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好きで好きでたまらない  作者: しおやき


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溶けた雪



 ネックウォーマーを口元まで引き上げて荷物を背負ったこうたくんはドアを指さして帰ろうと僕に促す。


「行こ」

「あ、はい」



(・・・・雪の上でサッカーとかどうやってするの)



 でも普通の靴は無理だけどサッカーシューズだとスパイクがついてるから滑らないのか?と頭を働かせているとこうたくんが僕の頭をポンポンと軽く叩いてきた。




「かずき」

「は、はい」

「土曜日また迎えに行くから、家で待ってて」

「・・・・わ、分かりました」



 廊下を歩きながら彼の言葉にコクンと頷いた僕は、嬉しくてニヤけそうになる顔を見られたくないからすぐに下を向いてしまう。



(こういうところがだめなんだよね・・・直したいけど、ニヤニヤしながらこうたくんのこと見つめ返すの絶対気持ち悪いだけだし) 




 正面玄関に着いて、靴を履き替えた僕はいつものように「また明日」と言うもんだと思っていた。


 靴を履いているこうたくんの背中を見ながら、今日は間接キスをしたから満足しなきゃと少し冷えた唇を指で触る。


(触りたかった・・・手繋ぎたかったけど)



「こうたくん・・・」

「・・・ん?」


 無意識に彼の名前を呼んだ僕は、思わずはっとして慌てて靴を地面に置いた。


「なに?」 

「な、なんでもないです・・・ごめんなさい」

「そう?」

「は、はい」

「・・・・・」


(やばい、やばい・・・・だめだ僕)





 もう既に靴を履いているこうたくんを待たせまいと、隣に並びすぐに靴に足を突っ込もうとする。


「かずき」

「・・・はいっ」


 そんなことをしていると今度はこうたくんに呼ばれて、彼のほうに顔を向けた。



「昼間のやつ」

「・・・・ひ、昼間?」

「うん」

「・・・・」


 突然今この場所とは関係のない話をされ片足が入り切っていない状態で、中途半端に止まる僕の動き。



「恭平が言ってたことあんまり気にすんな」

「・・・・え」

「アイツ好きなこと言うから」

「・・・・」

「悪気はないみたいだけど、性格がガキくさい」


 口元まで上げていたネックウォーマーのせいで、少しこもった声になりながら呆れたように言い放ったこうたくんは先にドアの方に向かおうとした。


「・・・・」

「なに?」

「あの・・・・」


 呼び止めずにまた図々しく腕を掴んで引き止めてしまった僕は、まさかこうたくんがここでその話題を出してくるなんて思わなかったから、頭の中がそれいっぱいでどうしようもなくなってしまう。


「ちょ・・・・ちょっとだけ」

「・・・・」

「ぎゅってしたい・・・です」



 抱きしめてもらえたら多分おさまる気がする。

こんな衝動、土曜日まで毎日引きずりたくない。


「・・・・・無理」


(えっ)


 その言葉に思わずこうたくんを見上げると、ネックウォーマーを下げて彼は周りを見渡していた。


「人がいるから無理」

「ご、ごめんなさい」

「行こう」


 なんともないように表情を変えずにいつもどおりに外に出ようとしたこうたくんにまた心の中で謝る。


(あぁ、だめだ・・・本当ごめんなさい)


 家に帰ったら反省だ。

 でも、メッセージではなるべく謝らないようにしよう。

 読み返してみると、『ごめんなさい』がたくさんあるメッセージは受け手にしたらあんまり気分が良いものではない。



「さむっ」

「・・・ゆ、雪・・降ってる」

「今日雪の予報出てたっけ」

「いや、確か晴れだったような」


 外に出ると、空からは雪が。

 頭にすぐに積もる大きな雪の結晶。


 僕はスマホでいちいち確認しようとポケットから取り出して画面をタップしようとした。


(えっ)


「どうし・・・」


 頭をポンポンとされ、何事かと思いスマホから目を反らしてこうたくんを見上げると、少ししてから息が止まりかけた。


(・・・・)



 見上げた視線の先には雪と、こうたくんの瞳。


 何も言わずに少しだけ首をかしげて何かを言いたげなその顔に僕は固まってしまう。


「こうたく」

「部活行くから」

「・・・・・あ、」


 部活というワードに我に返って、この近過ぎる距離感に恥ずかしさを覚え焦った結果、持っていたスマホで気を紛らわせようとした。



「なぁ、」


(・・・・え)



 このまま部活に行くから、今日はこの雪が降る空の下でお別れだと、ドキドキする心を落ち着かせてから「また明日」と言いたかったけど突然遮られたそれに動揺が隠せない。


 僕が持っているスマホに手を被せて画面を見えないようにしたこうたくんは、その手の甲に雪が少しずつかかっていってるのを気にしてない様子。



「・・・・・」



 手の体温で結晶は溶けて水滴になり、肌の上を滑りながら零れ落ちていく。普通ならそんな光景は見ていて冷たいと感じるものだけど生憎僕は今それどころじゃない。



 ゆっくりと唇に当たる柔らかい感触と、こうたくんの綺麗な瞳のせいで僕の心臓は爆発寸前だった。



「すげー至近距離でガン見するじゃん、いっつもそうしてくれればいいのに」

「・・・・こ、こうたく」

「ぎゅーじゃないけど、これで我慢して」



 少しだけ口角を上げて笑ったと思ったらネックウォーマーでまた口元を覆い、「じゃあな」と手を振りながら部活に行くこうたくんを、僕は呆然と眺めて同じように手を振り返していた。




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