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17 お師匠さんのお師匠様は、すごい美人で胸も大きい


「最強? なりたきゃ私の実践講習を受けなさい。羆どころかアフリカ最大でもっとも危険な猛獣を、指一本で倒せるから」



 突然ボクの耳に声が響いて、ホタカが持っている火花杖とそっくりの杖を構える女の人の姿が見えた。


「ミノル。他人の肉体を打ち砕く技に、どんな意味があると言うの? どれほど鍛え上げても、しょせん人間の体はバナナみたいに脆くてたかが知れたもの。あなた、そう考えて格闘技への情熱を失ったんでしょう」


 『ええ。たしかに世界最強の格闘技チャンピオンをつれて来ても、若い羆一頭・ツキノワの若熊にもかなわんでしょう。一旦そこに思い至ったら、もう人間の中で誰が最強か? なんて馬鹿らしくてどーでもよくなりました。やってられませんや、師匠』


 続けてホタカはこう言った。


「鍛錬は健康を維持できる程度でいい。俺に羆撃ちを教えて頂けますか? お願いします」



 このひとが……ホタカのお師匠さま?!



……女……だったんだ…………。



 ホタカが〝師匠〟と呼んでいたのは、長い黒髪の女の人だった。しかも美人で若くて、胸が



 …………すっごく大っきい ……………………………………………………。




 対してボクの小さな胸はチクチクと痛んで、それがホタカにも伝わってしまった。


 『 おいおい、お嬢さん。…………どうしたっ?! なンなんだ、この心境はっ? 』


「わかんないよ!」


 ボクはかぶりを振って身を縮めた。胸が締めつけられ、どうしようもない気持ちになって、それは師匠の方へとそのまま流れ込んでいく。


 ――驚いたことに、本来まるい形状をしているウルの心が、朱鷺色を帯びたハートの形状へと変化していくさまが、俺にはハッキリ感じ取れた。


 目に見えるわけじゃないから説明は難しいが、感覚は感覚。


 しかもウルの身体に合わさっているから動悸まで激しくなってきて、押し寄せる少女の感情の渦に呑みこまれそうになる。


 『ヒイャアァ――、よせって、やめてくれ! なんて妙な気分なんだ……コレってっ……』


「だれかさんが、お師匠を好きだったせいじゃないのっ!」


 『(まずいな)』


 ……これはほんとうの嫉妬、ジェラシーだ。切なさ、煩悶、しゅう恥。憧れ。


 そして心の片すみに残る、僅かな自己嫌悪――――。


 だが勘弁してくれ! 歳がまったくつり合わんっアブだぞ、少女。



「今のあなたがサコーを持てば、ヒグマどころか相手が悪鬼羅刹・魔王でも倒せるわ」



 ――こうして30歳に達した俺は、すぐにライフルの所持申請を提出して射撃実技講習を受けた。

 やがて国内でもっとも手強い猛獣だったひぐまを標的と定め、北海道へ移住する。

 地元のベテラン猟師に弟子入りして知識と経験を積み、5年目までには二十数頭を捕獲するに至った。


「弟子入りって、その師匠があのヒトなんでしょ!」


 ブロークンハートした少女からは、涙目でプンスカといった感情が伝わってくる。


 『……たのむから、話のこしを折らないでくれる?』



「いい?! あなたみたいな人を、唯銃主義者というのよ」


「たしかにサコーはいい銃だけど、私のプリ64に比べるとねぇ」


「マグナムの威力だって当たればの話でしょう。正確に急所に撃ちこめれば、この30―06だってアフリカの大物猟でも充分通用するんだから」


「世の中にはあなたのマグナム・ライフルよりも遥かに威力のある携行兵器はいくらでもあるのよ。プンツァー・ファウストとかスティンガーとかジャベリンとかね」


「法令で持てる範囲でとか、416リム・マグのボア・ダイヤなら日本の法規に適合するからOKとか、そんな替銃身に飛びついた発想をするのは、あなたみたいな人間だけよ。

 北海道のトド撃ち猟師が416の所持許可を取ったけど、反動がデタラメに強いものだからすぐ嫌になって取り下げたらしいわ。要は実用的じゃないのよ」



 『師匠。………………俺と一緒に暮らしませんか? ……………………』



「私って、それほど寂しい女に見えるのかな?」




「もういいわよ。…………男は」





 ――情報の垂れ流しは、止めようとするほどにあふれ出しちまうものらしい。


「ホタカって、お師匠さんに告白までしてたんだね!?」


 『 やめろ、やめい!! 』


 ――、くぅ~~~~~、恥ずかしい。覚悟はしていたが、やはり顔が火を吹きそうだ!


「がんばって口説いたのに子供あつかいされて! かっわいそう~、ウッフフフ…………」


 おっさんの弱点を知った少女は、わが意を得たりと言わんばかりに腹を抱え、体をゆすって笑っている。ムゥカ、とした。


 泣いていたと思ったらさも愉快気に笑い出したり、この年頃はせわしないことだ。

読者の皆様へ。

ここまで読んで頂いてありがとうございます!


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