12 なにごとにつけ初体験はドキドキものです
「それがコレの名前?」
(『……まあ、そうだな』)
「名前つけてたんだぁ。かわいい……飼い犬みたい」
(『ふふん、おかしいか?
(メーカー名と商品名。俺がつけた名前じゃないけど)
だが例え器物でも大切にしていると魂がやどって、ちゃんと持ち手の期待に答えてくれるんだよ』)
「ソレほんと?」
(『本当だとも。幾度も助けられた』)
「あはは……さすが魔導具」
俺は基本中の基本からはじめた。
(『杖を手にしたら、発射口(銃口)は常に空に向け、人のいる方向へは絶対向けるな。もちろん自分が覗いたりするのも厳禁だぞ』)
「えっ、うん。…………だろうね」
(『それからこの下の、小さなレバーをとりまく丸い金具。用心金と言うんだが、術を発動させる直前まで、この中に指を入れてはダメだ』)
このほか安全に関する細かい注意事項はいくらでもあるが、そうなるときりがない。
安全装置と言っても少しの衝撃で暴発しやすいからあてにはならず、かといって脅威が目前に迫ってから弾込めするのではモンスターやらこの世界特有の危険な存在に対する即応性が失われ、現実的ではない。
そこで暴発予防のため、弾倉に4発弾を押しこんだ上で薬室は空にしたままボルトをあげて閉鎖し、発砲直前にあらためてボルトをあげ、弾倉内の弾を薬室へ送りこむ――をあとで教えることにする。
(『ゆっくりやるから、よく見ていてくれ』)
俺はボルトを起こして引き出し、弾倉の中に実弾を一発一発込めていき、最後の一発を置いてボルトを押し上げ薬室へ送り込み、ボルトを下げて閉鎖した。
(『まず、〔膝撃ち〕で構えてみようか』)
「うん」
座った姿勢なら狙いが安定する。立射では強すぎる反動のためにバランスを崩し、愛銃を後へ放り投げてしまうかもしれない。
ウルを指導中、俺たちは身体の神経を半分ずつ分けあっている。
四肢を動かすさい、少女は俺の意識の方に身をゆだねるので、周囲から手取り足取り姿勢を正すのと変わらない。
(『上の小さい筒の中を覗いてごらん。丸い視界の真ん中、十字線中心に標的を重ね、姿勢を固定させて』)
「はい」
(『床尾板には肩を密着させること。ホンの少し離れているだけで、反動で打ちつける結果になって、すごく痛むぞ』)
「う……うん」
〈トックントックントックン〉……ウルの心拍が増してくる。
《痛み》というワードに、ウルの心理は敏感に反応したようだ。
マズッたかな?
(ホタカ、ホタカ。大丈夫かな、おっかないよ)意識がダイレクトに流れこんでくる。
不安を感じても無理はない。俺は、その心に寄り添う。
(『がんばれ。ゆれててもいい。真ん中に合ったタイミングで、後ろにレバーをよせる』)
ゆっくりと引き金をしぼった。
すさまじい破裂音とともに、発射口の前に一瞬ひと抱えの炎球が出現する。俺たちの鎖骨に膨大な圧力が襲い、銃身が跳ねあがった。
(きゃっ、ひゃう!)
(『 投げるな!! 』)
銃を後へ放らぬよう、左手の平に渾身の力をこめて制御する。
銃身は垂直に近い角度90ほども上がり、どうにか止まった。
「 わはあっ! 」
ウルが叫んでがばっ、と逸れた上体を元へ戻した。
肩で息をして喘ぎ、緊張から解き放たれたのか爽快気な薄笑いを浮かべた。
(『パットが入っているから。肩つけもしっかりやっていれば、反動自体は押さえ込む必要はない。体重不足の小さな体なら、威力は受け流せばいいんだ』)
本当は両肘を平らな箇所につけて固定すると、もっと狙いは安定するのだが、受け流すことが困難になって肩や腕の付け根がダメージを受けて内出血し、あげく真っ黒になったりする。
立ちあがり、仮の的にした50メートルほど先まで歩いて行って、標的の南瓜を確かめた。枯れ立ち木の上に据えたそれは、見る影もなく粉ごなに飛び散っている。
「…………ほわあ~~~~~~~~~~~~~~…………」
(『まあ、これが火花杖の威力っつうか、効果なんだが。どうだった?』)
「レバーが遠い。…………腕が伸びきって、なんかこわい」
(『ああ。だったよね、やっぱ』)
……俺は少女の体格やリーチを考え、涙をこらえつつ銃床を切り詰める決断をした。
まあこれはデフォルト品で、なにも俺にあわせて特注したものじゃない。
たとえ俺の経験や知識を共有することはできても、この体はウルのものだ。
俺の意識の方が表面にあらわれ主導権をにぎったとしても、銃床下遊底部分に左手が届かんという状況は変わらない。
一時的に筋力は増強するがそれでカバーできるものでもない。
そもそも、射撃体勢が取れないからだ。
(『あらかじめアイ・リリーフの長いスコープを使っていて良かった。デリケートな小さな顔に、はねあがったスコープをぶち当てたらエライことになるから』)
「 そう? ………責任とってくれるなら、ボクはかまわないんだけど 」
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