大丈夫、大丈夫だから
「邪魔なんだけど」
「は?」
突然後ろから聞こえてきた不機嫌な声に2人組が振り返る。
「なんだ、桐崎じゃん」
「ちょうどいいところに来たな。さっきの話聞こえてた?お前さ、」
「邪魔」
「は?おい、待てよっ」
2人が避けた隙間に割って入ってポケットに手を入れたままこちらに向かって歩いてくるその姿にようやく体が動いて、僕は少し後退りした。
「かずきくん、泣かないでいいよ。大丈夫、大丈夫」
「・・・っ・・でも」
恭平先輩の声に思わず伝った涙を手で拭いて、抱えたマフラーで顔を半分隠した。
「お前らこんなとこでなにしてんの」
「え~、来てさっそくそれはなくない?こうたのこと待ってたんだよ~」
(バレた・・・・こうたくんに)
片耳からイヤホンを取り外して不思議そうな顔をしているけど、多分あの人達が言っていたことは聞こえてる。
「あぁ~、遅れてごめん」
「・・・・こう・・・たくん」
「おはよう、かずき」
「・・・・え~なんだよそれ、俺には挨拶なしかよ」
「え?なんで?さっき手あげたじゃん」
「えー?それ!?」
「いや~、参ったわ。部活の先輩につかまってさ、タイミング死んでた。くっそ冷たい風吹くし、なんか邪魔なもんばっかで」
「・・・・」
「それにしても遅いよ~、電車で寝過ごして一周回ってたのかと思ったじゃん」
「それはお前だろ」
「あ~さみっ」と言いながらこうたくんはもう片方のイヤホンも取って、ポケットから取り出したケースにしまい込んでいる。
「俺とかずきくんけっこう待ってたんだからお昼になんか奢れよ」
「あぁ~」
何事もなかったかのように会話をしているこうたくんと先輩に目が向けられなくて僕はまた下を向いた。
(・・・・なんで・・・そんな普通に)
「寒いし眠いな~、俺今日朝早く起きたから朝飯抜いたんだよね。お腹も減ってるんだ。温かいカフェオレ飲みたいな。あんこがぎっしり詰まったパンも食べたい」
「爺さんみてぇだな」
「うまいぞ、冬だと温かいあんこめっちゃ美味しく感じる説」
(・・・・どうしよう)
「かずき、行こう」
恭平先輩はまたいつもの調子に戻って、好き勝手発言している。まるでこの廊下には僕たち3人しか存在してないように呑気な態度だ。
「・・・・・っ」
「待ってくれてたんだろ?ごめんな、体冷えた?」
下を向いたまま何も返事をしない僕の頭を撫でで、こうたくんはいつにも増して優しい声で話しかけてくれる。
「・・・・あの、」
「ん?」
「・・・」
口を開いては閉じて、声にならない声を喉の奥から出そうとしたけど出てくるのは渇ききった息だけ。
(ごめんなさい、ごめんなさいって言わなきゃ)
「・・・・あの」
思ったことを言おうとしても、中々定まらない思考に足踏みして無駄な時間だけが時を刻む。早く言わなきゃと思えば思うほどに焦る気持ちが心臓の鼓動を早くさせて呼吸を乱す。
「おい!!無視すんなよ」
「桐崎、お前も聞いただろうがよ、橋本がそういうやつだって」
突然の大きな怒鳴り声に体がビクッとして持っていたマフラーを手でぎゅっと掴んだ。
(っ・・・・)
彼らが言った相手はこうたくんだけど、こうたくんの背丈に隠れて見えなくなった僕に言い聞かせるように大きな声で言っている気がする。
(もう嫌だ・・・やめて)
咄嗟にそう感じたのは、その言葉に乗った感情が僕に向かって飛んできているのが伝わってきたから。
「かずき、」
「・・・・」
「そんなに握ったら、手痛くなるぞ」
「・・・・んっ」
マフラーを必要以上に握り締める僕の背中を擦りながら、後ろの2人には何も反応せず意識を僕のほうに向けて喋るこうたくんは今何を考えてるんだろう。
「ごめんなさ」
「大丈夫」
「・・・・っ」
「かずき、」
僕はびっくりした体を落ち着かせるようにそのままの強さで握り続けようとした。
「大丈夫だから」
「・・・・こうたくん」
「行こう」
「・・・でも」
「なに?」
「・・・・すいま・・・せん」
「何が?俺と一緒に行くの嫌だ?」




