「好き」の次に大事なこと
「んっ・・・・」
(あ・・・れ)
パッと気が付いて目を開けると見慣れた白い壁が視界に映る。
「・・・・寝てた」
見慣れていたのはそれが自分の部屋だから当たり前なのだけど、垂らしたよだれを袖で拭きながらスマホの時間を見た。
(・・・・14時半?)
どうやらお昼を過ぎていたらしい。寝る前の時間が何時かなんて覚えてない。でも僕は多分相当爆睡していた。それは確かだ。
「・・・・っ」
何してたんだっけ?と一瞬思ったけど、スマホにはメッセージの新着ありを知らせる通知が来ていて、そこにはこうたくんと表示されている。
「・・・・あれ・・・え」
【飯食った?今日は何にも考えずとりあえずゆっくり休め】
そうだ、今朝ついに告白をしたんだと、実際問題あれが告白と呼べるものかは怪しいけど、こうたくんに直接『好き』と言ったんだと、メッセージを読んで思い出した。
「こうたくん・・・」
寝ていたから、遥か遠くの事のように感じる。
「お腹・・・すいたな」
服を着替えずに寝てしまっていたから、すぐに脱いで寝間着に着替えた。どうせ今日はもうずっと家の中だ。
スマホを持ってリビングに行き、棚を漁って見つけたカップ麺をお昼ご飯にしようとお湯を沸かす。
「・・・・」
(こうたくん、僕が好きって言ってもめっちゃ普通の反応だったけど、もしかしてバレてた?)
少し経ってピィーッとヤカンが沸騰したことを知らせる叫び声を上げたから、火を消して麺に湯気たっぷりのお湯を注いだ。
起きたばかりで寝ぼけてたけど、リビングはかなり寒い。それでも面倒くさい気持ちが勝って、両腕を袖から抜いて服の中に一緒に入れ込んで動きを止めていた。
(恭平先輩にも言われたけど、気が付かれてないって思ってたのまさか、僕だけじゃあ・・・・)
「はぁ、まぁ言いたいことは・・・・とりあえず言えたから良かったけど・・・・。袖・・・面倒くさい格好するんじゃなかった」
テーブルにカップ麺と箸とスマホを置いて、3分待ちながら何を言ったか思い出そうとしたけど、話していたのはほとんどこうたくんで、僕は2文字を繰り返して言っていた気がする。
「もういいかな・・・・あつっ」
蓋をはがす時、中から出てきた湯気が手に接触して軽く熱い。全部蓋を取り去ってから、箸を持って湯気の水滴が口周りにつくのも気にせずに熱いまま麺をズルズルすすった。
なんかスッキリしない、なんなんだろうとすすりながら思っていると、次の瞬間思いっきりむせてしまった。
「っ・・・ゴホッゴホッ・・ゴホッ・・・っ・・ケホっ」
すすっている時に何かを考えるのはやめたほうがいい。『あっ』と頭に薄っすら浮かんだ瞬間に変なタイミングで息を吸ってしまい、麺が気管に入りかけた。
「・・・ゴホッ・・・・死ぬ・・・ゴホッゴホッ・・・おえ」
(失敗した)
あの時は、あの2文字しか言えなかったけど、本当はもう一つ絶対に言わなきゃいけないことがあった。
「・・・・はぁ、やばい。今になって思い出すとか・・・ケホっ・・・・またふたりきりになれるタイミングあるかな・・・って思ったけど僕の誕生日だけだよね」
お母さんとお父さんには先にメッセージを送ろうとスマホをタップして送っておいた。言い訳がましいと聞かれた時に墓穴を掘るから、『体調不良で帰ってきた』とこうたくんが岸田先生に言っていた同じ言い訳を使う。
「送信・・・よし・・・っとあとは、こうたくんに、」
(なんて返そう)
「・・・・」
もう一つ言わなきゃいけなかったことは、彼と初めてあったあの夏の日のことだった。
「はぁ・・・・言うタイミングを見失ったかも」
計画では、告白する時に最初に言うつもりだった。忘れられてようが、そんなの知らないんだけどと言われようが、僕はちゃんと最初からきちんと話そうと思ってた。
「・・・麺が伸びる」
火傷した舌のせいであんまり味がわからないけど残りを全部すすりながら食べきる。
「・・・・・クリスマスに言うしかない・・かな。もう学校でどうにかしようなんて考えるのは止めよ」
恭平先輩の忠告と、嫌な気持ちになったあの瞬間を思い出して自分に言い聞かせてこうたくんにメッセージを送った。
【すいません、返事遅くなりました。気が付いたらいつの間にか寝てました。さっきご飯食べてこれからちょっとグダグダします。こうたくんはもう家ですか?】
「おし、今度こそちゃんと伝えよう。メモ作ってポケットに入れておけば忘れまい」
◇◇◇
僕はダイニングテーブルの上を片付けて部屋に戻った。先輩からもらったお菓子を制服のポケットに入れたままだったから、取り出して他のお菓子と一緒に机に並べて置いた。
「・・・・勉強でもするかな」
ブブーっ
「んっ・・・・はや」
(こうたくん?)
スマホを手に持つと明るくなった画面には別の人物の名前が。
「・・・あれ、お父さんだ」




