何事かあったようだが、一人だけ黒い軽装備で毛色の変わった扮装のやつがいる。好奇心のかたまりウルが聞いてきた。
(「師匠。あのヒトって、冒険者だろうか?」)
(『あれは警備番じゃないか』)
(「それって騎士みたいなもの?」)
(『いや……民間人だから民兵といった方がいいかな。騎士団なんて、お貴族サマが巻き込まれた事件でもなければ出てこない。平民がらみの下世話な事件は、平民同士で何とかしろってわけだ』)
格好つけて呼ぶなら保安官と言っても良いが、西部劇を知らないウルにはピンとこないだろう。細かな解説をする手間をはぶきたいので黙っていた。
彼らが取り巻いて見ている方向には、小さなオンボロ小屋がぽつんと一軒佇んでいる。その様子から、大体の状況が解かってきた。
「 お前は包囲されているぅ。子供を解放して、今すぐでてこぉ~~~~~い 」
(覇気の無ぇ呼びかけ。……まあこの警備番たった一人だし。せいぜい田舎の駐在さんって立場なんだろうな)
俺は事情を確かめようと、現場を覗う男の背中に声をかけた。
『なあアンタ。何事が起こってるんだ?』
「おう。今朝がた留置番の隙を突いて、野盗の斥候らしい男が脱走しやがって……うん?」
言いかけた男は俺(たち)をいきなり突き飛ばした。火花杖を垂直に抱きかかえたまま、勢いに重みを支えきれず、尻餅をついた。
「野次馬かよ、このガキ! 邪魔くせぇから引っ込んでろっ」
(「イタタ……師匠、しれっと行動しないで」)
(『すまんっ、迂闊だったよ。それにしても乱暴なヤツだ』)
――餓鬼はテメェだっ! こんないたいけな女児を……そういえば周囲の連中もずいぶんと苛立っている。まあ〝駐在〟一人では何もできないから仕方ないだろうけど。
「大丈夫かニャ。たてる?」
声がかけられたので目を向けた。今までどこにいたのか短パン状を穿いて日焼けした肌の、グラマラスかつ露出の多めな女が屈み込み手を伸ばして、引っ張り起こしてくれた。
『ああ。……すまない、な』
――『ニャ』だって? こいつ、ヒト種のくせにキャット・ピープルみたいな語尾をつけている。ふざけているのか?
「ひょっとして魔導師なのかニャ? アンタの着てるローブ、ずいぶんとかわってるニャ」
女はウェーブのかかった赤毛で、後ろ髪を布で縛ったポニーテール。足元は獣毛つきの革製ブーツ。やや浅黒い肌の上から直接プロテクター類を胸、肩、肘、膝へ当てている。肩部分のプロテクトが、やや両際へ張り出した形。それが軽装の鎧に見紛うくらいだ。
俺はパーカーのほこりを掃いつつ考える。
――それにしたって、まぁた胸が大きい女かい。……やれやれ、今度こそウチのお嬢さんがへそを曲げそうだな。
ウルは口を噤んでしまっているし、不穏な感じだ。
案の定、眉をコイルみたいに巻いてムッスリとほっぺを膨らませた少女の顔が見える。
まあ、これもあくまで俺の感覚的心象にすぎない。
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