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好きで好きでたまらない  作者: しおやき


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誕生日おめでとう4




(さっきの人・・・こうたくんのこと見てた。っていうかここって・・・)



 クリスマスツリーが見えるこの場所は、僕とこうたくんで一緒に来たことはない。

 だから「覚えてる?」と聞かれること自体そもそもおかしい。


 

 そして彼が言ってるのはクリスマスツリーとかイルミネーションとかじゃなくて、目と鼻の先に見えるあの道のことだと、この時僕は感じ取ってしまった。




「ずっと、聞こうと思ってた」

「・・・・・」



 逆に僕じゃないと彼の質問の意味が分からなかったと思う。

 僕が返事をせず黙ったままでも、話を進めていく彼の中では、多分とかじゃなくて、もうすでに答えが出ているのかもしれない。



「・・・・あの、」

「かずき」



 焦った僕はタイミングもムードも何もなく、先に言おうと思って口を挟んだけど、それを遮って僕の名前を呼んだこうたくんはいまいち感情が読み取れない表情で僕を見つめてきた。




「もしかして・・・・・前にここで会ったことある?」

「・・・・・」




 人混みで、ざわめく街中に写真を撮っているシャッター音や、子どもの泣き声、それに雪が降ってきたからそれを見上げて歓声をあげる人達の声が聞こえてくるけど、随分と遠くの方で聞こえる感じがする。



(そう言えば、お昼は晴れだけど夕方から雪の予報・・・・)



 まるで僕とこうたくんしかいないようなその感覚に、彼の熱を持ったような眼差しがプラスされて僕は息が止まりかけていた。



「・・・・え・・・っと」



 また先を越されてしまった。そんなことを聞かれるなんてここに来るまで全く気が付かなかった僕は、なんて答えていいか分からずに降り積もる雪に視線を泳がせていた。



「あぁ~悪い。聞き方がおかしかったな」


(えっ)


「ごめんよ、場所移動しよ」

「違います」

「ん?」

「いや、違うっていうのは・・・その、聞き方がおかしいとかじゃなくて・・・・」

「・・・・・」

「ぼ、僕は」



 言おうとしたことをまとめた紙を思い出そうとしたけど、思い出せない。



「・・・・ごめん。やっぱり俺の聞き方が変だった。まわりくどい言い方したわ」

「え、」

「あそこの道でさ、盛大にずっこけてた時あったろ。中3の夏」

「・・・・・」

「・・・あれって、かずき・・・であってるよな?」


(・・・・)


 勢いよく先に言われてしまったと、呆然と彼を見つめ返すと今度は周りの音がピタリと止んだ気がした。


 僕の反応の仕方をあんまり気にしてないのか、「雪被ってる」と言いながら頭を撫でてくれたその手はこの前教室で撫でてくれたみたいに優しい。


 そんな中、確信めいた最後の質問に、頭の片隅で疑問が1つ浮かんだ。



「そう・・・です」

「・・・やっぱりそうだよな」

「・・・・はい」

「・・・あ~、そうか」

「こうたく」

「そうかそうか・・・・いや~、」 


突然口を抑えたこうたくんは、ホッとしたような、恥ずかしさが混ざったようなそんな顔で言葉を繋げた。


「ここまできて間違えてたらどうしようかと思った。絶対ダサいわ」

「い・・・・」

「ん?」

「いつから・・・・その・・・気が付いて」

「あぁ~、気が付いたっていうか、もしかしてって思ったのは、入学してちょっとしてからかな」

「・・・・・」

「何回もさ、聞こうとして。でも最初はお前の連絡先なんて知らんし、距離詰めるのに必死で。やっと連絡先交換できたわって思ったら、今度はタイミングとか悪くて」


 こうたくんの反応は本当にホッとしているような笑顔で、僕にはそれが少し引っかかった。



「とりあえず間違ってなくて良かった」

「・・・・・あの、聞かないんですか」

「何が?」

「僕がいつから知ってたって」

「え~、聞いたほうが良かった?」 

「・・・・えっ、い、いや・・・」

「どっちだよ。っていうか、俺が聞いてさ、答えが否じゃない時点でもういつからとか関係ないじゃん」

「・・・・」

「まぁ、あらためて、本当の久しぶりだな」


 そう言って差し出されたのは入学式のときと同じ手。

 嬉しそうに笑う彼の眩しい笑顔に、僕の視界はかすんだ。


「・・・・・」


 声を出そうとして、でもそれだと確実に泣くからこうたくんの手だけ握って、同時に唇を噛んだ。



 入学式の日に言えば良かった。言わないまま時が進んで罪悪感が日に日に増していくと、言うタイミングを見失うから結局言えないままお別れになってしまう。



「良かったわ。実はさ、あのあとずっと気になってたんだよな。無事に帰れたんかなって」

「・・・・っ」


 握られた手はお互い冷たい。


(・・・言う気なんて、元々なかった・・・それなのにこうたくんずっと僕に聞こうとしてた)



 思い返せば、確かに何回か何かを言おうとしていることはあった。お父さんが途中で入ってきたり、自分で遮ったり、他にも色々。結局その先の会話が進まなかったけど。



「今日さ、かずきをここに連れてきたのはそれを聞きたかったからなんだよね。いや~、色々タイミングミスったけど、最後にうまく行って良かったわ」

「・・・・え?」


(最後?)


 時計をなぜか見ながらまた時間を確認したこうたくんは、クリスマスツリーを見上げて、少ししてから僕の名前を呼んだ。



「かずき、」


 つられて見上げたクリスマスツリーは色が一気に変わって、青と薄い黄色みのかかった光へ。そして、それを覆っていくようにゆっくりと降り積もる白い雪。




「誕生日、おめでとう」

「・・・・・」

「俺のために、今日の予定開けといてくれてありがとな」

「・・・・・っ」

「すげーベタだけど。このタイミング逃すと、もうないから。来年からはまた違うツリーらしいし。あと誕生日プレゼントとかないけど」

「・・・・・」


 声を出さなくても、止まらない涙は存在するらしい。また目がかすんで、せっかく連れてきてくれたこの特等席を、こうたくんの隣という特等席を、あいてる手で流れ落ちる涙を拭くのに必死で、僕はぶち壊していた。



「また泣いた。泣き虫だな」

「・・・・っ」

「おいで。よしよし」

「っ・・・・こうた・・・くんっ」


握手だと握っていた手は離れずそのまま繋がれていて、泣いた僕をこうたくんは引き寄せて優しく抱き締めてくれた。


「まじでちっこいな。もっと飯食えよ」

「・・・・っ・・・ごめん・・なさい」

「今度俺が作ってやるわ」

「・・・ほんとにっ」

「ほんとだわ。味は保証しないけど」



 雪が降って、寒くて、人が凄くて、イルミネーションが綺麗で。



「俺さ、デートとかしたことなくて。何したらいいか分かんなかったからこんなんになったけど」

「・・・っ」

「次はかずきが行きたいところに行こうな」

「・・・・うんっ」



 彼の腕の中で泣く僕は、こうたくんの言葉を今この瞬間だけは素直に受け入れたくて、何も考えずに必死に頷いていた。



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