11 おっさんは自らをさらけ出して少女を口説く
自分自身のすべて、半生をさらけ出さずに、この子の心を開かせるの不可能なようだ。
(『ウル。俺の過去を見てみないか?』)
「えっ……!!」
思いがけないことを言われ驚いたのか、彼女の動揺をしめす針が大きく振れる。
「い……いいよ、べ、べつに、興味ないもの…………」
(『俺にはキミの過去が大体わかる。感情の動きもふくめてだ。不公平だとは思わないか? 興味や関心なくても把握しておいて損はないだろ』)
「うっ、…う………」
『(当然、知りたいと思っているんだ。この歳なら好奇心も盛んで、見たこともない世界への興味だってつきないはず。本音をかくすのは、少しでも弱みを見せたくないからだろう)』
ここからが本番だ。
(『ウル。目をつむって』)
彼女は瞼を閉じた。俺が睡眠導入する手段を講じると、急速に目蓋は重くなる。
眠りは浅くて表面意識下。
これでウルの生命本体に直接ふれて交流を図れるだろう。
「あっおじさん……」
俺たちは夢の中で再び向かい合った。俺は少女の前まで歩み寄り片ひざをつく。
『じゃあ始めるよ』
俺は彼女の側頭部・こめかみ・頬にかけて両手の指先をあてる。
最初ウルは少し顎を引き、上目使いでこちらを凝視した。
潤いを湛えた目の光が小さく揺れ動き、脅えを覗かせる。
彼女の警戒心を解きほぐすため、やさしく声をかけた。
『怖いことは決して起こらないから、どうか信頼して欲しい。…………気持ちを楽にして』
ゆっくり瞼を閉じ、少女は幼いながら覚悟を示してくれた。夢の中でも目を閉じてもらうことで、さらなる潜在意識下へ働きかけていく。
『ふたりは、一人だ……』
ウルは鼻から長く息を吐き、同時にお腹を凹ませる。
みずから力みを捨て、開錠した印しだった。
この子は勇気がある。俺の世界で言う、まな板の上の鯉という心境へ自らを置きにいく。
『 安心していい。そのまま心に構えるものを設けずに、リラックスして 』
『……――――俺は――――――――』
「――――ボクは――――――……」
――――ボクと俺―――― 意識が重なりシンクロする。
互いの記憶が相互に流れこんで、再現されていく――――――――――……。
靄のかかったおぼろげなトンネルをぬけると、視界の先が僅かずつ鮮明になってくる。
記憶をもとに俺の視点で展開される〝あの世界〟の人や乗り物・天を衝いて林立する都会の摩天楼。
町や風景などは、予想通りウルの心に大きな驚きをもたらしていた。
『この世界の魔導師達が、古代から存在を指摘している伝説の異世界〝エルデラン〟だよ』
親父やお袋。子供の頃の友人達や、学校の先生などの顔・姿の記憶が走馬灯のように再生されてゆく。
俺自身、しみじみ
(あの頃はこうだったんだ……!)そう感慨深い気持ちで眺めていた。当時抱いた気持ちまで思い出すことができる。
決して見られたくない。
そう思って隠してきた恥ずかしい記憶は、俺の心を激しく突き刺し苦痛を与えた。
一方でしまってあった大切な想い出は、俺の気持ちを温かいやさしさで包み込む。
「ホタカには、ちゃんと父さんや母さんがいたんだね」
『ああ。そうだよ』
少女は立ちつくし、回想にじっと目をむけながら涙を流しはじめる。
「……よかった…………」
頬をぬぐいつつ言った。
思いがけない反応。これほどまでとはな――……
…………この子は、ウルは本当に心がきれいな子だ。そう再認識する。
『俺は苦労知らずでドラ息子だった。キミを知るほど、俺は自分が恥かしくなるんだよ』
「どうして? 親が両方そろってて大切に育てられるのって、すてきなことじゃない。孤児から始める人生なんて、だれも望んで選んだりしないよ」
『うん…………そうだな。俺は幸せ者だった。神様に感謝しなけりゃな』
安心した。
ウルの気持ちはずいぶんと晴れ渡ってきている。やはり自分の過去を全部さらけ出す方法が、彼女の心をとらえたようだった。
『ウル。実践に勝る勉強はないんだ。キミ自身で杖の力を行使してみないか? 習うより慣れろっていう言葉通りにね』
翌朝。
ブイヨンスープと干し肉を主体にした軽い朝食を摂ったあと、俺たちは大小の岩がころがるエアープランツもどきな植物しか見当たらない荒地をしばらく歩き、杖の発動(試射)ができそうな場所へたどりついた。
この辺は開けた地形で遠くまで見通しが利き、見渡せる限りにおいて人影などは確認できなかった。
革袋をといて中のものを取り出す。
初めて《魔法具》の全体を目の当たりにした少女は、しげしげと見つめている。
この世界に存在しないデザインの品だから、珍しいのだろう。
俺は火花杖をさして《サコー・ハンター》だと紹介した。
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