1 今どき追放って?!……そりゃないよ
突然、背中に何かがぶつかった。
振り返ると、つい一週間前に入った新米がニヤニヤうす笑いを浮かべつつ
「オイ、それ捨てとけ!」と言った。
「なんだ、どうした?」
ベテランのサーハンが訊いたのは、当然ボクじゃなく新入りの方。
「いやなに、クズ野郎にゴミ捨てとけって命じただけで」
周りのメンバーがどっと爆笑する。
「クズにゴミなぁ……こりゃいい。お前、早くもパーティーの気風に馴染んだみたいだな」
他のメンバーたちも褒めそやす。
「ジュペルは飲込みが早ぇ」「即戦力じゃねえかよオメー」「さすが期待のルーキーだぜ」
新入りは、
「ウッス! ありがとうございます!」
嬉しそうに頭をさげた。
本当に空気を読むのがうまい、というか変わり身も早い。
あれでも入った初日には
「よろしくおねがいしまッス!」なんて、チビで雑用のボクにさえ頭をさげてたんだけど。
(ヤレヤレ……)
腹が立つよりも、呆れて苦笑い。ここでは、ポーターなど彼らが底辺メンバーと判断した者を虐げる。そうしてマウントを取ることが自分のランクを高め、固定化できる仕組みができあがってるみたい。
このパーティのボス、バノンは一応エレクトラム級のベテラン冒険者だけど、危険なモンスター相手の仕事はあえて避ける方針みたいだ。
そんな今回のクエストは、フロウレンという村の周辺で大量発生したスライム討伐。
種類にもよるけど、触れたものを溶解・同化したり、特にこの村近くで発生したやつは巨大化するとかで、芽のうちに摘んでおかないと全域が非常にまずい状態となる。
難易度が低い仕事とはいえ、今回は数が多かったのがネックではあったけど、なんとかすべての個体を駆除し終えてギルドへ帰還している途中だ。
「よし。ここら辺で小休止といくか」
砂漠みたいな風景が広がる、吹きっさらした盆地の真ん中。
――……なぜこんな何もない、だだっ広い場所で休息するんだろう…………?
ピリピリと嫌な予感がした。
このパーティー内では、ひたすら黙々と雑務をこなすボクへの関心は基本的にゼロ。普段からぞんざいに扱われていたけど、今は妙な視線を感じる。
〈チク、チク、チク ……〉
冷たい空気が周囲を取りまいているというか。
作業しつつさりげなくメンバーたちの様子に意識を向けると、円形に向かい合いながら会話もなく手持ちぶたさ気に休んでいる。
いつもなら、たちまちくだらない内容の馬鹿話をはじめて、一斉に下品な笑い声をあげたりするんだけど……いい加減間がもたないんじゃないのかな?
やがて伏した眼でちらちら互いに目配せするしぐさを見せたりして。
――来る!!
「おい、チビやろう。お前も、ちょっとこっちへ来いや」
顔を向ける。仕事を中断して立ちあがり、黙ったまま無表情で歩み寄る。
「モタモタすんじゃねぇ! とっとと来い!」
口角泡をとばして新米が叫ぶ。褒められて調子にのり、もはや何年も所属しているベテランみたいな横暴ぶりだ。
「チビ公……おまえはな、追放することになった。理由は役立たずの上〝無能〟だからだ」
リーダーのバノンが言い、懐から取り出した羊皮紙をボクのまえに放り投げた。
見ると内容は――
(『本文、〔荷物持ちおよび雑用係〕私は契約条件を著しく履行できず、雇用者に対し給与に見合う労働成果を全く提供することができませんでした。
遵って、雇用期間満了を待たず雇用者に契約の解除を申し入れ、これを了承されました。
尚、本日雇用期間分までの給与はギルドの日割り計算に基づき雇用者から支給され、これを受領済みであることを追記いたします。以上: 署名
……だ っ て さ』)
「てめぇは人様の字なんぞ読めねぇだろう。いいか、文面は――――」
「わかりました。署名します」
バノンは眉をしかめた。
年齢・種族・境遇を考えても学がないはずの子供が、ヒト種の文字を習得してんのか? ありえねぇ。――疑問に思ってる感じだ。
「ただし、今までの給料を実際に受けとってからでないと、署名はできません」
「チッ」
憎々しげに舌打ちした。内容を完全に理解していると、ようやく納得できたんだろう。
すぐ気を取り直したみたいで、リーダーは続けた。
「いいとも。ところでな、こっちにも条件があるんだ。……てめぇが後生大事に背負って離さねぇ袋の中身――それと引き換えだ」
「えっ」
ボクは肩にかけている長い革袋を持ち直しながら、強く身体に引きよせる。
これは古い魔法の杖で、両親からもらった大切な品……そうかねてから説明していた。
「杖をよこせって言ってんだよォ。チビで無能の小人族にゃ必要ねぇだろうが!」
空気を読む名人・期待のルーキーが、また嵩にかかった調子で怒鳴った。
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