数をこなして慣れるべし
あれから2週間ほどが経ち、日々のルーティーンにも慣れつつあった。
奏さんから任される仕事は、
クリーニング店への引き取り、郵便局での書類の郵送や部屋の掃除・炊事・洗濯などの
まさに「お手伝いさん」の仕事といったものだった。
前の会社では、処理する書類やメールなどがない時間は暇で暇で苦痛すぎて
座椅子の毛玉取りなどをして時間をつぶしていたが、やるべきことが終われば一等地の高級マンションから外の景色を見ながらゆっくりコーヒーブレイクなんてこともできる。
「転職、大成功やないかい・・・。」
エスプレッソマシンで淹れたコーヒーを啜りながら、干した真っ白なシーツが風にたなびくのをぼんやりと見ていた。
ブブッ
社用携帯!と言って渡された今のところ奏さん専用のスマホから着信音が鳴る。
”シャワー浴びて化粧して30分後にエントランス集合!”
(30分で女子がシャワーと化粧を終えられると思ってるなんて
この人女心わかってるのかわかってないのかどっちなんだ・・・)
なんて余計なことを考えながら私は急いでシャワーを浴びた。
「お待たせしました」
エントランスに降りると作業スペースのようなところでPCに向かって何やら難しい顔をしている奏さん。こちらを確認するとパタンとPCを閉じた。
『ちょっと買い物につきあってほしくて。』
そう言ってキーをくるくる回す奏さんの後ろをついてマンションの地下駐車場に行くと
高級外車・高級外車・高級外車・・・。
絶対にやらないけどこういう車を一度ボコボコにしてみたい、と考える私の横顔をジッと見る視線を感じる。
『なんか変なこと考えてるでしょ』
「な、なんでわかったんですか。」
『変な顔してた。』
変な顔て・・・。
そうこうしてるうちに奏さんが乗り込んだ車の助手席に私も乗り込むと、
奏さんのコロンの香りとかすかな煙草の匂いが鼻をくすぐった。