あの子
教室について、僕達は席に向かった。
隣だから必然的に同じ場所に行く。
「まぁこの時間は流石に誰もいないわな」
「そうですね・・・・」
やっぱり朝の人が居ない時間帯は好きだ。
というか人が集まるところが苦手だから、基本的に人が居ないところを好む。
(でも・・・今日はこうたくんと一緒)
2人っきりでいられる時間がこんなに長いことは、これからの高校生活であと何回あるだろう。 いや、高校生活というよりかは、1年生の間だけかもしれない。
2年生、3年生になっても同じクラスだとは限らない。むしろ逆に離れ離れになるかもしれない。
(こうたくんも大学行くと思うけど、まだどこに行くとかは決めてないかな)
「・・・・」
考えても、考えないようにしても一回思ってしまえば行く着く先はもうそこしかなくて、僕はそれをいつにしようかということに思考が飛んでしまっていた。
(言わなきゃ・・・)
他の人に暴露される前にせめて自分でちゃんと告白したい。
でも、焦る気持ちと溢れる思いが無意識にピークに達した時、場所も時間も周りも何も考えずにこうたくんに『好き』と言ってしまいそうで、僕はそれが怖かった。
(さっきみたいに人が居ないならまだいいんだけど・・・)
上着を脱いで椅子に座るこうたくんはスマホを手にしている。
「・・・昼飯何にしようかな~早く買わないと・・・あそこ混むんだよな」
「・・・・」
教室についてさっきまでの夢見心地な空間がなくなったせいか、お昼と聞いて何かを忘れていることに気が付いた僕は頭がモヤモヤした。
何だっけ?と思いながらこうたくんと朝会ってから教室に来るまでのことを思い返してもまだ頭にかかったモヤが消えない。
(なんか・・・・大事な何か)
「・・・あっ」
「・・・・ん?なに?」
「い、いや・・・なんでもないです」
(ヤバい・・・あの男の子・・・・)
思い出して思わず大きな声が出た。
確か「また昼にな」とか言っていた気がする。
まさか冗談だとは思うけど本当に教室に来たらどうすればいいのだろう。昨日僕がこうたくんを待っているとき、普通にこの教室に入ってきたから彼は僕が何組なのかを知っているはずだ。
「なんでもないなら、尚更言って、気になる」
「・・・・え・・・えっと」
「何?弁当忘れたとか?」
「いや、そういうのではないんですけど・・・」
具体的に話せないからどう説明すればいいのか迷う。昨日のことを話すと確実に芋づる式にあの2人組のことも言わないといけなくなるからそれは却下だ。
(説明が下手くそならいいんだけど、噓が下手くそだからそもそも話さないほうがいいんだよね・・・どうしよう)
「じゃあなに?」
「えっと・・・・あの、今朝校門のとこで変な人に絡まれまして」
「・・・・変な人?部外者?」
「い、いや、制服着てたんで多分うちの生徒だと思うんですけど」
僕は椅子に座ってカバンを片付けようと中身をゴソゴソ取り出した。
「なんて言われたの?」
「・・・・・」
(なんて言われたの?・・・え・・・え?)
「き、昨日ちょっと色々あって・・・」
「・・・・」
「その時と同じ人が・・・なんか校門に居て・・・・」
昨日のことを詳しく聞かれたくなくてわざと手を動かして音を立てていたけど、動揺しているのは多分普通にバレている。
「で、なんて言われたの?」
「・・・・え?・・えっと・・・なんか・・・またお昼にって言われたような」
何もゴソゴソするものがなくなって、手持ち無沙汰になってしまった僕はこうたくんを真似てスマホを取り出した。
何を見るわけでもない。ただ落ち着かなくて画面をタップしまくってるだけ。
「・・・・はぁ」
(えっ・・・た、ため息)
チラッと見ると、どうやらこうたくんはドアの外を見てため息をついていたらしい。他の生徒が入ってくる直前だったのに僕は気が付いていなかった。
(・・・他の生徒来てる・・・当たり前か)
「かずき、」
「は、はい」
「昼はけいたと一緒に居て」
「・・・・・え」
「多分そいつ昼にここに来るけど無視しとけばいいよ、けいたがいるから大丈夫だとは思うけど」
「・・・・こ、こうたくんは」
「俺が飯買いに言ってくる。けいたにも言っとくわ」
「・・・分かりました」
そう返事をした時に見たこうたくんはちょっとうんざりした顔をしていた。
(・・・・言わないほうが良かったかな)
そして彼が言ったことは本当に現実になってしまった。
◇◇◇
「・・・・・」
(き、気まずい・・・・)
お昼になって、こうたくんが言っていたように彼はお昼ご飯をけいた君の分も買いに行った。
「美味しそうなの買ってきて~」と曖昧過ぎる注文を出したけいた君はあんまりなんとも思ってなさそうで、今は僕とけいた君が2人で一緒にいる。
(何か話したほうがいいかな・・・でも何を・・っていうか僕と喋ることとかないよねきっと)
お昼だから他の生徒もいる。全くの無音でなければ、2人っきりでもない。ただ僕らの間にはなんとも言えない空気が漂っている感じがしてあんまり居心地が良いものではない。
多分けいた君も同じことを思っているだろう。
そんな彼はこうたくんの席に座ってスマホをいじっている。
(・・・・・どうしよ)
「それにしても、橋本君さ、恭平先輩に気に入られるとかちょっと面倒くさいことになったね」
(・・・・・え)
突然僕の名字を口にしたけいた君はスマホを机に置いて、少し目尻を下げて笑いかけてきた。
「・・・・」
「あの人、最初びっくりするよね。悪い人じゃないからさ、・・・まぁ無神経ではあるけど」
「・・・・きょ、恭平先輩・・」
「うん、そうそう」
(って・・・・誰?)
「・・・・って誰ですか」
「え?」
「・・・え?」
多分他の人から見たら何をしてるんだろうと思われる光景だと思う。二人してぽかんと口を開けて間抜けな顔で見つめ合っている。
「・・・・あれ?」
「・・・あの、」
「こうたから聞いてない?てっきり聞いてるかと思ったけど」
「い、いえ・・・特には」




