酒は飲んでも飲まれるな・・・べし
『男前さん、じゃなくて奏って呼んでください』
こいつ皮肉伝わってないのか、ちゃっかり隣に座ってる男前・・・もとい奏さんとやら。
見た目だけじゃなく名前もシュッとしていらっしゃる。
「・・・なんなんですか、こんな虫の居所が悪い女と飲んだって何にも楽しくありませんよ。」
『うん、そうなんだろうな~って思って。』
・・・・・・は?
聞き間違いかと思い彼の整った顔を二度見する。
『さしずめ彼氏と別れたか~・・・あ、会社で問題起こしてリストラされたとか?』
問題起こしたのは会社のほうだけどな!
エリート様がちょろそうな哀れな女に同情でもして弄んでやろうってか。
「その両方ですよ!おちょくって楽しいですか!?一人で飲みたい気分なんであっち行ってください!
ちなみに問題起こしたのは会社のほうですけどね!!!」
・・・さっきのカクテルは迷惑料としてありがたく頂くけど。
駆けつけ一杯の生ビールのようにぐいーっと綺麗なカクテルを飲み干すとアルコールの熱が胃から
上がってくるようだった。
『おおー、いい飲みっぷり!』なんて私の言うことは無視して僕もコスモポリタン、と
新たなオーダーを通し、そこに居座る奏さん。
ふーん。このカクテル、コスモポリタンっていうのか。
・・・じゃなくて。
「カクテルはご馳走様でした。でも、私の言ったこと聞いてました?」
『君は名前なんていうの?』
「あれっ、私の声が届いてないみたい。」
彼はどうやら自分に都合のいい返答しか聞こえないおめでた~い耳をお持ちのようらしい。
もうまともに受け答えするのも面倒だな。
「・・・ゆり。」
『きれいな名前だね。よろしく、ゆり。』
呼び捨てですか・・・女慣れしていらっしゃるようで。いつの間にか敬語は取っ払われてるし。
お酒は強い子のほうが好き!次何飲む?ショートカクテルって3口で飲むっていうルールがあってねえ、とハイテンションで絡んでくる彼にわざとらしくため息をつく。
「強いお酒と就職口ください。」
『うん、いいよ。』
私の発言になんの戸惑いの色も見せず、
『そしたらこの子にはバラライカ』と聞いたことのない私のお酒がスムーズに頼まれる。
『就職口は~・・・仕事で疲れ果てた独り身男の身の回りのお世話をするお仕事、でどう?』
カクテルグラスに注がれたペールホワイトのカクテルを私に手渡しながらそう告げる奏さん。
「とどのつまり、家政婦ってこと?」
『そうなるのかな~~、あ、あと秘書とかもやってほしいかも。お給料も弾むからさ。』
そういって耳打ちされた金額に思わず
「やらせていただきます。」
見ず知らずの男性の誘いに乗るなんて私は自分の置かれた状況に相当焦燥していたのか、アルコールの力で思考力が鈍っていたのか・・・・・・きっと両者だろう。