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好きで好きでたまらない  作者: しおやき


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25/90

視線の向こう側2




 ◇◇◇



 ピッピッピッ、ピッピッピッピッ


(スマホどこだっけ・・・)


 今日は朝からスケジュールが詰まってる。

朝に宿題のプリントをして、それから何回失敗してもいいように早めにブラウニーを作る準備に取り掛かりたい。


(・・・流石に全部失敗するわけにはいかないけど)


 目が覚めたのがアラームよりも早かったから、頭が少しスッキリしている。手探りでスマホを探して見つけるとすぐにアラームを解除した。



「起きよう、顔洗ってから飲み物だけ・・・そのまま部屋に」


 またフっと眠くなってベッドに横たわらないように、早々にベッドから出て床に両足で立った。机の上にはこうたくんのノートじゃなくて今度はプリントが置いてあることを確認する。


 昨日の夜、ノートを写し終わってからプリントを机の上に並べて今日の朝すぐに取りかかることができるように事前に用意しておいた。



 着替えずにそのまま部屋を出て洗面所に向かい冴えない顔つきの人物と鏡で対面してボーッと見つめ合ったけど、女の子に比べたら当たり前に男にしか見えないし、可愛いと思える顔でもない。


(自分より背が小さいと可愛いと思うのかな・・・)


 用事が済んで台所に行くとまだ誰も起きてなくて、静まり返ったリビングは寒くて寂しい感じしかしない。


「飲み物は~・・・・お茶でいいか」


 コップに入れてレンジで温めてから取り出すと思ったよりも熱くてやけどしそうだ。

 部屋に持っていってる間に少しは冷めるだろうとあまり気にせず寒いリビングを後にして廊下を抜け自分の部屋に戻った。



「・・・おし」


 朝、チラッとメッセージがないか確認したけど、こうたくんからの連絡は来ていなかった。今日は部活だし、多分疲れてるだろうから連絡はなさそうだと思って少し寂しい気持ちがしたけど月曜日に会えるから我慢しないと。


(でも多分送ったら返してくれるんだろうな・・・)


 それにお菓子も「迷惑じゃない」って断られることはなかったから逆に作らなかったら「え、あの質問何だったの」って思われてしまう。





 午前中は自分で決めたとおりに課題を全部こなした。


「あ~、お腹すいた。早くお昼食べて取り掛かろう」


 

 ◇◇◇




 ブラウニーなんて作ったことがないからそもそも作り方が分からない。こういう時にスマホでネット検索をと思い、部屋から出て廊下を歩きながらスマホの画面を見つめているとリビングから出てきたお母さんと鉢合わせになりぶつかりかけた。



「うわっ」

「うわっじゃないわよ、危ないじゃないの。歩きながら見るの止めなさいよ」

「あ~はいはい、ごめん」

「外では絶対止めなさいよ」

「う~ん」


 そんなことは分かっている。こんなことやるのは家の中ぐらいだ。だいたいスマホを外で使うようになったのも最近なのに。


「何見てんの?」

「ん~?ブラウニーの作り方」

「作り方?なに、あんた知らないの?」

「え、知らないけど」

「そうなの?てっきり知ってるかと思った。え~、知ってるから作りたいとか言ったんじゃないの?」

「・・・・・知りません」

「1人でできんの?」


(こうたくんの分は1人で作りたい・・・・)


「おはよう・・・どうかした?」

「あっ」


 お母さんと話しているとお父さんが後ろからやってきた。

 起きてから時間は経っているはずだけど声が心なしか少し眠たそう。


「ブラウニー作りたいって言うから任せようとしたら作り方知らないって言うのよ」


(え・・・・は?)


 突然のお母さんの愚痴のような文句に僕は少しイラッとして顔を歪めてしまった。


「・・・・・」

「ブラウニー?あの冷蔵庫にたくさんあるやつ?」

「そう、それ」

「かずきが作るの?」

「・・・う、うん」


 3人で話してるようで実はそうではない会話ははたから見ると滑稽だ。お父さんがどんな顔をしてるのか怖くて振り返ることができない。


 木目調の茶い色をした床を見つめながら視線を下に落として着ていた寝間着の服をぎゅっと手で握り、お父さんからの質問にギリギリ絞り出して答えて出てきたのは小さな声。



 僕はお母さんの喋りたがりな性格を把握していたつもりだったけど、どうやら把握するだけじゃ不十分だったらしい。


「誰かにお礼だって」

「・・・・・」


(そんなことまで言わなくても・・・)


 話が勝手に進むことにうまく口を挟むことができない僕は、少し泣きそうな顔をしていたかもしれない。このままお母さんに大きな声で文句を言えればいいのだけれど生憎そんな勇気はなかった。


 なぜならお母さんの発言で確実に僕が誰に作ろうとしているのか、誰に渡そうとしているのかをお父さんにはバレてしまっているからだ。



(・・・・あぁ、もお・・・)


 なんでこんなこといちいち言われなきゃいけないんだろう。だいたいお母さんには関係ない。誰に作るとかほんとに関係ない。材料があるのは感謝だけど、そこまでプライベートな部分に入ってくる資格は親にもないはずだ。



 お母さんにしてみれば些細なやり取りなのかもしれない。それでも僕にとっては重大なことだ。 



 自分の恋心を親に知られたくない。


 わざとじゃないのは分かってるけど、そういう無神経な一言一言が僕の不安定な気持ちに突き刺さる。


 だから蚊の泣くような小さな声しか出せないのは分かっていたけど、僕は無理矢理口を開いた。



「・・・・・そ、そんなことまで」

「お母さん、かずきももう高校生だよ。やりたいようにやらせればいいじゃないか、親がいちいち首を突っ込むところじゃないだろ」

「・・・・・」

「え~、なんでよ、お父さんまで。少しくらいいいじゃないの~」

「お母さんは少しが少しじゃないんだよ」


 お父さんの思いもよらない言葉に顔を上げてゆっくり振り返った。言葉の強さとは裏腹にいつもどおりの表情をしている。


「かずき、作っておいで。母さんの言ってることは気にしなくていいから」

「え、あ・・・うん・・・」


 お母さんを遠ざけるように僕にリビングに入るよう促したお父さんは、僕に優しく笑いかけた。


 お父さんの後ろでお母さんはまだ愚痴を言い続けているけど、少し反省しているのか声のトーンが下がっている。


「あの、お父さん」

「ん?」

「たくさん・・・というか、成功するまで作るから、多分余ると思うんだ」

「うん」

「だから、お父さんにも・・・・あげる」


 ありがとうのお礼の代わりに可愛らしくない感謝の気持ちを伝えようとした。


(素直に言えればいいんだけど・・・こうたくんのこと知られてるから恥ずかしい)



「そうか。ありがとう、楽しみにしてるね」

「うん」



 僕はお父さんに助け舟を出されて、その日の午後はずっと台所に立ちっぱなしだった。




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