10 亜人少女はなかなかに頑固な子だった。
(『なあウル、まずは心を落ちつけて聞いてくれ。……正直に告白する。俺はどうしても数種類のドラゴンを数頭ずつ仕留めて、故郷へ帰らなきゃならないんだよ。だが俺は途中でヘマをして行き倒れちまった。他人の身体に意識を移せるのは一度だけで、もはやキミにお願いする以外の選択肢はない。協力して欲しい』)
「アレは自然災害みたいなものでしょ。人がドラゴンを殺せる、なんて物語りの中だけで、実際は聞いたことないよ。上級冒険者でさえ無理! ましてボクには絶対できない。逆に殺されちゃうよ」
(『いや。その火花杖を使えばできるから、信頼してくれ。あとはキミが俺の指示通り、扱い方を学びながら体を鍛えていけば、必ずいけるよ。そのうち成長期になれば身長だって伸びてゆくだろ』)
「ふうっ……」少女はワザとらしく肩を落とす仕草を見せた。
「それじゃなおさら絶対ムリだね。生憎ボクは小人族だからさ!」
(『 なんだってぇ?! 』)
俺は反射的に自分の、もといウルの耳を触った。ヒト種のものと形は似ていたが、上の部分だけが明らかに尖った形状をしている。
――おいおい、衝撃の〝新事実発覚〟第二弾かよ!
〝小人族〟は幾つか亜種がいる。
大まかには頭部と比べて身体の小さなドワーフに代表される種族、そして全体的に小柄で成人しても子供みたいな体型を保つ者。
ウルはこっちなんだろう。
ある年齢に達するまでは、いわゆる標準ヒト種の未成年――十代前半くらいまでと判別がつき難い。
「ボクたちハーフリングの体は、いくら食べて鍛えたって強くも大きくもならないさ。ヒト族がよくいう〝万年幼児体型〟だから。なんにも知らないんだね」
また責めたくなる気持ちをぐっと堪えた。ウルのせいじゃないんだ。俺自身のミスだろう。
(『…………しょうがない……じゃあないか。たとえそれが事実でも無理は承知でやるしかない。誤解を怖れず言わせてもらうけど、ガチャで唯一引き当てたのが、キミなんだから』)
「がっ、ちゃ? ……!? だから出れば? 他所へうつればいいじゃん」
〈――――ムカッ〉
(『それは言わない約束だ。つか、できるなら苦労はないともオレ言ったよね!?』)
――いけない。ついついこっちも焦って感情が先走り、言葉が追及口調になっちまう…………まずい。これじゃだめだ。まったく逆効果じゃないか。
……それにしたって、前夜までとは別人みたいだなぁ。
ハーフリングの民族性に詳しくはないが、ひょっとしてこっちが少女の本当の性質なのかもしれない。ハッキリとものを言い、ド直球でストレート。芯の強い子なら鍛えるかいもある。
いずれにせよ、機会は一度きりだった。
サイは投げられたんだ。
彼女の、この小さな身体にすべてを託すしかない。
俺はウルに自分を賭けた。何としてでも、彼女を一人前のハンターに仕上げなけりゃ。
この後しばらくは少女をそっとしておいた。
感情を波立たせないように。
ウルは膝をかかえたまま、気分がたそがれている。
この年頃の女の子は非常にデリケートなようだ。それこそシーモンキーみたいに。
なんとか因果を含めて、説得したいが。
(――――自分が自分じゃないみたいな気持ち。おじさんにはわからないよ。――――)
心を閉ざそうとするように思考を止めていても、彼女の葛藤が伝わってくる。
自分だけ一方的に心の中や生活を覗かれる恥ずかしさ、過去を暴かれることへの恐怖も無論あるだろう。
プライベートを失った人間の抑えきれない焦燥感。
考えあぐねた俺はヒントを得たくて、少女の過去の記憶すら引き寄せ覗いちまってた。
ウルよりも、さらに歳若い幼い子供の顔が幾人か浮かんで見える。
……ラセル レベッカ グンナ ジオルト ポポフ。 …………
ぼろい身なりをして、いずれの子も痩せていた。
みんな笑顔の少ない――
……というより暗く、悲しげな表状や憂鬱そうなときが多い。
そうしているうち俺にも彼女の境遇が少しずつ判ってきた。どうやら彼女は孤児院のような収容施設で暮らしていて、そこを逃げ出したようだ。
生命の危険すら感じた末のことらしい。
瞼の裏に年少の子供たちの姿が焼きついているのは、彼らに対するウルの心残りを物語っているんじゃないのか。
少女の境遇を知るにつれ、俺自身の中で別の意味で羞恥心がわきおこる。
考えてみれば親の遺産や多額の投資信託からもたらされるあぶく銭(配当)など不労所得のおかげで食いつなぎ、ひたすら道楽を追求してきた俺は、ウルや仲間の子どもたちが直面した人生の苦難を味わったことがない。
やはりこのアンフェアな状況を放置して、彼女の協力を得るのは難しいだろう。
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