本当のふたりきり
「横」
「え?」
「横に来い。俺の後ろ歩くな」
「・・・・・」
「後ろ歩かれると、聞き取りづらい」
「・・・ご、ごめんなさい」
(やっぱりなんか怒ってる・・・・どうしよう・・謝らなきゃ)
何に対してか分からないけど、とりあえず謝らないといけないと僕は自分の思考がまた最初の頃の状態に戻っていることに気が付いていなかった。
「なぁ、」
「は、はい・・・・」
「恭平の食いもん買ったら、かずきの家な」
「・・・え」
今度は僕が考える間もなく、否定することも出来ないように言い切ったこうたくんは少しまだピリピリした感じの空気をまとっている。
「朝飯食った?」
「・・・え、朝飯?」
「うん。早く来てたんだろ?っていうか俺が遅れたのもあるかもだけど」
「え・・・っと」
(食べてない・・・からお腹は空いてる)
実は僕も恭平先輩と同じで朝は食べていない。早く起きたからそれに合わせるように食べる時間を早くすると胃がびっくりすると思ったのと、家を出るまで少し眠かったから朝食は抜いていた。
「・・・食べてません」
「お腹すいてる?」
「はい」
「じゃあなんか一緒に買うか」
「・・・・」
(お金・・・少し持ってるからそれで払えばいいかな)
「いらない?」
「あの、食べたいですけど・・・僕もお金持ってきてるので、ちゃんと払います」
「あ、そうなの?いいよ別に。俺がまとめて払うから」
「・・・・え、でも」
「いいよ、たいした額じゃないし」
「・・・じゃあ・・僕も」
「なに?」
「こうたくんが・・・なにか食べたいものあれば、それを僕が買います・・・・」
(こんなんで機嫌直してくれるとは思わないけど・・・少しでも和めば)
事の本質を理解しきれてない僕はきっとはっきりと言われないと分からないタイプだ。人付き合いが下手くそで対話という経験値が圧倒的に低いから、相手が出してるかもしれないプラスの感情や微妙な心情を全てネガティブに捉えてしまう。
「そっか、ありがとな」
「・・・うん」
(大丈夫かな)
不安なまま恭平先輩が待っている売店に着いて、僕達は予定どおりとはいかないまでも望むものを手に入れた。
(恭平先輩・・・お菓子たくさん買ってたけどあれ1人で食べるのかな・・・それに、)
「たくさんあんぱんあった。思わず2個買ったわ・・・でもカフェオレホット準備中とかどういうこと」
「俺とかずきだろお前のあんこ買ったの」
「えー!」
「自分で買ったみたいに言うなよ」
結局こうたくんは欲しいものがなくて、何もいらないと言った。だから僕はこうたくんには何も買えなくて、お金を出してあげたのは恭平先輩の菓子パンだった。
「・・・・よ、よかったですね」
「すげー微妙な顔しながら称賛するのやめてくれよ。惨めになるだろ」
(マイペース・・・・なのはいいけど、ゲイって本当なんだろうか。直接聞いても良いのかな)
「ほら、これやるから」
「・・・・え、なんですか」
「お前のために買ったんだよ」
「・・・・・僕・・ですか」
「おぉ」
恭平先輩は駄菓子屋で売ってそうな大量の手のひらサイズのチョコレート菓子を何個かくれた。
(近所のおじいちゃんみたい)
「ありがとうございます・・・」
どうしてこんなものをと思ったけど、多分あんぱんのお返しだ。金額に差があるのはココだけの話だけど僕は別に何かお返しが欲しくてお金を出したわけじゃないから嫌な気持ちにはならなかった。
(逆にお礼を言わないと・・・・さっきの廊下のまだ言ってない)
「恭平」
「ん?」
「ここで食い始めるなよ。教室に行って食え」
「まだ食べてないよ、袋開けただけだろ」
「同じだろ。ちゃんと座って食えよ」
(本当にお腹すいてるんだ・・・ちょっと嘘かと思ってたけど)
大袈裟に言うもんだから冗談も混ざってるのかと感じたけど普通に本当にお腹をすかしていた。家から何か持ってくればよかったのでは?と先輩がくれたお菓子とこうたくんが買ってくれたおにぎりをカバンにしまいながら疑問を抱く。
「うん。もう1つはそうする」
「とりあえずお前早く教室行け。遅れるぞ」
「はいはい。こうた達は?もう行く?」
「うん、そろそろ行くわ」
「お~け~」とパンを頬張りながら親指を上げた恭平先輩は、手を振って教室へと向かって行った。
「・・・あれ頬張りすぎだろ。窒息するんじゃねえの」
「僕もそう思いました・・・」
別れ際にグダグダ言いそうだと思ったけど、口いっぱいにあんこを突っ込んでいたから喋ることが出来ない様子だった。
(大丈夫かな・・・・)
そして、もう1つの疑問。
(あの2人組・・・もう廊下にいない・・)




