忘れんなよ
(・・・・僕・・・言ってしまった)
今思い返すと、泣きながら告白って、全く予定してなかったことだ。
「ほんとに目が赤い・・・・どうしよ」
こうたくんが帰ったあと、洗面所に行って鏡を見ながらボヤく。
◇◇◇
結局あの後、涙が止まらなくてこうたくんの服を濡らしてしまった。僕が泣き止むまでずっと立ったまま背中を擦ってくれていたこうたくんはどんな気持ちでそうしてくれていたんだろう。
落ち着いてから、また謝ると「気にすんな」と頭を撫でてくれたけど、顔がぐちゃぐちゃでこうたくんの顔を見ることができなかった。
握っていた彼の服から手を離したら、こうたくんがカバンをゴソゴソしだして、そこから取り出したのは部活で使う予定だったであろう大きめのタオル。
「これで拭け、自分の服で拭くな」
「・・・・え、でも」
「いいから使え」
「・・・あ、ありがとう・・・洗って返します」
「返さなくていいよ、それやるわ」
「えっ」
いきなりの「やるわ」宣言。
嬉しいのかもしれないけど、僕はちょっとしてからマイナス思考に引き戻された。
(・・・・ぼ、僕が使ったタオルは・・使いたくないから?だよね・・・)
「おい、かずき」
「は、はい」
「アホなこと考えんなよ」
(・・・え)
「顔を拭け。それか顔洗ってからそれ使って拭け」
「・・・・・」
「言われたこと以外の意味で捉えようとするのはやめろ」
「・・・・うん」
「じゃあ、今日は帰るわ」
「え、」
ポケットに片手を突っ込んで、もらったタオルを抱きしめている僕を無表情気味に眺めたこうたくんは少しだけ雰囲気が学校のときよりピリピリしなくなっている。
「言いたいことは言った」
「・・・・・」
「聞きたいことも聞いた」
(・・・・それって)
「まぁ、まだあるけど・・・・それはまた今度」
「・・・今度?」
「今のお前に受け止められるだけのキャパが残ってるとは思えないから」
こうたくんはそう言って僕に背を向けようとした。
「・・・かずき」
「・・・・は、はい」
「忘れんなよ」
「・・・え」
(何が・・・)
「なに?」
「わ、忘れるなって・・・」
「・・・・・」
「す、すいません・・・えっと・・・忘れません」
好きと言ったけど、その後のことなんて僕は全く考えてなくて、今は頭がほとんど真っ白。こうたくんが意味してる言葉の元をたどろうとして多分これじゃないかなと質問した。
(間違えてたら・・・どうしよ)
「あ、あの・・・」
「ん?」
「・・・ど、どこに行くんですか・・・その連れていきたいって言ってた場所は・・・」
「・・・・内緒」
「えっ」
「当日の楽しみな、まぁ、強いて言うならお前も知ってるとこだよ」
こうたくんは僕の顔を見て「目真っ赤」と笑いながら、首をかしげた。
「・・・ど、どこ」
「さぁ?」
「・・・・え」
「ちゃんと飯食えよ。まだ朝だけど」
「あ、うん。こうたくんもちゃんと食べて・・・」
「あぁ、お腹すいたら食べるわ。あと、かずきのパパかママになんか言われたら俺のせいにしといて」
「え?な、なんでっ。そんなことは・・・・ちゃんと自分で言い訳・・・作ります」
「ほんと?」
「・・・・・」
「無理ならやめとけ」
「・・・・頑張ります」
「なんだそれ。まぁいいや。じゃあ俺も自分の家に帰るわ」
「え、あっ、うん・・・」
(よ、良かった。間違ってなかった。)
何かあるたびに無くなること考えるこの思考は直そうとしても多分相当時間がかかる。一緒に行きたいのに、矛盾ばっかり。
「こうたくん」
「ん?」
(好き・・・・好きって・・もう一回・・・・言いたいけど、)
僕の気持ちは伝わったけど、ちゃんともう一度言いたい。でも無理だった。
「今日は、その・・・ありがとうございました」
「・・・・・」
「あの、」
「かずき、」
「・・・はい」
抱き締めたタオルを胸元で握り締めて、今度はこうたくんの靴と会話をした。約束をしては疑って、伝えてくれた言葉に泣いては中々浮上出来ない弱い心に嫌気が差しそうになる。
「また、一緒に昼飯食おうな」
(・・・・・え)
「こ、こうたくん」
「鍵、ちゃんと閉めろよ。じゃあな」
「・・・はいっ」
僕の返事を確認してから、ドアノブを掴みそのまま開けてこうたくんはこの家から出ていった。
「また・・・月曜日・・」
ガチャと音を立てて閉まったドアを見つめて、最後の優しい声にまた泣きそうになったけど上を向いて喉元に力を入れ我慢。
「っ・・・・・顔洗わなきゃ」
◇◇◇
洗面台に向かって、僕は今は鏡を見ながらついさっきの出来事を思い出していた。
温かいお湯で顔を洗ったあとはこうたくんにもらったタオルに顔をうずめる。
(・・・・・こうたくんの匂い)
部屋に戻ってから最初は机に置いていたおにぎりを食べた。こうたくんが買ってくれたおにぎり。自分で味は選んだけど、ためらわずにそのまま受け取ってくれて払ってくれた。
おにぎりだけだと足りなかったけど、それだけ食べて少し疲れた僕は、着替える気力もなくてそのままベッドにパタンと倒れ込む。
「・・・・ご飯・・・何食べようかな」
結局枕に顔を擦り付けてウトウトするのに合わせて閉じては開く瞼をどうすることもできず、僕はスマホを握り締め眠りに落ちてしまった。




