不吉な足音4
「・・・・ヤバい、目がめっちゃ腫れてる」
朝起きて洗面所に向かい鏡を見た僕は起きてからの第一声がそれだった。
「どうしよう、冷やさなきゃ」
家に帰ってからはいつもどおりに過ごそうとしてなんとなく作業をこなしていた気がする。
「ん~、なんでだ・・・・寝てないせいかな」
僕はため息をつきながら、朝の支度をして早々に学校へと向かった。
「・・・今日は、あの女の子が来るかもしれない日・・・・もし来たらこうたくんはその子に会うのかな」
嫌だとか言ってたけどこうたくんは優しいから呼び出されたら多分行くんだろうなと、道端に転がっていた石に足が当たったから無意識にその石を蹴りながら、未だに腫れぼったさを感じる目元を冷たい風に当てるように前を向いて歩いていた。
「そういえば、お母さんからのメッセージ普通に無視してたけど・・・昨日帰ってからも何にも言ってない。学校着いたら今更だけど返事しとこうかな」
昨日は家に帰ってからも、気分が落ち込んだままで、ご飯を食べていても味がしなかった。目の前のお母さんなんて視界に入らなかったし、お父さんなんてそもそも居たかどうか、それ自体把握してない。
別に何も話さなかったわけじゃないから普通に会話はしていた気がするけど、何を話したかさえ全く記憶にないのは相当ヤバい。
頭の中が無駄な思考で埋め尽くされてる状態だと時間がすぐに過ぎるのは止めて欲しいと思いながら、学校について校門の手前で一旦立ち止まり、思わず見上げてしまった。
そんなことをしたもんだから、昨日の光景が嫌でも蘇る。
(・・・・・)
無駄な行動を無意識に取る僕はなんて馬鹿なのだろう。重い足取りにまたため息をつきながら一歩足を学校に踏み入れて乗り切らないまま教室を目指した。
◇◇◇
ガラッ
学校について、ドアを開けるとどうやら既に先に来ている生徒が居る。
「・・・・・え」
そして机に伏せて寝てるように見えるその生徒は僕の横の席のこうたくんだった。僕より早く来ているということは今までに何回あっただろうと思いながらゆっくり音を立てないように足を動かす。
(部活・・・の朝練とか?っていうかさっきドア普通に開けちゃったけど起きてないよね?)
カーテンが閉まってないけど、まだ日も入ってきてない。
静かに自分の席についてイスを引こうとした時、隣のこうたくんがムクッと突然前触れもなく起き上がった。
「うわっ」
「・・・・・」
「・・・お、おはようございます」
「・・・・はよ」
「今日は・・・早いですね」
本当に寝てたのかもしれない。上体を起こしてもまだ目が薄っすらとしか開いてなくてすこぶる不機嫌な雰囲気を醸し出している。
「昨日・・・・ぜんぜん眠れなかった」
「えっ」
「・・・なんか、すげぇ胸騒ぎがして・・・・絶対あいつ今日来るやつじゃんって・・・そう考えたら寝れなかった」
「・・・・そ、そんなに嫌なんですね」
女の子自体が嫌いというわけではなくて、多分あの子限定なんだろうけど、ここまで拒絶反応が出てるのは逆に凄い。
(あの子・・・いったいどんなメッセージ毎日送ってるんだろう)
「うん、すげぇ嫌」
「・・・・も、もし来たら、僕も一緒に行きましょうか」
「・・・いや」
眠たそうにあくびをしているこうたくんはパーカーを着ている。普通のパーカーなんだけど、これだけでかっこいいって思ってしまう僕は胸がキュッと締め付けられた。
「来なくていいよ」
「・・・そ、そうですよね。すいません」
普通に断られてもダメージを受けなかったのは、断られること前提で質問したから。期待なんてしちゃいけない。
「戻ってくるから待っといて」
「え?」
「今日部活ない」
「・・・・」
「だからいっしょにかえろ」
「・・・・・えっ・・と」
僕はカバンを机に置かず家を出たままの格好でずっと突っ立ったままイスに手をかけていた。
「だめ?」
「・・・・だめじゃ・・ないです・・・けど、」
「けど?」
聞いても良いものなのだろうか。こうたくんの昨日の横顔は一晩立ってもずっと僕の頭の中に残ってる。気になる子の話題を持ち出してまたあんな顔されたら、横に居るのが辛くなりそうだ。
(まだ今日は始まったばっかりなのに)
「・・・・」
「なに?」
「・・・昨日話してた、あの・・・・気になる子のことはいいんでしょうか」
何もしてないと気まずくて、カバンの中身を取り出しながら口を早く動かした。言ってしまったものは仕方がない。
「あぁ~、大丈夫。逃げられないように捕まえてるから」
「・・・・え」
(捕まえてる?)
聞き慣れない言葉に思わずこうたくんのほうに顔を向けたけど、勢いが良すぎたのか首を痛めてしまった。
(・・・・いった・・え、痛い)
微かにグギっと音がしたけど気付かれたくなくて平然を装いながら見たこうたくんの顔は意地悪そうに口角を上げている。
「・・・連絡・・・・取り合ってるんですか」
「うん」
「気になるって、その子のこと好きなんですか」
「どうだろうね」
「・・・・・」
「でも、関係性は大事にしたいから時間かけて近づいてはいるけど」
「・・・・そうですか。で、一緒に帰るって校門までですか」
「ん~・・・・どこまでがいい?」
「・・・・っ」
だんだんとなんだかわけがわからなくなった僕は、ムスッとしてトゲのある言い方をしてしまった。こうたくんの一言一言に一喜一憂してるのは僕の勝手だけど、振り回される側の気持ちなんてこうたくんは一生わからないんだと思う。
(女の子に少し同情する・・かも)
「冗談だって、拗ねるなよ」
「す、拗ねてないですよ!!別に拗ねる要素とかないですから!!」
「お前やっぱり可愛いな」
「・・・・か、可愛くなんかないです。そういうことはその気になる子に言ってあげてくださいよ」
「うん、言われなくてもそうしてるよ?」
少し首をかたむけてかしげるように僕に言ってくるその顔はなんだか嬉しそうだ。
(天然のたらしっ・・・・絶対今僕のことからかった・・・・昨日の僕の気持ちを返せよっ)
「っ・・・」
「あぁ~、家が同じ方向なら一緒に帰れたんだけど、まあ昨日と同じとこまでかな」
「・・・分かりました」
唇を少し噛んでイラッとしながら言葉を続けた。
「放課後はちゃんと待ってるので・・・・早く戻っできて下さい」




