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23 少女はおっさんと心を合わせ、獲物を待ち受ける

 革ケースを開いて火花杖を取り出し、片ひざを立てサコーのボルトを引いて、弾倉の中に押し込んであった4発から初弾を薬室内へ送り込んでボルトを閉じる。


 このあたりから俺の意思とは無関係に、腰を浮かす動作が起こる様になり、気分も落ちつかない。

 ウルの意識――潜在的な恐れが影響しているのは、明らかだった。


 標的はさらに距離を縮め、その細かい特徴まではっきりと視認できるようになっている。

 脚の長いカバが垂直に立って、ノソノソ歩いて来るさまを思い浮かべればしっくりくるか。


 身の丈は6メートルを越していて、やつらの仲間でも大物クラスだ。

 顔はヒキガエルみたいで、頭骨が胴体の幅とほとんど変わらないから首は目立たず表情は乏しい。

 要は大きくて不気味な怪物ヤツだ。


 ウルは歯の根も合わぬほど体を震わせ、脅えきっていた。小さな歯をカチカチと打ち鳴らす。


 無理も無い。


 ヒト種の大人から被る暴力への恐怖から、人目を避けて旅を続けてきた少女だ。それが身の丈3~7メートルはある怪物を〝目前まで引き付けて撃て〟というのだから、彼女にとっては……

 彼女だけであれば、不可能と言えるほど高難度の課題だ。


 『ウル、よく聞いてくれ。オレを、いやキミの新しい相棒《火花杖》を信じてほしい。こいつは杖口から実弾が飛び出した瞬間のパワーこそが、もっとも強力なんだ』


 ――初速がゼロで徐々に加速して飛んでゆく宇宙ロケットなぞと違い、ライフル弾は的に近いほど威力を発揮する。


 三毛別の袈裟懸羆ばけものを一撃のもとに斃し、日本の狩猟者ハンター達の心に永遠の名を刻んだ山本兵吉翁の愛銃ベルダンタイプⅡライフルなんぞは確かに名銃だったが、口径7・62ミリ標準弾で内径が同じであってもマグナムライフルではない。


 俺のサコーを目前で撃てば、どんな巨漢デブだろうと吹っ飛ばせるだろう。


 『ウル、怖ければずっと目を開いている必要はないぞ。なにせキミには、もう一組の両目がある。撃つ瞬間は俺に狙いを任せてくれ』


 ――この場で巨大なモンスターを仕留めて自分の恐怖心を克服すると同時に、武器の威力を知って過去のトラウマも吹き飛ばすんだ。



 (『南無阿弥陀仏。南無阿弥陀仏。南無阿弥陀仏。南無阿弥陀仏。南無阿弥陀仏 


  南無阿弥陀仏。南無阿弥陀仏。南無阿弥陀仏。南無阿弥陀仏。南無阿弥陀仏 


  南無阿弥陀仏。南無阿弥陀仏。南無阿弥陀仏。南無阿弥陀仏。南無阿弥陀仏』)



師匠ホタカ、それって、え、詠唱なの? ……………………」


 (『そう。心を落ち着かせ、勇気を奮い立たせる魔法さ』)


 俺だって怖いんだよウル。


 もともとこの火花杖は遠距離射撃で最も有効性を発揮する道具ものだ。危険な獲物に限りなく肉薄して撃つのは初めてなんだ。俺自身。



 ――だがキミにこの火花杖ライフルの威力を信じてもらうため、敢えてやる。



 《 もっと力があれば 》一度でも、こう考えた事はなかったかい? ウル。



 ある。


 孤児院にいたころからずっと。


 旅に出て、野盗になぶり殺される人たちを見たときだって。



 人間や亜人の天敵は存在を認めなくても良いんだ。絶滅させても自然界にはなんの悪影響も及ぼしたりしないんだよ。

 恐竜が絶滅した途端、俺たち哺乳類のご先祖様が天下を取ったくらいさ――――――


 (ところでこの世界では【野盗】もモンスターと同じカテゴリに括られる。

 人間と見なされていないのだ。

 彼らにどう対応し処理するのかもいずれウルに教えなければなるまい)


 火花杖を人に向けるのは原則NGだが、何事にも例外はあるのだ。


 敵の咽下が銃身角45度に達するまで引き付けると、もう化物との距離は10メートルもない。対象がデカく薄気味悪い外見だけに、相当な迫力だ。


「ボ、ボク、孤児院のシスター・トロルが、なぜそう呼ばれてたのか、ややっとわかった」


 (『そんなにソックリだったのかい?』)


「記憶の底、み、見てみる?」


 (『遠慮しとくよ』)


 〈クル・クル・クル……クル・クル、クッ……〉


 突然、場違いにコミカルな音が風にのり寄せてきた。


 どうやらバケモノが喉を鳴らしているらしい、と気付く。


 トロルの上唇が波立つように捲れあがると同時に、細かく並んだ黄色くて小さな牙の歯列が覗く。

 唾液が溢れ出て、ドクダミの葉と似通った生臭い臭気が辺りに漂い出して鼻を突く。


 蛙状の目が愉悦を表すみたいに〝きゅう〟と弧を描く。


 嗤ってやがる………………醜いツラだ。


 何を考えているか分るよ。小さいが旨そうな獲物が、恐怖のあまりに体が固まって動けなくなっている、とでも思っているんだろ?


 逆だ。


 そして念仏はむしろ獲物に対しての、要するにお前さんへの手向けだ。


 お前の仲間もかつて味わったことのない異世界の魔法――《科学》が作り出した、地獄の力の末端。生まれて初めて喰らう未知のダイナマイトを、お見舞いしてやるさ。



 …………ボクの



 ……俺の――――



 オレたちの火花杖チカラをみせてやる!!



 45度に構えた射程にバケモノの首の付根が入った。

読者の皆様へ。

ここまで本作をお読みいただき、ありがとうございます!


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何卒よろしくお願い致します!

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