2 さっそくだけど、もう遅い!
「いまになって……魔法の杖といったって、他のひとにも使えませんよ」
「腐っても魔法具だ。売っちまえば幾ばくかにゃなるだろうぜ」
底意地の悪そうな笑みを浮かべ、巨漢のバノンが迫る。鼻で嗤う他メンバーの気配がした。
「お、親の形見なんですっ」
「だったっけ……でも関係ねぇな、身ひとつで出て行け。役立たずの無駄めし喰らいのせいで、こっちはだいぶ諸経費で大損だしちまってるンでな」
(散々コキ使っておいて……)
完全な言いがかりだった。重労働も含め、細々した雑用もきちんとこなしてきたし。
現にノロマ・無能などの罵声はやたら浴びたが、リテイクを命令されたことは一度もない。ボクは悔しさを噛みしめる演技をしつつ、ハッキリ告げた。
「…………いやだ!」
バシッ、鋭い音をたて、目の前に木の棒が叩きつけられた。ボクは反射的に飛びのいてよける。リーダーをはじめ他のパーティーメンバーも、色をなして一斉に立ちあがった。
「……素性が分からん身よりもねぇ、タダの無教養なガキかと思ったが。…………どうやらとんでもねぇ見こみ違いだったみてぇだな。金を受け取らなきゃ署名しねぇだと」
真っ赤な顔のバノンが、目を剥きながら怒鳴り声を張りあげた。
「 ふ っ ざ け ん じ ゃ ね ぇ よ !! 」
ビリビリお腹にひびくほどの咆哮。身の危険を感じたボクは、肩にかけていた袋を体の正面に抱えこんで身構える。
しばらく睨み合い状態になったが、やがて憎悪かたまりだったリーダーが、ふと気抜けたみたいに表情をゆるめた。
「フフッよくわかったぜ。かわいそうによ……小利口そうなてめぇになら、本当のことを教えてやった方が楽しいだろうぜ」
「ほんとうのこと……?」
「てめぇもワイバーンは知ってるな?! あの馬鹿でかい猛禽ヤロウだ」
ーー『無論よく知っているぞ。ワイバーンに限らず、ここらで〝竜〟って呼ばれてる生き物のほとんどが爬虫類じゃなくて、鳥類ってことに目からうろこが落ちる気分だったね。それで研究した』ーー
「実はよ」
バノンの背後から、冷めた笑み湛えたベテランのサーハンが進み出て、続けた。
「ここいらはな、ある親鳥に率いられたワイバーンの群隊が休息場にしてる。その一家は決まって夕暮れ頃やってくるから、エサを置いてく手筈さ。それが、おまえだぁ」
話しがいきなりハードな展開を見せ、驚いて確かめる。
「ボクは〝追放〟するんじゃなかったの?」
「ああ、てめえはあくまでも〝追放〟処分なんだ。あくまでも表向きはな。じゃなきゃ後でいろいろ不都合が生じるんだ。その後は自由意志で別方向に去っていった。ギルドへの報告はそれで片づくって寸法だ」
「その手口で何人消したのさ」
むくつけき男二人が、薄ら笑いを浮かべて顔を見合わせた。
「そんなこと、今さらテメェが知ってどうする?」
「否定はしないんだね」
「……まあ、冥土の土産だ。…………これはウチの副業でな。身内のいねぇ徒手空拳の若い冒険者から身包み剥いで、後腐れないよう処分すると。まあ、そーいうワケだ」
(こいつら、全然かくす気もない。ホントどうしようもない……)
身を硬くしたボクの中で
――(『やはりクズ野郎共だな。もういいだろう、ウル』)――
師匠・ホタカの声が響く。
(『潮時だよ。夕暮れどころか、今すぐにでもここいら一帯がワイバーンのえさ狩り場になるぞ。これ以上は危険だ』)
「 ほんとう? 」
「あったりめぇだ! とっとと杖をよこさねぇと……」
「うるさいなぁ、あなたじゃないっ」
勘違いした新米のむだ吠えをはねつける。根が小心者らしく、顔をひきつらせて黙った。
――このルーキー、分ってるのかな? 次は自分の方が〝処分〟されかねないって話でしょ。
ここから次第にボクの意識は吸い込まれるみたいに薄れ、換わって浮きあがってきたホタカの意識が身体の主導権を握って、最終警告をはじめた。
『――おまえら、それもうバレてるぞ』
「あん? なーに言い出してんだ、てめぇは」
『ギルド長から内定調査の依頼がでてるのさ。この集団は裏でどえらいことをしでかしてるブラック・パーティーで、証拠をつかんでから一気に処分したいと。まあ、そーいうワケさ』
連中の顔から、サ――――……、と血の気が引いてゆく。
「こっこのチビ、さっきまでと口ぶりから態度や顔つきまで変わりやがってよっ」
『そんなことよりおまえら、足りない頭で考えるよりずっと早く猛禽どもはここへやって来るぞ。さっさと逃げた方が良くはないかね?』
「知ったかぶンじゃねえ! ヤツらは行動パターンが一定だ。親の元で統制が取れて――」
『……ワイバーンの親鳥は、俺が〝シャサツ〟した』
読者の皆様へ。
読んで頂いてありがとうございます。
次は8時頃更新の予定です。
この小説を読んで「面白そう」「続きが気になる」
と少しでも思ってくださったら、本文下↓の☆☆☆☆☆⇒★★★★★評価やブックマークで応援して頂けますと幸いです。
みなさまの応援が、作者のモチベーションにつながります。
どうぞよろしくお願いします!