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好きで好きでたまらない  作者: しおやき


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大丈夫






 こうたくんに行くと返事をしたてまえ、多分行くんだろうなとは思いながらも今はそんな気分にならなくて本音を口にした。


「かずきくん、前も言ったけど逃げてもいいんだからね」

「・・・・」

「あのさ、無理して喋ろうとしなくていいから、聞いて」

「・・・はい」

「逃げるっていう表現がちょっと卑怯に聞こえるかもしれないけど、わざわざ経験する必要性のないことに逃げずに頑張って踏みとどまるのは精神の無駄遣いだから」

「・・・・・」



 きりゅうくんの声のトーンが突然変わって僕は少しびっくりした。多分いじめられていた時のことを思い出しているのかもしれない。



「そういうことしてくる奴って、意図的に相手を選んでるから、そういう意味で僕もかずきくんもターゲットにされやすい外見と性格持ってるっていうのはあるかもしれないけど、」

「・・・・そう・・・なのかな」

「そうだよ。だから弱いんだよ」

「・・・え」

「誰にも相手にされないから、弱そうな人見つけて自分が優位に立とうとしてる。ほんとにくだらないよ。そんなさ、アホみたいな考えに付き合って何が「逃げるな」だよ?笑えてくるよね」

「・・・・・・」


 

 電話の向こうで怒りながら吐き捨てるように笑ったきりゅうくんは今も心の何処かにその時の痛みや怒りが残ってるような気がした。



「・・・・気持ち悪いって」

「ん?」



 時間が経っていても忘れないのに、今日の今日なんかで言われたことを簡単に忘れられるわけがないのは当たり前だ。


「・・・気持ち悪いって・・言われました」

「・・・・・」


 

 自分で言って、すれ違いざまに聞こえた言葉に嫌悪感が混ざっていたことを思い出した。


 いつの間にか流れている涙に言葉が詰まって、それでも心に引っかかった一言をどうしても取り除きたくて、誰かに否定して欲しくて、聞くことができた相手はきりゅうくんだけ。



「僕みたいなのって、やっぱり気持ち悪いですか」


 

 だから多分部屋に入ってきりゅうくんが最初に浮かんだのかもしれない。


 でも本当はこうたくんに否定して欲しかった。

 こうたくんも男の子を好きだったら、僕も少しは報われただろうか。



「気持ち悪くないよ」

「・・・・」 


 こんな僕にあんなに根気強く優しく接してくれるのは多分こうたくんだけ。



「って、こうたくんが言ってくれるのがかずきくんにとっては一番だよね、きっと」

「・・・・・っ」

「大丈夫だよ、彼はきっとそんなこと当たり前に否定してくれるよ。明日お昼ご飯一緒に食べようって言われたんだろ?」

「・・・・でも」

「実際に聞いてみないことには分からないけど、こうたくんが正面から来てくれるんなら、彼からは逃げなくていいんじゃないかな。逃げるというか、避ける相手はその変な2人組のほうでしょ」

「・・・・・うん」



 喉の奥から泣き声を出しながら拭いた涙は少ししてから止まった。

 僕か落ち着くまで電話越しで何も言わずにただ待っていてくれたきりゅうくんは「辛かったら連絡して、迎えに行くよ」と言ってくれた。


 もしお兄ちゃんが居たらこんな感じなのだろうかと思ってお礼を言うと「弟ができたらこんな感じなのかね」と少しだけ笑って最後に「またね、おやすみ」と眠たそうに電話を切った。




 ◇◇◇




 次の日の朝をむかえ、僕はリビングに居るお父さんにおはようの挨拶もせずに神妙な面持ちで前置きもなく告げた。



 多分意味がわからなかったと思う。



「お父さん・・・・」

「ん?どうした?」


 お父さんの片手にはコーヒーが入ったカップ、もう片方の手には折られた新聞。


 幸いにも今お母さんは同じ場所にいない。


「・・・あの、」

「うん、」

「・・・・・・め、迷惑かけたらごめん」


 

 キョトンとした顔をして、僕の顔を見て一瞬眉をひそめ何かを悟ったのか、口を開いてはまた閉じた。多分どういう意味なのか聞きたかったんだと思うけど、結局何も聞かずにその言葉を飲み込んでいた。



「大丈夫だよ」

「・・・・ごめんなさい」

「迷惑なんて何一つないから謝らなくてもいいよ」

「・・・・・うん」


 

 僕は子どもだから、僕かかけるかもしれない迷惑がどれくらい、どんなふうに、どこまで派生していくのか分からない。



 首元まででかかることもなく、ちゃんとした理由を親に言えないのは心が苦しい。



「い、行ってきます」

「気を付けて行ってらっしゃい」


 

 親に言わなくて、もし取り返しのつかない何かが起こった時お父さん達にも嫌悪の矛先が向かうのだろうか。



「かずき、」

「は、はい・・・?」



 お父さんに呼び止められて振り返った僕は、きっと自分1人でこの問題を解決することができない。



 「あのな、」

 「・・・・・」


 

 名前を呼ばれた後、言われたことにコクンと頷いて、拳を握って深呼吸してから僕は家を出た。



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