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未来なんて






「・・・・服」

「うん、そうそう。僕がかずきくんを誘った最初の目的が元々それだったしね」

「そ、そうですよね。確かに」


 あまりにもこうたくんのメッセージとリンクしすぎて、一瞬思考が停止した。


「・・・服買いに行きましょう。すいません、なんか思わぬ方向に話を飛ばしてしまって」

「ん、いいよ別に。話す内容決めてたわけじゃないし・・・・それに学校の行事じゃないんだから好き勝手話せばいいんだよ。っていうか、僕のほうこそ気になったこと聞いちゃうから、嫌なら嫌って言ってね」

「・・・・・分かりました」



 僕の精神状態が落ち着くまでもう少しだけ軽く話してから、2人で席を立った。


(軽くお茶するぐらいかと思ってたけど、結構がっつり話した・・・)


 しかも心の内を打ち明けてしまうという全く予定になかったことをやってのけた僕は会計を済ませお店を出た直後、外の寒さに触れてあらためて焦りを感じてしまった。



「きりゅうくん、ご・・・ごちそうになりました。すいませんなんか・・・」

「気にしないで。最初から僕が払う約束だったし、それにかずきくんは飲み物だけでしょ」

「・・・でも話聞いてもらいましたから・・」



 問題はここだ。


 特にさっきの会話の中できりゅうくんに、このことは言わないで下さいとか口止め的なものはしていない。


(・・・どうしよう・・一応言ったほうが)


 そもそも高校が違うから、たとえ僕のことを言ったとしてもあんまり意味がないかもしれない。それに少し話して感じたけど、とてもそんな事するような人には思えないから心配は無用な気がする。


(・・・・でも、もしきりゅうくんのお父さんとかお母さん経由で、親に僕が男の子が好きだとバレたら・・・)


 それだけは勘弁して欲しい。


「大丈夫だよ」

「・・・・あ、あの」

「あ、それとさ、今日の話しは誰にも言わないから安心してね」

「・・・え?」


 少し歩いて数歩先にいたきりゅうくんは振り返って僕を見た。


「言いふらす気なんてないけど、念のため口頭でも伝えとこうかと思って」

「・・・・」

「僕はかずきくんの恋が叶えばいいなと思ってる内の一人だから、応援させて」

「・・・・きりゅうくん」

「人を好きになれることは僕にとっては凄いことだから、」


(・・・・あっ)


 切ない表情で、目尻を下げて遠慮がちに笑うその姿は悲しさが感じられるけど、それと同時にまたおちゃらけ口調で言うからどっちのきりゅうくんが本心なのかよく分からない。


「僕はもう、人にたいしてそういう感情持てないけど」

「・・・・・」

「かずきくんにはその想い大切にして欲しいな。相手が男の子だろうが女の子だろうが関係ないよ。誰かを好きな気持ちを他人にとやかく言われて否定される筋合いはないだろう?」


 カバンを持ち直して少し寒そうに袖で手を隠した彼は僕の返事を待たずに続けて話した。


「僕ができることは少ないかもしれないし、頼りなさそうに見えるかもしれないけど一応君からしたら僕は歳上のイトコだからね。何か力になれることがあったら言ってね、いつでも協力するよ」

「・・・・・・」


 僕はそれを聞いて少しの間頭の中で何も考えられなかった。


(・・・・そんな)


 出会って、探して諦めて、また出会った。


 適切な距離を保ったまま自分の中だけで色々完結させなきゃと思っていたのに、少しずつだけどきりゅうくんが言うように自分がそうであればいいなと願った方向に事が進んでいってる。


 それで今回のカミングアウト。


(・・・・未来なんてないのに)


「・・・ありがとうございます」


 きりゅうくんの優しさに僕は心から感謝できなかった。


「凄いぜんぜんそう思ってないね。まぁ今すぐにはね、いい方向に考えるのは難しいかもね」

「すいません」


 バレていた。当たり前だ。また泣きそうな顔をしながら暗い声で言われても誰でも「え、」と思うだけだろう。


「っていうことで、まず最初の協力だけど、服を買いにいくことから始めようか」


「もちろんかずきくんのね」と付け加えて言った彼の楽しそうな声色に僕は顔を上げた。


「・・・え、あ・・・・でもきりゅうくんの服じゃあ」

「僕のはまた今度でいいよ。どうせかずきくんは服持ってないんだろ?昔の僕と似てるからなんとなくそんな感じするけど・・・・・違う?」



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