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好きで好きでたまらない  作者: しおやき


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77/90

伝えなきゃいけないこと2



「なんだよ~、お母さんだって僕のこと根掘り葉掘り聞いてくるじゃん」

「私は直接あんたに聞いてるでしょ!別にあんたのスマホ覗きみなんて私はしないわよ」

「・・・お、仰るとおり」


 簡単に丸め込まれたけど、違う意味でちょっとムカつく。なんだよと思いながら叩かれた箇所を大袈裟に擦った。



「あんたが直接お父さんに言いなさいよ」

「言うって何を」

「この・・・・手紙のこと。中身気になるんでしょ」

「・・・・・」

「あんたなら聞いてくれるんじゃないの」

「なんで?」

「息子だから?知らないけど、なんとなく」


 なんだそれと思ったけと、たしかに僕が聞いた時お父さんは話してくれた。


(でも・・・・・)


「・・・・分かった。聞いてみる」



 手に持った手紙をぐちゃぐちゃにしないように、大切にポケットにしまいこんで、お父さんにうまく聞くにはどうすればいいか考えてみるけど。



「タイミング掴むの難しいな・・・でもこのままの勢いで聞かないと多分チャンス逃す」

「何言ってんの?タイミングとか合わせようとしなくていいのよ」


(・・・え?)


「子どもなんだから、いちいち親の顔色伺うのやめなさい」

「・・・・・・」

「父さんもうちょっとで帰ってくるわよ。頑張ってね」

「え、うそっ、ちょっ・・・」



 そういったお母さんはテレビをつけた。玄関からはタイミングが良いのか悪いのか扉が開く音がする。


「ただいま~」

「・・・」


(エ、エスパーかっ)


 ガチャとリビングの戸を開いたお父さんは、いつものように穏やかな雰囲気で入ってきて買い物袋を台所に置いた。


「・・・お、おかえりなさい」

「ただいま。どうしたの?あらたまって」

「・・・い、いや」


(どうしよう・・・ここでそのまま?そのままいっちゃう?)


 続きの言葉を何も言わずにしばらく仁王立ちする僕に痺れを切らしたのか、お母さんが援護射撃ならぬ返り討ちを僕に浴びせてきた。


「かずきが話があるって」


(え!?)


「話?」

「うん。むかーしのお父さん宛の手紙、中身見たいらしいわよ」

「・・・・・」


(ぇえええー!!!!)



 お母さんは自分がずっと持っていたのに、最後の最後にきて人に責任を押し付けてきた。しかも自分の息子に。



「手紙?そんなのあったっけ?」

「・・・・う、うん」

「いいよ?かずき開ける?」

「・・・え」


(ここではちょっと・・・)



 お母さんも居るからちょっと、というか凄い嫌だ。

 僕の予想が当たればお母さんは多分ショックを受ける。


(でも・・・・)


 きっとそれ以上に父さんがショックを受ける。どんな反応をするかもわからない状況でここで開封はしたくない。


「お父さんが良ければ・・・・・」

「うん?」

「書斎にでも・・・・一緒に行きませんか」

「・・・・・」


 一瞬時が止まった気がしたけど気の所為だと思う。


「あぁ・・・分かった。いいよ」


 僕の目が泳いでるのに気が付いて、なんとなく察知したのかもしれない。すぐに買ってきたものを仕分けして、お父さんは僕に「行こうか」と告げた。



 お母さんを見ると手をひらひらさせている。なんだか顔が少し不安気だ。


(・・・・大丈夫。大丈夫・・)


 自分に言い聞かせて、お父さんと2人で書斎に向かった。





 ◇◇◇



「手紙ってなんだい?」

「あの・・・・これ、」

「・・・・」



 書斎に着いて、間を開けずにすぐに手渡した手紙。

 それを見てお父さんは僕と同じようにひっくり返して裏を見た。



「・・・・・・秋斗の字・・・かな」

「・・・・・」

「これはどこに」

「お母さんが・・・ずっと持ってたって。渡そうとしたけど、いらないって言われたらしい。昔の話だけど。お父さん覚えてない?」

「・・・・・」

「荷物の中に紛れてたって。でも多分大切なものだからってずっと捨てずに持っててくれてたらしい」

「・・・・聞かれた記憶はない・・でも多分聞かれたんだとは思う」


(お母さんの言ってたとおり、やっぱりしばらく拒絶してたのかな)


「荷物か・・・・もしかしたら、ノートに挟んでたのかもな」

「ノート?」

「うん。たまに貸してたんだよ。彼は・・・・・そうか、そういうこと・・・」

「・・・な、なに?」

「いや・・・・ごめんよ。3年になってから休むことがたまにあって・・・連絡はその時ぐらいしか来なかったけど、ノートを貸してたんだ」

「・・・それって」



 お父さんは首を振って口元を手で抑えた。


「分からない。でも彼が生きてた時に最後に貸したノートが僕の手元に戻ってなかったから・・・・そうか戻って来てたのか」


(・・・この・・・手紙と一緒に)



 お父さんも確信があるわけではない様子だけど、なんとなく自分を納得させるように言い聞かせている。



「ごめんよ・・・・」

「お父さん・・・」



 何かをこらえているように我慢をしているお父さんは、ゆっくりと手紙の封に手をかけた。



(・・・・・・大丈夫・・・大丈夫)



 お父さんがその手紙を読み終える時間は少しだけだったけど、読み終わったあと、何も話さず目元に手を当ててそのまましばらく黙って静まり返った時間はとても長かった。



「・・・・お父さん」



 僕の予想が当たってしまったのは、きっと同じ経験を僕もしたからかもしれない。


 ため息をついて、車の中の時と同じように自虐気味にポツリと呟いたお父さんは少し声がかすれていた。



「そりゃあ、相談なんて、できないわな・・・・・なんで。・・・・言ってくれればよかったのに」

「・・・・お父さんの・・・せいじゃないよ」

「・・・っ」



 そして彼のせいでもない。



 人を好きになることに、男も女もない。

 好きになった人がたまたま自分と同じ性別だっただけだ。




「・・・・本当に・・・なんでっ」

「・・・・・」



 直接伝えられなくて、手紙に託した彼の想いはお父さんにはちゃんと伝わった。どうしてもお父さんにバレたくなくて、直接言えなかった秋斗くんの気持ちは僕には痛いほど分かる。



「お父さん・・・・・僕を・・・僕を助けてくれてありがとう」



 お父さんはきっと自分を責めてしまうから。

だからせめてちゃんとお父さんの言葉に救われた人がここにいると、僕がお礼を言わなければと思った。



「・・・・いいんだよ」



 お父さんの泣いた姿を初めて見た僕は彼の背中を初めて擦った。



 とても華奢で、弱々しい背中だったけど、そんな背中に僕はずっと無意識に助けられていた。どんだけの辛さと喪失感と虚しさを味わったのか。 これは誰にも分からない。




 長い時を経てようやく少し心の中の鎖がほどかれたと思いたい。素直に喜べはしないだろうけど、それでも彼はお父さんの隣にいれて幸せだったと思う。




(・・・・・ちゃんと伝わったよ)



 お父さん机の上に飾られている嬉しそうに笑った秋斗くんの写真に、僕は心のなかで静かに語りかけた。






















――――――――


楓へ


こんな結果になってしまってごめん。


俺、お前のことずっと好きで、好きでしょうがなかった。

もうちょっと耐えてれば良かったかもしれないけど、お前にバレて迷惑かかるの嫌だった。


嫌われたらどうしようって。

周りにバラされたらどうしようって耐えきれなかった。


多分お前なら、笑って受け入れてくれるかもしれないって思ったけど、一歩先に進めなかった。


ほんとにごめん。許してほしい。



お前と2人で過ごした時間、最高に幸せだったわ。


今までありがとな。


秋斗

――――――――




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