あんぱんかカフェオレか、それとも
「・・・・嫌じゃないです」
首を横に振ってこうたくんの質問を否定した僕は、渇ききってない涙声で声を絞り出した。
「そっか、ならよかった。行こうぜ」
「・・・はい」
「恭平も、変なとこ向いてないで行くぞ」
「はぁ~、絶対一学年に一グループはいるんだよな~、あぁいうカマってちゃん。そして俺は別に変なとこは向いてないぞ」
「前向けよ。後ろ振り返ったってそこにあんぱんはねえぞ」
「あ、なるほど。そういうことね」
僕達しかいないと思っていた廊下はいつの間にかガヤガヤしてきた。朝の生徒が登校する時間になったのか、生徒がぞくぞくと登校してきている。
「・・・おい待てよ!」
大きな声で叫ぶガラの悪い生徒を横目に他の生徒達は怪訝な顔をしながら通り過ぎて行っているようだ。僕たちを追い越して「何だあれ」と小さな声で言いながら振り返っている生徒もいる。
少し歩きながら、そんな生徒達を目に入れたこうたくんは何を思ったのか突然行き先を変えた。
「恭平・・・」
「お、なに?」
「・・・売店行こうか。空いてるよな、この時間なら」
「・・・・ん~」
(・・・売店?)
「あんぱん?それともカフェオレ?」
「どっちも」
「流石」と真面目な声を出して指をパチンと鳴らした恭平先輩が次に出したのは間抜けな声。
「あれ、でもホームルームとかの時間大丈夫?」
(・・・・こうたくんどうしたんだろ)
こんな時間に行けば多分教室には遅刻する。わざと遅れて行こうとしているのだろうか。
「大丈夫。売店寄ったら今日はこのままはけるから」
「は?」
(え?)
「え、何?体調悪いの?寒いの?」
「・・・・・」
(やっぱり、さっきの聞いたから・・・)
「いや、なんか帰りたくなった」
「え、なにそれ」
「じゃあ用事ができた」
「・・・・ますますなにそれ」
「まぁ、とりあえず売店行こう」
「え~?・・・ん~いいよ。じゃあお昼ご飯はかずきくんと一緒に食べる~」
僕は2人の会話を頭の片隅で聞きながら、凄い嫌な気持ちのまま歩いていた。嫌な気持ちっていうのは不快感とかじゃなくて、こうたくんにあんな形で僕のことが伝わってしまったからこれ以上どうにかすることが出来ないという意味だ。
(もう・・・・ちゃんと話せない)
「あぁ~、それは無理だわ」
「え、なんで?」
「かずきも一緒にはけるから」
「ぇえ!?」
(えっ)
こうたくんの言葉に思わずぎょっとして顔を上げた。視線の先にはいつもどおりの顔をしている真面目な彼の表情が見える。
「・・・・」
「けいたには俺から言っとくわ。恭平は先生からなんか聞かれたら適当に答えといて」
「て・・適当・・・って?」
「家庭の事情とか」
「・・・・なるほど。そこまで問い詰められずにうまくかわせて、尚且つ誰からも心配されるやつだな。分かったぜ。俺もよく中学の時使ってたわ」
「だな」
「・・・・・ってことは俺も一緒に帰れないやつじゃん!!」
「ついてくんなよ」
「・・・・・」
(な、なんで・・・)
「お前部活は?」
「今日は顧問が休みになったから、自主練だけど、体調崩してるやつ多いからそれ自体も無くなった。さっき先輩に捕まってたのはその話」
「あぁ~そういうことね」
こうたくんの言っていることは本当なのだろうか。
(僕も一緒に抜けるって・・・どこに)
「ってことで、このまままっすぐ行って左な。階段はスルーで」
「ちなみに後ろもスル~。あ、そういえばさ、かずきくんは好きなケーキとかある?」
「・・・え?」
(ケ、ケーキ?)
「かずきはその質問スルーでいいよ」
「えー?なんでこうたが答えるんだよ、じゃあクリスマスケーキは?」
「いちいち答えなくていいよ」
「・・・・・俺に対する扱いひどくない?」
「先約があるんだよ、馬鹿野郎」
「・・・え?!なにそれ!!そんなの聞いてな」
「恭平はとりあえず先に売店行って。スマホに連絡ちょうだい。開いてたらそのままそこに居てくれればいいし、こっちから行くから。開いてなかったら戻ってきて」
「え、おれ?」
「うん。お前しか居ない」
「なんで?・・・・ってここで聞くのは愚問だな。分かった。任せろ・・・・とか言いながらお前ら勝手に帰るパターンだろ」
「いや、それはないけど」
「けどなんだよ?・・・まあいいけど・・・・信じるけど」
「ちゃんと買ってやるから早く行け」




