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好きで好きでたまらない  作者: しおやき


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不吉な足音5



「はいよ」と一言言ったこうたくんは何がそんなに楽しいのかわからない。不機嫌な様子はなくなったけど心配して損した気分だ。


(・・・・なんか・・・僕どうすればいいんだろ)




 ◇◇◇





 授業が始まって、自分の中ではいつもと同じ光景になった気がしたけど何だかたまに違和感を感じる。それが何か分からなくてなんだろうと思いながらお昼まで考えていたけど、結局分からずじまい。


(・・・・おかしい)



 同じようにお昼ごはんを食べに行くこうたくんを横目に見ても何も変わった様子は朝を除けばないし、その友達も然り。


 そしてお弁当を持って外に行こうとして動きを止めた僕は、昨日階段の踊り場で見たあの人達がまたお昼もいたら嫌だなと考えた結果、今日は教室でお弁当を食べることにした。幸いこうたくんはもう居ないし、僕の席の近くの人も皆はけている。 



 机の上に包を置いてから、スマホといつも読んでいた本をついでに取り出し精神安定剤がわりに一緒に机の上に並べておいた。


 包を広げてお弁当の蓋を開ければ、美味しそうなおかずと、いつもは白ご飯なのになんでか今日に限って炊き込みご飯が見える。


「・・・・ハンバーグだ」


 久しぶりだなと箸を持って「いただきます」と手を合わせながら小さな声で言った瞬間、不覚にも聞き慣れた声が頭上からした。



「あれ、かずきって弁当食ってんの?」

「・・・・え」


 その声のする方向を見上げれば後ろにこうたくんがいる。

 確かお昼ご飯を食べにもう教室を出たのでは?と思わず二度見して少し頭が混乱した。



「・・・・え、な」

「美味そう~、かずきママ?」

「・・・は、はい」


 (な、なんでいるの)


「どうしたんですか?」

「ん?何が?」

「・・・え、いや、食堂に行ったかと思って」

「あぁ~、財布忘れて取りに戻ってきた」

「・・・・あ、なるほど」

「いいな~、俺んち母親家に居ないから、そういうの羨ましいな」 


 (・・・居ない?)



「・・・・・お・・おか・・・」

「ん?」

「おかず何が好きですか」

「おかず?え~、なんだろうね・・・ん~、分かんないけど肉だったら喜ぶかも」

「そ、そうなんですね・・・」

「う~ん、じゃあ行くわ」

「あ、はい」


(見られた・・・・)


 財布を取りに戻ってきたこうたくんはカバンをあさり、見つけた財布を手に持ってそのまま行ってしまった。

 背中を見送ったあと彼の机に目をやると机から何かぶら下がっていることに気が付く。



「・・・・?」


  ストラップ?

 


「・・・・朝からずっと?」



 そうだ、これだ。

 

 何かおかしいと思っていたのはこれだった。

こうたくんは朝からずっとスマホを手にしていない。触る様子も、操作する様子も画面を見つめる様子も皆無。


(・・・まさか連絡来るのが嫌だからずっと電源落としてるとか)


 勝手に覗き見は絶対できないから、プラプラしてるストラップだけ眺めて、なんとも言えない気分でお弁当を食べ始めた。



(・・・どんな子か凄い見てみたい。この前は遠くからだったけど)



 僕は微かに昔見た彼女の面影を思い出して、その後はずっと無言でスマホも本にも触ることなくただ無心でお弁当を食べた。



「ごちそうさま・・・・お母さんに返すの忘れてた」


 朝に送るつもりだったメッセージを今ちゃちゃっと送信しようとしてお弁当は片付けてからスマホの画面をタップ。


【お弁当ありがとう、美味しかった。それとこの前の休みの日のことはもう何も思ってません。返事が遅くなってごめんなさい】



「・・・・はぁ」


 母親にまで敬語。

 送ったあとに読み直してため息。


 1日の中で圧倒的に量が多いのが学校で話す言葉だから、つられてメッセージも敬語になってしまった。このまま土日も家で敬語で話してしまいそうと思いながら、スマホを置こうとした時通知が来た。



 (・・・お母さん)


【大丈夫です。それはそうと、また何か作る?仕事帰りに違うスーパー行くんだけど、欲しいものあったらメッセージ送っといてね】


「・・・・お弁当・・は流石に作れない」



 こうたくんのお母さんが居ないというのは離婚とかでもしたからということなのだろうか。彼の家庭事情は一切知らないから、兄弟がいるのかも何も知らない。



 「はぁ、僕何にも知らないじゃん」



 彼が母親のことを話す時、別に悲しそうな感じでもなかったし躊躇なく普通に言ってたから昔からそういう環境なのかもしれない。




 疑問が増えたお昼が終わって、午後の授業も今日最後の授業になったけどこうたくんの様子は変わらない。


(・・・・あの子からけいた君に連絡はないのかな)



 無関係だけど、緊張してくる。

足を貧乏揺すりしたくなったけど、かわりに足首からしたを左右にゆらゆら揺らしていた。


 チラッとこうたくんを見るとちょうど頭を抱えようとしている仕草を取っているのが見えた。少しため息をついてから顔を上げたその横顔はこの世の終わりみたいな顔。


(・・・え)




 最後の授業が終わるチャイムが鳴って、それがまるで死刑宣告のような響きに聞こえたのは多分僕だけではないはずだ。



「こうた、来たって」

「・・・え?」

「え?じゃなくて、っていうかお前スマホは?ずっと電源切ってる?」

「・・・うん」

「わかった、とりあえずそのまま切っといて」


 2人の、というよりかは喋ってるのはほとんどけいた君で、会話の内容を聞く限り、人気の少なそうなとこで話すらしい。けいた君も一緒に行くとのこと。


「・・・すげぇ嫌だ。不審者って言って追い出してもらおうぜ」

「いや、流石にそれは・・・まぁ、ちょっと面白いけど」


(どんな・・・会話を)



 いやいやながらもこうたくんは立ち上がり、けいた君と一緒に教室を出ていった。スマホはもちろん持たずに机に入ったまま。




 帰る準備をして今度は僕が机に伏せて人がまばらになった教室で貧乏揺すりをし始めた。




チクッタク、チクッタク、チクッタク 


 時計の音が教室に響き渡る。




「あぁ~、もうっ」


 いてもたっても居られなくて、ガタっと大きな音がなったのも気にせずに立ち上がった。そのまま窓の付近まで行き、外を確認するため覗き込む。



(どこに居るんだろう・・・ここじゃあ見えないかな)


 窓に顔を近付けると、息がかかって白く曇る。

中と外の気温が違うのは当たり前だけど窓が曇るとよく見えないから袖で慌てて拭いた。


「・・・・あ、・・・あれ・・・かな?」



 そこで見えた三人組の男女。

 パーカー姿のこうたくんとけいた君が見える。だけど女の子は建物が邪魔してここからは見えない。




「ねえ、な~に見てんの?」


(・・・・・)


「のぞき見?」

「・・・・え」


 いきなり耳元のすぐ側で内緒ばなしのように話しかけてくる知らない誰かに僕は体が固まってしまった。




 窓につけたその手は僕の目線よりも高い。


 (・・・・は?)



 確か足音なんてしていなかったと思う。

 

 僕が窓の外に気を取られていたからなのが悪いけど、後ろから語りかけてくるその人は何だか笑っているようだった。



「趣味わる。そんなことすんなよ」

「・・・・あ、あの」

「気持ちわりいぞ」

「・・・・・」

「お前さあ、」



(この人・・・・誰)


 良くわからない雰囲気で、僕の後ろから離れずにずっと耳元で喋ってくるから気持ち悪い。



 (な・・・何・・・この人)



 言い返したら何をされるかわからない状態で僕は息をすることしかできなかった。窓にはり付いてる手は簡単に僕の首元に届く距離にある。



「桐崎こうたのこと好きなんだろ?」

「・・・え」



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