昔の話2
「よし、じゃあ行こうか」
僕は頷いて家を出るお父さんのあとについていった。
(さむっ)
この時間帯はすこぶる寒い。深夜になったらもっと寒いんだろう。夜10時を過ぎて外に出たことがないからその時間帯の外の寒さは想像できないけど、きっと昼間とはかなり体感温度が違う。
車に乗り込んでシートベルトを締めると、隣に居るお父さんからも同じタイミングでカチャと音がした。
「どの道通ろうかな」
「何個かあるの?」
「ん~、そうだね~・・・・なるべく明るい道にしようか」
そう言ってエンジンのかかった車を発進させたお父さんは車内が暖かくなるように暖房もつけてくれた。
「かずきとはこういうふうに話すのは初めてかな」
「うん・・・・そうだね」
帰宅時間だから、同じように制服を着た学生やスーツを着た人達が駅に向かって歩いてるのが見える。
(どうやって切り出そう・・・)
ずっと無限ループで頭の中を駆け巡るのはあの写真の男の子。
お父さんからも休んだ理由について深く聞かれてないし、まるでその場しのぎのように他愛もない会話だけが車内を埋め尽くす。
(・・・・ん~、何か切っ掛けがあればいいんだけど)
しばらく走っていると信号が赤になって車が停車した。目の前の横断歩道では子どもとお母さんが手を繋いで歩いている。
周りのお店が明るいから見えるけど、何にもなかったら車のライトだけしか明かりがないから怖いなと感じた。
それくらい12月になる直前のこの時期は、本当に暗くなるのが早い。
楽しそうに話しているのか、顔を見合わせながら歩く親子を見ていた僕は隣の運転席に居る父さんが言葉を発したのに気付くのが数秒遅れた。
「学校はどうだ」
「・・・・・え?」
「学校生活は順調?」
「・・・あ、あぁ・・・」
(びっくりしたっ)
「まぁまぁ・・・かな」
「そうか」
「ご、ごめん・・・ちょっと・・」
(凄い変なタイミングだけど、ここしかない)
「ん?トイレ?」
「いや、違くて・・・・あのさ、前から気になってた事があったんだけど」
「うん?」
早く聞かないと信号が青に変わってしまう。大きめの交差点だから待ち時間は案外長いけどそれもすぐに過ぎてしまう。
「お、お父さんの書斎に前に入ったことがあって、物を取りに行ったときだと思うけど・・・」
「うん」
「机の上にあった写真・・・が目に入って」
「写真?」
「う、うん・・・・写真」
「・・・あぁ~、秋斗と一緒に写ってる写真かな」
(秋斗?)
「多分それ・・・かな」
多分というより確実にそれだ。お父さんの机の上にはその写真しかない。
「・・・・そうか。見てたのか」
「・・・ご、ごめん。わざとじゃないんだけど」
「はは。謝らなくていいよ」
「・・・と、友達?なの?」
「ん~・・・まぁ、そうだね。友達・・・かな」
「そ、そっか」
「うん。今も友達だと僕は思ってるけど」
「・・・・・え」
そこで一呼吸おいてため息をついたお父さんに、車内が静まり返る。
「彼は・・・・まぁ、はっきり言ってしまえば、もういない」
「・・・・え」
(いないって、)
「・・・・どういう意味?」
「亡くなってる」
「・・・亡くなった?」
「うん。彼は僕の幼馴染で、親友だった・・・かな、まぁ少なくとも僕はそう思ってたけど」
「・・・・・家が近所だったとか?」
「そうだね」
信号が青に変わって、エンジンを再度つけたお父さんはアクセスをゆっくりと踏んだ。
「元々親同士が仲良くてね」
「・・・・そうなんだ」
(亡くなったって・・・病気?)
「中学3年の時に亡くなってしまった」
「・・・・」
「あっけないお別れだったよ」
「ちょうどこの時期だったかな」と少し自虐気味に笑ったお父さんはため息をついた。
「ご、ごめん、運転してる時に話ふって」
「いや、いいよ。もうだいぶ経つし、塞ぎ込んでた時期はとっくに過ぎ去ってるからね」
「・・・・そっか」
(また失敗した・・・っていうかあの写真中学の時だったんだ)
タイミングの見誤りをカウントするレースがあれば間違いなくトップになりそうな気がする。
「それに、必要な機会があればいつか話そうと思ってたことだから」
「そ、そうなんだ・・・」
(必要な機会って・・・・やっぱりお父さんなんか気づいて・・・)
「・・・その、亡くなったのは病気・・とか?」
「違うよ。でもはっきりとした原因は分からないんだ」
「・・・・どういうこと?」
「接触事故なのか、自分で死を選んだのか、どちらかは分からない」
「・・・・え」
(・・・自殺?)
あまりの衝撃的な言葉に自分で質問しといて、つなぎの言葉を見失った。思わず目が泳いで窓の外を見れば、風景の流れが異様に遅いと感じてしまったけど、金曜日の帰宅時間帯だったから渋滞しているだけだったらしい。
「昔は今と違って、監視カメラもそんなについてないし、ドライブレコーダーだって普及してない時代だったからね。売ってはいたけど、普通の車がつけるとかはあんまりなかったかな。高額だったしね、誰もが手を出せるものではなかったよ」
「時代は変わったね~」と懐かしむようにボヤいたお父さんは、そのまま話を続けた。
「・・・・車にひかれたんだ。その運転手の話だと、男の子が飛び出してきたって、だから慌ててブレーキは踏んだけど間に合わなかったらしい」
「・・・・それじゃあ」
「でも、それだけだと自分で命を絶とうとしてたなんて分からないんだよ。その運転手、どうやらお酒飲んでたらしくて、酒に酔ってたって。相当飲んでたみたいだね」
「・・・飲酒運転?・・・ってそれなら」
そこまで言った僕にお父さんは首を左右に振った。




