最終話: 好きで好きでたまらない
「・・・・チョコレート受け取ってください」
朝の誰もいない教室で2人だけの時にそう言うと、当たり前のように受け取ってもらえた僕は、ここぞとばかりに変なタイミングで彼の『気になる人』のことについて聞いてみた。
「・・・・え?」
「え?」
「・・・あれ、」
(あれ?)
「俺言ってなかったっけ?」
「何をですか?」
「え?」
「・・・・え?」
「・・・・まじか・・・ごめん」
「えっ・・・と」
「とりあえず気にしなくていいよ。もう終わったから」
(・・・・終わった?)
「えーと・・・・またあとで話すわ」
「・・・わ、分かりました」
そしてバレンタインがあっけなく終わり、結局あとで話すの『あと』がいつなのか不明なまま、とうとう3月に入る直前の2月の最後の日になってしまった。
今年は閏年で4年に一回しか訪れない貴重な日。
「かずき、」
「は、はい」
「この後用事ある?」
「・・・・いや、特には」
「じゃあ、送ってくからちょっと話そう」
誘われて歩いた道は少し駅まで遠回り。こうたくんは反対だけど、駅まで送ると当たり前のように言ってきた。
(・・・・もしかして、バレンタインのときの)
まだ雪が積もってるし、今の時期なんて1年で一番寒くて雪が降る頃だ。今日はたまたま晴れだけど、寒すぎて雪は溶けずじまい。
「あのさ、話っていうのはバレンタインのときのやつなんだけど」
「・・・・あ、はい・・・あの、あれ凄い失礼なこと聞いたなって・・・ごめんなさい」
「いや、いいよ。なんか色々言ったけど、肝心なことかずきに伝えてなかったと思って」
ザクザク音がする足元に視線を落として何を言われるんだろうとまたビクビク。
「・・・な、なんでしょうか」
「・・・・・」
「こうたく」
「・・・・・はぁ・・・寒いな」
(えっ)
ため息をついたこうたくんにびっくりして彼をチラ見すると、僕の質問には答えずにスマホを取り出して画面を何回かタップしていた。
「・・・・・」
(どうしよう・・・今日ちょっと様子変だったし、)
こうたくんは今日1日中ずっとスマホを見ていた。お昼ごはんのときも、何かを打ち込んでは首をかしげて、また画面をタップして。
(僕が変なこと聞いたから・・・)
「あのさ、」
「あ、はい」
「・・・・・・」
かけられた声に視線を上げてこうたくんを見上げれば、また無言。2人で立ち止まったから、僕はそのまま視線をそらさず彼の名前を呼ぼうとした。
「・・・・今・・・送ったから、あとで読んで」
「・・・え」
「あとで」
「・・・な、何を」
ブブーっ
珍しく僕がそんなことをしたからなのか、今度はこうたくんが視線を先にそらした。そしてその瞬間僕のポケットの中のスマホが震えだす。
(スマホ・・・・僕に?)
「お前さ、俺の言ったこと結構忘れるから、」
「・・・・・・」
「まぁ、あとで見といて」
「え、・・・い、今」
「いや、無理」
(えぇえ?!)
少し目を細めて恥ずかしそうにそう言ったこうたくんは、首を覆っていたネックウォーマーを少し上げて口元を隠してしまった。
「な、なんで」
「寒い、早く帰りたい」
「え、ちょっ・・・こうたくん、ま、待って」
滑りそうでおぼつかない足元に一歩踏み出すのを躊躇した僕に、少し先を行ったこうたくんが振り返って笑うその姿は僕にはやっぱりまだ眩しすぎて、一瞬目をぎゅっとつぶってしまいそうになる。
「手、繋ぐ?」
「・・・・え」
「繋がない?」
「・・・・」
それでも、そんな僕に幾度となく差し出してくれたこの手を、戸惑いながらも今度はちゃんとぎゅっと掴む。
「・・・冷た」
少し力を入れて握れば、同じ強さで離れないように握り返してくれたその手に目頭を熱くして、僕は心の中で『こうたくんも同じ気持ちでありますように』と、そっと願った。
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かずき、先にお礼言わせて欲しい。今までありがとうな。
お前と会ってからいろんな事考えた。ずっとどうしようかと思って考える必要がない事まで考えた。頭使い過ぎて途中バグが起こりかけたけど、多分これ以上考えても出てくる答えは変わんないわ。
この先、これがどんな形になるかなんて分かんないけど、そん時はまた2人で遠回りしても一緒に考えていけたらと思ってる。
不安とか、嫌なことあったら俺に言って。
お前が考えてることちゃんと知りたい。
俺、お前のこと好きで好きでたまんないから。
―――――――――――――――――
(完)




