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15 やりたくはないが誰かがやらねばならぬこと

 これまでの過剰な保護で増えすぎた羆が、ついに制御しきれなくなったのでは? とやらのウワサは確かにあった。

 それまでは人身事故が起きるたび、毎年ドングリやコクワなど山の木の実が不作だったせい。と逃げ口上みたいな発表でお茶を濁していたが。…………


 どうやら、キャパオーバーのせいで本格的なヤバイ状況になってきたらしい。


 ――ウルは黙って俺の回想を見、話に耳を傾けている。異世界の状況だからすべての場面に理解は行き届かないかも知れないが、大筋はつかめている様だ。


 『そこで俺も国内最大の肉食獣である羆を標的と定めたんだが、初めて〔師匠〕に会ったのは三十歳を目前にした頃だ』


 時はながれ北海道へやってきて5年目。人間の裏をかきながら牧場や果樹園を襲い続ける、特異な個体が現れた。


 『〝蝦夷権太〟そう名付けられた350kgオーバーの大物を、知恵くらべのあげく追跡して仕留めた時、俺はこれでもう十分だと思ったんだ』


 ――羆の行動を先読みして風下から背後へ廻り、勘づかれることなく急所を射抜く。


 これは昔から北海道で生きてきた縄文人ハンター達の流儀だった。


 彼らは犬も使わぬ単独猟が基本で、たとえ集落から出かける時は一緒でも猟場へ着くと別れて、各々が自由に行動する。

 羆の生態を研究しつくして行動を予測し、先回りして獲物を待ち伏せるのだ。


 その際は必ず背後風下から接近し、尻めがけてトリカブトの毒矢を打ち込む。


 すると痛がり屋で臆病な羆は脊髄反射的に前方へ走り出してしまう。

 急激な血流に乗ってトリカブトの毒が心臓へ達して意識を失い、二度と目覚める事は無い。


「そのヒグマが、ホタカの生まれた世界で一番手強い森の魔獣なの?」


 『ああ。ちなみにちょうどその直後、火花杖でなく罠を使う方法で、俺が捕獲した以上の数の羆を仕留めている年下の女と知り会って、へこんだことがある』


「また女?!」


 『えっへん。……これはね、ドラム缶という筒2つを繋げて作った箱わなの中に蜂蜜とブランデー混合のおやつを仕込んで誘い込み、捕らえるという方法で、安全確実に捕獲するんだ。


 トドメは電気銛という魔法の槍を突き刺して、簡単に息の根を止めてしまう。


 火花杖の場合、狙いを外すと逆襲をくらって返り討ちにされたり、仕留めそこなって半矢で逃がすと人間を恨んで、他の人を襲ったりする事もある。

 つまり箱罠は、そういった危険を完全に排除した、最も安全確実な猟法って訳だな』


 箱罠は、人間の弛まぬ工夫が結実した魔法の拘束空間と言えるかも知れない。

 

「要するにホタカが生まれ育った世界って、女の人の方が強くて優秀な冒険者だったの?」


 『…………うん。……』


 そうして追い続けた羆を斃して目標を失い、なんとなく宙ぶらりんの状態で過ごしていたある時、俺は〔古代生物博物館〕という施設を訪れた。

 俺の生まれ育った世界(地球)で遥か遠い昔に栄え、今は絶滅した生物の化石や《恐竜》と呼ばれる巨大生物モンスターの骨を展示している場所だ。


 ――ボクの心の中に、ホタカが生まれ育った世界のイメージが流れこんでくる。

 

「うわぁ、なにこのバケモノ! 骨だけなのに、すごい迫力!」


 『そうだろう。大昔はこれに肉のついた生き物が、うようよ歩いていたんだ』


 ボクもホタカと同じ場所に立ち、そのモンスター・ティーレックスを見上げた。


 『確かにでかい。大きいが、撃ってみたい。コイツの体重はおよそ6から9トン前後だったというが、アフリカ象の最大体重記録は11トンだ。……サコーで倒せぬはずはないだろう』


 大昔のアフリカ象ハンティングの映像を見ると、ダブルライフル600ニトロ・エクスプレスなどといった、300ウィン・マグどころじゃない威力のダイナマイト弾を、獲物の頭にぶちこんで豪快に倒す場面が見られる。


 だが本当はアフリカ象にも弱点があって、耳の後ろ側にあり抵抗少なく脳に届く急所へ正確に撃ちこむ腕前があれば、口径30―06の自動ライフルでも倒すことは充分可能だ。


 昔、機械のような正確な動きで得物を仕留めるハンターの様子をTVニュース番組の特集で見たことがあった。

 前提として象を保護する一環から、少数の個体を間引きせねばならない事態に陥っている。


 彼は自動ライフル一丁を持って群れの前へ躍りかかり、踵を返して逃げ惑う象たちを背後から次々と撃ち倒してゆき、その場面も流された。


 ところで、のちの撮影クルーと彼のやり取りが面白かった。


 『どんな気持ちがしますか?』


 『 最初は緊張しますが、すぐに慣れますね 』(淡々とした様子)


 『……かわいそうだとは思いませんか?』


 {質問の本当の意味をやっと理解する}

 『 ――無論、可哀相。(困惑顔)…………でも、仕事だし 』

読者の皆様へ。


ここまで本作をお読みいただきありがとうございます。

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