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カミングアウト4





「人が怖いんだよ」

「・・・・・」

「いじめられてたんだ。男からも女からも」

「・・・え」


 まさかのカミングアウトに息が一瞬止まって自分の心臓の音が急に大きく聞こえた気がした。


 注文した食事はまだ届いてなくて、テーブルの上には何もないから僕は向かい合わせに座ったきりゅうくんの顔をじっと見つめることしかできない。


「なんでだろうね。ああいう奴らって誰かをターゲットにして優越感に浸りたいのか、家に居場所がないから、学校でそういう場所作ろうとしてるのか良くわかんないけど」

「・・・・」

「そういうことする人ってどの世界にも居るじゃん。それは分かってたんだけどさ、自分が標的にされるのはその時が来るまで分からないっていうね」

「・・・・・」


 きりゅうくんはテーブルの上に置いた自分の両手を眺めていたけど、僕の視線に気が付いたのか急に目線を上げて切なそうに笑った。


「いざ標的になってみると、結構キツイっていうか」

「・・・・・・そ、そんなことが」


 お父さんは、彼は別の高校に編入したと言っていたけど理由がいじめだったとは思わなかった。


(お父さんもそこまでは聞いてなかったってこと・・・?)


「うん・・・。誰も助けてくれないし・・・というか皆巻き込まれたくないからだとは思うけど」


 そう言ったきりゅうくんは、僕より一つ年上なのに僕よりも少し小さくて細い体をしてる。



「っていうか、こんな話ししてごめんよ。ちょっと本来の目的とはそれたね」

「いやっ・・・ぼ、僕が聞いたから・・・こっちこそすいません・・・あの・・・教えてくれてありがとうございます」

「別にいいよ。隠してるわけじゃないし、聞かれたら普通に答えるだけさ。それに今は別の高校に通ってるしね」

「・・・・へ、編入したとかです・・・か?」


 少しびっくりしたように目を大きくしたきりゅうくんは「そうだよ」と一言短く答えた。


「父から・・・ここに来る前にそう聞いて」

「あぁ、そうなんだね」

「頭のいい高校だって・・・・凄いです。尊敬します」


 これは本心だ。なんで2年でって思ったけど、理由が理由なだけにますます凄いと思う。逃げる方向を自分で上手く切り替えて、それを実際にやってのけた。


(逃げるっていう表現を使うと失礼かな・・・きっと怒るよね)


「凄くはないよ。まぁ、僕は結局のところ逃げただけだからね」

「・・・・」


 やっぱり逃げるという言葉は第三者が使うと本人に取っては不愉快かもしれない。僕は良くわからない感情の行き場を作ろうとして、ポケットに入れたスマホを握り締めていた。


 なんて言おうか迷ってお互いが無言になった数秒間、微妙な空気が流れそうになった時店員さんが注文した食事と飲み物をテーブルに運んできてくれた。


「お待たせいたしました。お品物は以上でよろしいでしょうか」

「はい、ありがとうございます」

「・・・・えっと・・・これは」


 よくよく見ると一品頼んでないスイーツが混ざっている。


「こちらは、橋本様にはいつもご利用して頂いてるので、当店からの特別サービスとなっております」

「・・・・そうなんですか」

「ありがとうございます」


 店員さんからの説明に、僕は頭がハテナな状態で相槌を打って、そんな僕を見ながらきりゅうくんは苦笑いをして店員さんにお礼を言った。


「それではごゆっくり」と告げて去っていったポニーテールの彼女を見送ってから視線をまたテーブルに戻す。


「・・・・美味しそうですね」

「うん、美味しいよ。僕甘党だから」


 僕も何か食べ物も頼めばよかったかもしれないと思いながらお金はきりゅうくん持ちだから、やっぱり遠慮しといて正解だと思うようにして、飲み物だけで我慢。


 さっそく運ばれてきたものに手をつけた僕たちはまたさっきの話の続きを再開していた。



「さっきの話に戻るけど、元々最初の高校選んだのも、楽しそうだったからって理由だったんだよね。でも結果的に僕には合わなかった。合わないものに無理矢理居座り続けるのも精神衛生上良くないからね。今回は上手く逃げれたかな」

「・・・・今の・・・高校は」

「今は、楽しいよ。実際さ、中学の時に先生に勧められてたんだけど断ってたんだよね。編入制度もあるし、もし選んだ高校で何かしらだめだったら編入使ってそっちの高校に切り替えればいいやと思ってね」

「え、・・・そうなんですか?」

「うん」


 きりゅうくんはナイフに生クリームをつけてパンケーキに器用にまんべんなく塗りたくっている。


「僕って、結構卑怯な人間だからさ、逃げ道わざと最初に作っとくんだ・・・他の道にチャレンジしてダメそうなら、頭が働かなくなる前に用意した逃げ道に逃げるタイプなんだよね」

「・・・・」

「嫌じゃん?自分が明らかに原因じゃないのに、理不尽な理由で潰しにかかられるのって」

「・・・そうですね・・・それは、そのとおりです」


(なんだかこうたくんとは似てないけど・・・弾き返し方の冷め具合が似てる・・・ような)


「一回潰されたら終わりだからね、もとに戻るまで相当時間かかるし、そんな人生僕は嫌かな」


 たっぷり生クリームを塗ったパンケーキを口に含んでモゴモゴして飲み込んだあと、おちゃらけたように彼は付け足した。


「守ってくれる人誰もいないから、自分の身は自分で守るしかないよ。あぁでも・・・家族は守ってくれるかな、それに・・・・アニメのキャラクターも。彼等は僕をいじめないし、いつも助けてくれるからね」

「・・・・アニメ?」

「うん、ほら言ったでしょ。僕の好きな人、このお店にいるって」

「・・・・・・」


「あそこ」と言って指を指した方向を見ると、壁一面に大きなポスターが貼ってある。


 そこに描かれているのは、ピンクの髪色で、目が大きくミニスカートを履いた色気ムンムンの女の子だった。


「・・・・え、・・・あ、す、・・・か」

「・・・・・・」

「か、可愛いですね・・・」

「ふっ」


 僕の超絶微妙な反応にきりゅうくんはむせるように笑いだして、苦しそうにお腹を抱えた。彼の笑い声が鳴り響いてるのに、もう一方の僕は顔が引き攣って固まっている。



 明らかに滑稽なテーブル席だけど周りの人は気にしてないようで、誰もこちらを向く気配がない。



「っ・・・はぁ~、おもしろっ、ゴホッゴホッ・・・ごめん、あはっ・・・・可愛いね反応が」

「・・・か、可愛くはないですよ・・なんでそんな」


 何が起こってるのか分からず、笑われていきなり可愛いと言われて少し拗ねたように返事をするときりゅうくんは今度は僕に質問をぶつけてきた。


「かずきくんは、好きな人はいないの?」


(さっきのって・・・・あのポスターのキャラクターがきりゅうくんの好きな人って本当?)


「・・・・・・」

「かずきくん、」

「え?・・・」

「かずきくんは好きな人、いる?」

「・・・・い・・・ます・・・多分」

「多分?・・・そっか、同じクラスの子?」

「・・・え、えっと」


 そう言って当たり前に思い浮かぶのはこうたくん。


(・・・・でも、男の人が好きって言ったら引かれるよね)


 きりゅうくんの人間性がいまいち掴めない僕は自分のことをカミングアウトするのに躊躇った。彼はわりと自然に色々話してくれてるけど、僕はそこまでの根性がない。



(これは・・・・言ったら絶対あとから後悔するパターン)


「・・・・・」

「言いたくないなら言わなくてもいいよ。ごめんね、話の流れで聞いただけだから」

「・・・・・え」

「相手がどんな人であれ、その恋上手くいくといいね」

「・・・・・」


 甘い食べ物のあとに、甘い飲み物を飲んでいくきりゅうくんは相当な甘党だと思う。普通なら気持ち悪くなりそうだ。


(・・上手くいくわけがない)


 そんな彼の手付きをボーッと眺めていると、無意識に想いが声に出てしまった。



「うまくは行かないです・・・・絶対に」

「そうなの?なんで?」

「・・・・・」



 頼んだココアは甘いのに、心は苦いままだ。



「・・・・きりゅうくんは、同性に恋する人を気持ち悪いと思いますか」




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