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好きで好きでたまらない  作者: しおやき


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76/90

伝えなきゃいけないこと




「ねえ、かずき」

「なに?」

「あんた、誕生日のケーキ何がいい?」

「・・・・・え?」



 突然のお母さんの質問に口をぽかんと開けて、間抜けな顔をしたのはもう12月に入ってクリスマスがあと一週間に迫ってきた時だった。


「え?じゃないわよ。誕生日のケーキ。クリスマスケーキはもうとっくに予約終わってるけど、あんたは誕生日だから、別枠よ。食べたいの言って。買ってくるから」

「・・・・・」



 こうたくんから、「むかえに行く」と思ってもみなかったお誘いの言葉を頂いてからずっと浮かれ気分で、少し浮足立っていたのかもしれない。


 勉強はちゃんとしてたけど、家に帰ると頭の大部分をこうたくんが占領していた。ちゃんと当日の服も、何を話すとかの話題も色々調べて準備しなきゃと思っていたあの日からちょっと日が過ぎて、久しぶりにこんな間抜けヅラをしたのは親の目の前。



(・・・・・言って・・・ない・・・っけ?しまった)



「え~と・・・あはは」 

「あはは?何?まさか自分の誕生日忘れてたとか?」 

「・・・・いや、それはないけど」

「じゃあなによ。今回はいつもと違って、予約するから。事前に教えといてよ」


(・・・・まじか)


 なんでこんな時に限って。

 本当のことを話すと多分根掘り葉掘り聞かれるから正直何も言いたくない。


「な、なんで今年はそんなことを」

「高校生最初の誕生日よ!なんか記念に残ることしたいじゃない?」


(記念の意味・・・・)


「ご、ごめんよ。ありがたいんだけど今年はいらないや」

「・・・・え、なんで?」

「え、え~・・・と、なんで・・かな」

「あんたもしかして彼女とかできたの?一緒に過ごすの!?」


(いや、ぜんぜん違うけど)


「違うよ。彼女なんて出来ないから。友達と遊ぶからだよ」

「え~」


 なんで文句を言われるのか分からないけど、これ以上深く追求されることはなさそうだとホッと胸を撫で下ろした。


(なんか、凄い罪悪感・・・・・申し訳ないな)



 お母さんの反応した声が思ったより大きかったのかお父さんが「どうしたの?」と片手に新聞を持ち、不思議そうな顔をしてリビングに入ってきた。


「かずき、今年の誕生日ケーキいらないって」

「あれ、そうなの?」

「友達と過ごすからって」

「ご、ごめん・・・・言うのすっかり忘れてて」

「あぁ、そうなんだ。行ってくれば良いじゃないか」

「・・・じゃあケーキとか食べれないじゃないの」


(・・・・・別に食べたかったら勝手に食べればいいじゃん)


「楽しんでおいで」

「あ、あぁ・・・ありがとう」


 相変わらず穏やかに話してくれるけど、そんなお父さんに疑問を抱いていた。


(割り切れる想いだとは思わない・・・けど、割り切ってるんだろうな)



 如何せんもうあの時の記憶は彼の中にきっと残ってない。

 お父さんに直接聞いたわけじゃないけど。


「あ!!」

「なに?」

「クリスマスがだめならクリスマスイブにケーキ食べればいいのよ。かずきの誕生日ケーキ。クリスマスイブに食べましょうよ」

「・・・・え」

「はは・・・母さん・・・本当に昔から甘いもの好きだね」


(・・・・そうか、お母さんは、あれ、いつからお父さんと付き合ってるんだっけ?)


「あんたはどう思う?」


(もしかしてお母さんなら当時のことなにか聞き出せば答えてくれる?でも、この前はぐらかされたからな。多分本当に知らないんだろうな)


「き、・・・かずき!」

「ん?え、あ、はい」

「ちゃんと聞いてなさいよ。で、どうする?」

「あぁ、どうぞ。お好きなように」


(この後聞いてみようかな・・・・)


「じゃあここから選んで」

「はい」


 言われたとおりに選んだけど、どれも別に心はひかれない。


(気になる。とりあえずお父さんがいないとこで聞かないと、声がでかいから)


 たまに家中に響き渡りそうな勢いで声量をぶつけてくるから髪の毛が飛びそうになる。


 鼻唄を歌っている彼女を横目に僕は腕を組んで、聞くタイミングを見計らっていた。夕方とか買い物に行くならついて行ってみようか。






 ◇◇◇




 その日の夕方になって、僕はソワソワしていた。いつ買い物に行くのか、特に動き出すこともなくテレビを見ながらお菓子を食べている彼女に、あれ?と思っていると、お父さんがリビングの戸を開けた。


「買い物行ってくるよ」

「ん、は~い。お願いね~」


(・・・・え?お父さん?)


「かずきはなにか欲しいものでもある?」

「・・・・い、いや、特には。大丈夫だよ」


 どうやら今日買い物に行くのはお父さんらしい。気にかけた事がなかったから全然把握してなかった。


(ちょっと待てよ?・・・・これはチャンスでは?)


「行ってくるよ」

「行ってらっしゃい」

「気をつけて」


 買い物に行くお父さんをリビングで見送って、家のドアがしまった音を確認した僕はいきなりお母さんに質問した。



「あのさ、お母さんって昔のお父さんのことどこまで知ってる?」

「・・・・・え、何よその質問」

「いいから答えてよ、緊急なんだって」

「・・・・」


 普段こんなことを言わない僕に珍しく怪訝な顔のお母さん。


「もしかして、あの写真のこと聞いたの?」

「うん」

「そお・・・」

「お母さん」

「・・・・話すと長くなるから」

「・・・え、なにそれ・・・どういう意味」



「ちょっと待ってて」と一言言って、ため息をつきながらソファから立ち上がり、なぜかリビングから出ていってしまった。


(・・・・あれ?)


 怒って出ていった様子ではない。うんざりしている様子でもないけど、なにかを持ってくるのだろうか。


 しばらくして戻ってきたお母さんは手になにかをやっぱり持っていた。


(・・・薄い)



「これ」

「・・・・なにこれ」


 僕の前に差し出されたのは、もう古くて色が変色した手紙のようなもの。


 手にとって裏にひっくり返せば、名前が書かれている。


「楓へ・・・・」


(お父さんの名前だ)



「ど、どうしたの、こんなもの」

「・・・あんたのお父さんがどこまで話したのかは分からないけど、昔のこと覚えてないっていうのは聞いた?」

「・・・・うん・・・当時のことは覚えてないみたいな」

「これ、あの人の荷物の中に混ざってたのよ。本人に聞いても知らないの一点張りで、捨てといていいよって。見向きもせずにね。昔の思い出は何にも受け付けてない感じだったから」


(そんな事が・・・・)


「もしかしたら、こんな会話したのも覚えてないんじゃないの」

「お母さんがお父さんと知り合ったのっていつ?」

「・・・・中学のときよ」

「・・・3年?」

「まあそんな感じ。でももう高校生になる直前よ。しかも知り合ったっていうか、私が見かけただけだし」


(見かけた?)


 ますます二人の出会いの意味が分からない。


「・・・・なんでこれお母さんが」

「だって、捨てれないでしょ、かと言って中身を見ようなんてそんなことできないし。大事な手紙だったらどうするのよ」

「いつから?」

「ん~、結婚する事が決まった時から?かしら。引っ越しで荷物整理してたら出てきたのよ」


(だいぶ長い間温めてたんだな)


「最初に聞いてから、それ以降はお父さんにこの手紙のこと聞いてないの?っていうかお母さんってどこまで聞いてるの・・・・その・・あの写真の男の子のこと」

「亡くなった幼馴染って事しか知らないわよ。聞いたのは最初のときだけ。あんまりしつこいと嫌がられるし」

「・・・・そっか」



 多分この手紙の中身は、彼からお父さんへ当てた手紙だ。お母さん達の出会いも気になるけど、今はこっちのほうが気になる。結婚が決まってからとなると今は相当時間が経ってるから。


(本人曰く大丈夫らしいけど・・・内容によっては多分大丈夫じゃない)



「・・・・中身・・・見てもいいかな」

「はぁ~!?何いってんのよあんた。駄目に決まってるでしょ!」

「や、やっぱり?」

「当たり前じゃないの!!」

「・・・こんな時だけ律儀だね」



 そんなことを言ったら思いっきり頭を叩かれた。


「いったっ!!」

「人様のもんを勝手に覗きみるな!」



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