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好きで好きでたまらない  作者: しおやき


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いいよ、もう


「・・・・えっと」



 こうたくんの言葉に動きが固まった僕は、ドアノブにかけた手も動かすことができず、短時間にも関わらず風にさらされて冷たくなったその手は冷凍庫に入った保冷剤のように感じた。



「大丈夫か?開けるぞ」

「え、」


 そんな冷たい手に少し温かみのある手が重ねられて、力を入れなくても勝手に目の前のドアが開く。


「・・・・・」

「中入って」

「・・・・あ、うん」


 それがこうたくんの手だと気付くのに僕は少し時間がかかった。



「俺の家じゃないからこう言うのも変だけど。こんなとこで止まるなよ、寒いだろ」

「・・・ご、ごめんなさい」


 中に入ってドアを閉めると風がないのと、触れられた手に体が反応して内側から汗が吹き出しそうになって冷えた体が熱を持った気がする。



(・・・・ど、どうしよう)


 玄関でいいと言われたけど、一応中に入ってもらうように促そうと振り返れば、こうたくんはちょうど同じタイミングで僕に言った。


「カバン先に置いてくれば?」

「・・・え」

「ちゃんとここで待ってるから」

「・・・じゃ、じゃあこうたくんも中に」

「いや、いいよ。俺はここでいい」

「・・・・分かりました。部屋に置いてきます。すぐ戻ります」

「うん。ゆっくりでいいよ」


 軽く笑ったこうたくんを視界に入れて、靴を脱いだ僕は部屋まで転けないように急いだ。


 部屋についてドアを開けるとカバンをベッドに投げてすぐに玄関に戻ろうとしたけど、帰る時に入れたおにぎりとお菓子を思い出してそれだけ取り出し机の上に置こうと背負っていたカバンを開ける。


(良かった、お父さんとお母さん家にもういなくて)



「・・・・おにぎり・・・と、お菓子・・は散乱してる」


 走った記憶はないんだけど、お菓子はカバンの中で暴れていたようだ。1つ1つ手にとって机の上に並べた。


(・・・・なんでこれ選んだろ)


 他にもたくさんあったけど、こんなん好きだったのかと思って最後の1つを机に置く。


「もしかして思ったより小銭が少なかったとか・・・別に無理して買わなくてもよかっ」


(・・・・・)


 最後の1つをおにぎりの隣に置こうとしてなんとなくひっくり返した僕はそこで思考が停止した。カァっと瞬間的に目の奥が熱くなる。


 震える唇に少し呼吸を整えようと、軽く深呼吸をしてからそれだけゆっくり手に取ってもう一度見つめ、最後にポケットに入れた。



 ギリギリのところで踏み止まった目元の熱さは多分なにかのきっかけで今度こそ止まらなくなりそうだ。


「っ・・・・わざと・・・かな」


 喉につっかえた何かを取り払うように軽く胸元を叩いて、カバンは椅子の背に引っ掛け、僕は自分の部屋をあとにした。



「こうたくん・・・」


 玄関まで戻ると、僕に背を向けて上がり框に座っているこうたくんの様子が見える。名前を呼べばすぐに振り返ってくれたけど、また立ち上がらせてしまった。



「置いてきた?悪いな、こっちの都合で色々と」

「うん・・・・だ、大丈夫だよ、それに・・・逆に連れ出してくれてありがとう」


 家の中に入ったと言っても玄関はやっぱり冷える。


(・・・・ほんとにここでいいのかな。っていうか話したいことってなんだろう)


 嫌な予感が拭えなくて、ポケットに入れたお菓子に服の上から触れた。


「なら良かった」

「・・・うん」

「・・・・あのさ、話したいことあるって言ったじゃん」

「うん・・・そう・・だね」


(さっそくいきなり・・・・)


 すぐに終わらせると言っていた手前、世間話なんてしないとは思ってたけど、それであるならば当然に待ち構える暇もない。



「謝りたくてさ」

「・・・え?」

「ごめんな」


(な、なにが)


「学校のこと」

「・・・・・・」

「俺、かずきのこと気にかけてたつもりだったけど、あんまり見えてなかった」

「・・・・え」

「かずきって人と絡むの好きじゃないだろ」

「・・・・な、なんで」

「この・・・高校入ってからさ、ずっと隣の席だけど俺以外と話してること最近までほとんどなかったし・・・まぁ、人見知りって言ってたもんな・・・」

「・・・・」


 そこまで言ったこうたくんは目を細めて戸惑う僕を見つめながら唇を噛んだ。


「それが良くなかったな・・・って今更ながら思って」

「・・・な、なんで」


 そんなことを僕は思ったことがない。

 むしろずっとこうたくんだけだったから逆に安心していた。


「もっと友達とか、他の人と無理矢理でも交流させとけば、・・・お前が1人にならないようにできたのに」

「・・・・そんな、」

「ごめんな」

「・・・・・」

「嫌な思いさせた」


(なんでそんなことを・・・・)


「こうたくん、ぼくはだい」


 少し苦しそうな彼の顔を見て、笑顔を無理に作って返事をするのはおかしいと思った僕は彼がどのことを言ってるのかいまいち分かっていなかった。


(もしかして、今までのやつ全部?でも・・・)


 別にこうたくんのせいではない。というかこうたくんは全く悪くない。逆に僕は彼を巻き込んでしまっている。



「なんか、こんなこと今更言ってもなんの意味もないかもしれないけど・・・」

「・・・・」

「かずき自身のことは、直接お前の口から聞いたことしか信じないようにしてる。今までのことも含めて全部」

「・・・・え」

「でも、そんなのぜんぜん無意味で・・・俺の知らない所でお前がなんかされてんの気付けなくて、俺がお前の隣りにいる意味ってなんなのって思って。自分だけが仲良くなった気でいた。ごめんな、かずきの隣がこんな頼りないやつで」

「・・・・」

「もっと早くに言えば良かった。もっと強引に行けば良かったって後悔してる。だから」

「・・・・・っ」


 僕はこうたくんに謝られるなんて思わなかった。こんなことを思ってくれていたなんて全く考えてなかったし、僕が無意識下でもいつも様子を伺っていたのを多分気付いていたのかもしれない。


「いいよ、もう」

「・・・・」

「本音ぶつけてくれたら。どんな内容であれ俺がお前のことこの先嫌いになることも、避けることもないから」

「・・・・・こうた・・・くん」

「まじでごめんな・・・色々辛い思いさせた」


 謝るこうたくんに、彼が伝えてくれた想いに、頭を引き寄せて抱き締めてくれたその腕は優しすぎて、さっきせっかく部屋で我慢した涙がなんの躊躇もなく一気に溢れ出た。



(どう・・・して)



「よく我慢したな」

「・・・・僕・・・僕は」

「かずき、」

「・・・・」

「ずっと我慢させてた・・・ごめんな」


 泣きながら途切れ途切れの言葉しか発せない。


 それでも、こうたくんがくれた言葉のおかげで、ゲイとか、気持ち悪いとか思われてるかもしれないと思ったことも今この瞬間はもうどうでも良くて、彼が想いを伝えてくれたから僕も只々言わなきゃいけない自分の気持ちを伝えたくて必死だった。



「・・・き」

「あぁ」

「ごめん・・・なさい・・。僕は、ずっと・・・ずっと・・こうたくんのこと・・・」


 結局頑張って書いたあの紙は無意味になった。言おうとしてたことを色々思いつく限り並べて書いてみても、現実は思いどおりになんかいかない。



「好き・・・で」

「うん」

「っ・・・好き・・」


 今までも、今も、これからも。

 自分でも気が付いてないくらいに無意識に。


「ずっと・・・好き・・・・」

「あぁ」

「・・・ごめん・・・なさいっ」

「いいよ、んなこと謝んな」


 何も悪くないこうたくんが謝って、普通じゃない僕が謝らないのはおかしい。


「ありがとうな。気持ち、伝えてくれて」

「・・・・っ」








 恭平先輩がくれたお菓子が入ったポケットに手を伸ばそうとしたけど一番言わなきゃいけないことを言い終えた僕にもうそれは必要なかった。






  《頑張れ》


 そうメッセージが書かれた小さな菓子袋はちゃんとお守りがわりになってくれたらしい。



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