日向と日陰
「きりゅうくん、今日はありがとうございました」
「うん、僕の方こそ。来てくれてありがとうね、楽しかったよ」
(結局全部僕のために時間使ってくれた・・・)
人に話すとリスクがあるけど、同じ学校じゃないし、一応身内だから他の人にバレた時に噂の出どころがすぐに分かる。
(信用してないわけじゃないけど、やっぱり少し・・・)
「・・・・・あの」
「ん?」
「最後に変なこと聞いていいですか?」
「変なこと?」
「はい・・・・」
「・・・どうぞ?」
きりゅうくんは嫌そうな顔をせず首を傾げた。
「店員さんと仲良くなれたのってどうしてですか?」
「―――――――え?」
「あぁ、いや・・なんか別にやましい理由とかはなくてですね・・・人と仲を深めるための今後の参考資料として・・・・聞きたいなと思いまして」
本当は違う理由だ。
ただ異様に気になってしまっただけっていう、本当にくだらない理由。でもあそこまで教えてくれたのに肝心な理由を言わないのは何か後ろめたさがあるのかなって勘繰ってしまう。
同じ高校生なのにお金を払ってくれたし、わりと外向きな性格の印象を受けた僕はもしかして裏で悪い奴らに変なことやらされてたりするんではないだろうかと思った。
「・・・・あぁ~」
「・・・・・」
歯切れの悪い返事に、苦笑いを乘せてから考えるような表情をした彼は困ったような声色で話し始めた。
「絶対参考にはならないよ」
「・・・・そうなんですか?」
「うん。かずきくん、アニメとか興味ないでしょ?」
「・・・・・はい、特には」
「だよね。あの店員さんはさ、アニメが理由で仲良くなったんだよね。さっきのカフェでかなり前にイベントがあって、その時に知り合ったんだ。見た目あんなんだけど・・・・って言ったら失礼かな、まぁ僕と同じでアニオタだし、初対面だったけど打ち解けてね・・・」
「そ、そうだったんですか」
「うん。まぁ・・・・」
お店から外に出たから寒さが首元から入ってくる。風が少し強くなった午後の時間帯は、太陽が真上に上って少しでも暖かくなるはずなのに、僕達がいる場所はちょうど日陰だった。
「一番苦しい時期だったから、なんだかんだで助かってた。彼は僕がいじめられてたなんて何にも知らなかったし、なんなら今もそんな僕の過去知らないし」
「・・・・・」
(そうなのか・・・)
誰もが、人に知られたくない過去はある。
ずっと日陰のまま、一生太陽が当たることなく冷たい空間の中でただ存在し続けて、振り払おうとしても無くなりもせずに記憶の中心にいつまでも居座り続ける。
厄介極まりない。
忘れようとして逆に思い出して、いつまでも縛り付けられて、引き戻されるような感覚もこの先出てくるのかもしれない。
(・・・僕の場合はそれが現在進行形で進んでるんだよね)
「なんだろうね、こうさ・・・・いい意味で表面上の付き合いというか。お互いプライベートのこと聞き合わないからね」
「・・・・僕は?」
「ん?」
「僕には・・・・話してくれましたよね」
僕自身の秘密を話すよりも先に、きりゅうくんは打ち明けてくれた。
「あぁ、それは・・・・君は僕と似てるから」
「・・・や・・やっぱりイトコだからですかね」
「ん~そういうわけではないと思う・・・けど、」
少し髪の乱れを直そうとしたのか手でわしゃわしゃと自身の頭を撫でるように触ったきりゅうくんは前髪の隙間からのぞく瞳を僕に向けた。
「かずきくん、あのさ・・・一つだけ約束してほしい事がある」
「な、なんでしょうか」
「もしね、自分に好ましくない事が起こったとして、まぁ、それはなんでもいいんだけどさ・・・・」
「はい」
(なんだろう・・・・)
「そのせいで一番最悪な選択肢を選ぶことだけはしてはいけないよ」
「・・・・・・」
言われたことの意味がよくわからず、時が止まった感覚がして少し沈黙した後に僕は間抜けな声を出してしまった。
「へ?」
「ちゃんと頭に入れといて」
「・・・・・・」
「返事は?」
「・・・は、はい」
「あと、こうたくんにも返事返しときなよ~」
「か、返しますちゃんと」
まだ夕方入りする前のお昼時。
(なんであんなこと・・・・なんだったんだろ)
きりゅうくんと待ち合わせた場所まで歩きながら他愛もない話しをして、しつこいぐらいに感謝を込めて頭を下げてから、そこで今日は解散になった。
彼と別れてから家に帰るまでの間にこうたくんには返事をしておいたけど、送ったのは文字だけ。
(こうたくんもう帰ったかな・・・・流石に帰ってるよね)
【もう帰りましたか?僕は今帰ってます。動きやすい服装いいですよね。僕は目立たない服装が一番好きです。でも今日はちょっと違う種類の服買いました】
(・・・・髪型が非常に気になる)
こうたくんのことだから凄く似合うかっこいい髪型にしてもらえるんだろうなと思うけど、とりあえず月曜日になって学校に行けば分かるから、メッセージには敢えてこれ以上は触れないようにした。
書いたメッセージを読み直してから送信をタップ。
(凄いつまらないけど・・・・)
スマホをしまって早歩きで家に向かい玄関のドアを「ただいま~」と少しだるそうな声で言いながら開けた僕は、今からご飯だと中途半端な時間になると思い、少し早めに先にお風呂に入ろうかなとぼんやり考えていた。
「おかえりなさい、どうだった?あら、たくさん買ったのね?・・・ちょっと見してよ」
「え、なんで?嫌だよ、見せるわけないだろ」
「え~、いいじゃないちょっとくらい」
部屋に荷物を置いてから風呂に行こうとしたらリビングからお母さんが出てきて見つかってしまった。女の子じゃないんだからいちいち色々共有したくない。
断ったら何かブツブツ言っていたけど、無視して部屋に駆け込んだ。
「・・・・・はぁ・・・しつこいかもだけどきりゅうくんにお礼のメッセージを送ろうかな」
部屋に入り、荷物を置いていると机の上には昨日の夜こうたくんが持ってきてくれたノートとプリントが視界に入る。
(そういえば、自分で置いといたんだ。風呂上がってご飯食べたら後で全部写そうかな)
結局、今日は金曜日に来てくれたこうたくんへのお礼の品は買わなかった。
「・・・・こうたくんって甘いの好きかな」
~♪~
「うわっ」
突然なった音にびっくりして声を上げたけど、家に入る時に自分でサイレントを解除していたことをすっかり忘れていた。
「・・・・こうたくん」
電話じゃなくてメッセージのほうだ。すぐに返ってきたその返事は短文だった。
【もう帰ってる。誰かとデートでも行くの?】
「・・・・・え・・・え?」
新しい服を買うとそういう発想になるのだろうか。確かに誰かがいつもと違う雰囲気で現れると恋人ができたのかなって思っちゃうけど、僕がデートに行くなんて今までも、今もこれからの未来もあり得ない。
(・・・・・こうたくんに彼女できたら嫌だな)
【おかえりなさい。デートなんて行かないですよ。勧められたのでいつもより大きめのサイズを買ってみただけです。ところでこうたくんは甘い食べ物好きですか】
「好きだったら・・・何か作って持っていこうかな」
送ったらすぐに既読がついた。お風呂に行く予定だったけどスマホにかじりついて、あと一通だけ送ったらと思いながらも中々手から離すことができない。
(ちょっと待っても返事が返ってこなかったら・・・・お風呂に)
こうやってどんどん時間は過ぎていくんだなと思っていると、じっと見つめていた画面にこうたくんからのメッセージがすぐに現れた。
【大きめ?なんだそれ、可愛いな。甘いもんは好き】




