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20 ふたりで一人は心優しい婦人におもてなしを受ける

 日差しはやさしく、微かに花々のよい香りが漂う。


  民家の扉横に一匹の犬が伏せ状態で寝ていたが、主人の気配を察したのか直ぐ起き上がって嬉しそうに尻尾を振りながら、オハラを迎えようと待っている。


「ただいま、フレンダ。お客様を連れてきたから挨拶してね」


 頭をなでながら言うと、お座りをしながらウルに対しても尾っぽを振って歓迎してくれた。


 (『誰か潜んでいる様子はない。どうやら彼女に良からぬ企みはないみたいだぞ、ウル』)


 (「家の中はどうかな。悪い大人が待ちかまえてるかも知れないよ」)


 トビラを開けて中へ入るオハラさんと間を置いて、ボクらは用心深く家の中に踏み入った。

 今度は窓際で寝そべっていたネコが背を上に盛りあげてアクビをしてから、続いて後の方へ腰を突き出し伸びをした。オハラさんを見つめて〈ニャア〉と鳴きながら歩み寄る。


「タバサ。ご飯はもう少し後よ」


 彼女はネコに対しても名前を呼んで、頭をなでながらエサのお預けを言い聞かせた。


「荷物なんかはそっちの台の上に置いてね。…………さあてと」


 オハラという女のひとはボクを頭のてっぺんからつま先まで見ると、手を合わせて良いことを思いついたと言わんばかり表情で言葉をつづけた。


「最初は……そうね。服を着替える前に、まずは体をきれいにしましょう」


 それからボクはあれよあれよと服を剥ぎ取られて木製の大きな桶に入れられ、頭からぬるま湯をかけられたうえ丸洗いされた。

 オハラさんはボクの背中を優しく濯ぎながら微笑んで言う。


「少しの間我慢してね。終わったらすぐに食事にしましょうね」


 ボクは瞼に流れ込む滴を強く瞑って外へ追いやりながら、自分の中に問いかけた。


 (「――ホタカ、ホタカ、……聞いてる? 返事してよ」)


 (『…………』)


 (反応が無いや。……そういえばついこの間、やり取りの中で約束ごとを交わしてたっけ)



 〝「ボクが沐浴してるときや用を足してるときだって、ずぅ――――っと見てるってことじゃないさっ!」〟


 〝『冗談じゃない! そういう時の俺は必ず意識を消したりするぞっ、エチケットだろ』〟



 今は意識を消してるってこと? ホタカ。ボクが沐浴中だから、約束守ってくれてるの?


  

 定番のパンとタマゴ(目玉焼き)、腸詰ウィンナーと蒸かしたジャガイモとかぼちゃのポタージュスープ。さらに紅茶とデザートのサブレーなども次々と並べてオハラは言った。


「さあどうぞ。召しあがれ」


 久しぶりにありついただろう庶民の食卓メニュー。特に皿に山と積まれたソーセージが気に入ったみたいで、ウルは夢中でパクついている。

 まあ俺も今まで干し肉とか野草のスープくらいしか提供できなかったし。ましてイナゴの佃煮なんぞよりはるかにマシではあろうが……。


 (『ウル、誰も取り上げたりしないからゆっくり食べなよ。胃袋がびっくりしちゃうよ』)


 (「……だいじょうぶ。しっかり食べて、もっと体を鍛えて強くならなきゃダメでしょ」)


 (『まあ食欲旺盛なのはありがたいんだけどね。あまりガンガン鍛えると、小人族ハーフリングとしては体が大きくなり過ぎて、将来嫁の貰い手がいなくなるぞ』)


 (「いいよ、べつに……。そうしたら若づくりを好むヒト族の囲い者になるから。人間の中には外見的に幼い容ぼうを好むひと達がいるんでしょ」)


 (『ええ?! ウル、そういう特殊性癖のヤツラはアブないぞ。変態野郎じゃないか。それこそ何をされるかわからない。危険すぎる。やめた方がいい』)


 (「だから気にしなくて良いってこと。一人で生きて行けばいいんだから」)


 どこか不機嫌な口調でウルは食事に集中し、黙って反応しなくなった。


 (ちぇっ……)

 無視された俺は、かまど付きの小さな厨房に向かってお茶を淹れる準備をしているオハラの背中を見ながら、ふと思う。


 『(オハラはふくよかな癒やし系の女性で抱擁感があるな。まだ年若だが、こういう人柄の持ち主ならウルも母親みたいな気持ちを抱いて、慕うようになるかも…………)』


 ――ところが、ウルの警戒心は俺の発想の斜め上を行っていた。


 (「師匠っ」)


 (『! あ、ウル。もう食べなくていいのか?』)


 (「……ホタカ、オハラさんをそんなに見つめちゃダメ!」)


 (『ええっ?! どうしたんだ突然?』)


 (「あの女のひとってホタカのお師匠さんと似てるけど、別人だからあきらめなくちゃ」)


 (『なっ……ち違う違う、ぜんぜん違うね。キミは俺のこと、胸の大きな女なら誰でも見境なしって人間に見えるのかい? 優しい美人には違いないけど、それ以上の感情は無いよ』)


 ――それに、じっさい師匠はもっと野趣に富んだキツイ感じの女性だった。

 オハラとは似ても似つかない。とてもとても。


 その時かなり大きなノックの音が続けざまに鳴る。オハラの態度に緊迫感が表れたのを俺は見て取った。


「オハラ、オハラ居るんだろ? 入ってもいいか?」


「ケネス?! 待って。私が外へ出るから」


 俺たちに「ちょっと話してくるから、このまま食べていてね」――――

読者の皆様へ。

ここまで読んで頂いてありがとうございます。


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