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カミングアウト3






「・・・え」

「びっくりするよね、ごめんね」

「・・・い、いや、大丈夫です」



 否定はしたものの内心びっくりした。もう一度お店の外観を見ても何も変わらないのだけれど、思わず二度見してしまう。



(・・・・カフェは・・カフェだけど、アニメ専門のカフェ)


「中に入ろうか」

「はい・・・」


(す、好きな人って、店員さん・・・のこと?)


自分の想像の範疇を超えることばかりで、半ば理解しようとするのを諦めかけた僕は、自分の言うことが失礼にあたらないように気を付けることだけはしておいた。




 カランカランと少し高めの鈴の音色が響いて、店内にお客さんが入ったことを告げると店員さんが駆け寄ってくる。


「いらっしゃいませ。ご予約はされてますか?」

「はい。橋本です、2人で予約してます」

「少々お待ち下さい・・・あ、橋本様ですね、お待ちしておりました。お席にご案内します」



 予約があることを確認して席に案内してくれたその女の人はポニーテールで黒髪。顔はきれい系よりは可愛い系だ。


(ボーイッシュな格好してる・・・っていうかアニメだらけ)



「こちらのお席にどうぞ」


 店内のスケールに圧倒されてキョロキョロしながら店員さんときりゅうくんのあとをついて歩いていた僕は、彼等が振り返って声をかけてくるまで違う世界に入っていた。


「かずきくん、席についたよ」

「・・・・えっあ・・・す、すいません」


 

 僕ときりゅうくんが座ったことを確認した彼女は早速また次の質問をしてきた。


「当店のルールはご存知でしょうか」

「大丈夫です」


 きりゅうくんは何も考えることなくすぐに返事をして慣れた手付きで上着を脱ぐ。


「かずきくんも上脱いだほうがいいよ、店内は暖かいしね」

「・・・あ、はい・・・そうですね」


店員さんはきりゅうくんの返事を聞くと何処かに行ってしまった。店内は何かのアニメ番組の曲だろうか、わりとpopな音楽が流れている。


(恋愛ソングっぽいけど、前のテレビみたいな悲しい歌詞じゃない・・・・)


 席に着くまでにキョロキョロしてみたけどお客さんも結構いる。男女それぞれいるけどその中でも着飾ってる人が7割位を占めていた。なんなら僕らよりも年齢が遥かに高めの社会人っぽい男性もいて、かなり人気のお店であることが伺える。


「何か頼む?飲み物でも、食べ物でもなんでもいいよ」

「・・・・あ、じゃあ飲み物を・・・」

「メニューは、これで・・・注文はタッチパネル方式だから」

「た、タッチパネル・・・?」

「うん、かずきくんはあまり外食しない?」


 僕は首を横に振った。

 友達と外食なんてしたことない。


「この画面で注文できるんだよ。わざわざ店員さん呼ばなくていいしさ・・・近くにいないと大きな声出さなきゃいけないから、僕それも嫌なんだよね。まぁ、っていうかそもそも人と話すの得意じゃないから、僕に取ってはこのシステムは非常にありがたい」

「・・・・・」


 やっぱり、僕の思ったとおりだ。


 きりゅうくんは僕と同じでコミュ障。だけど僕と普通に話しているし、躊躇うことなく口から言葉が出ている。


(・・・・どういうこと?)


「頼むもの決まったら教えてね、一緒に注文するから。ゆっくり決めていいよ」

「は、はい・・・・」


 そう言われて彼を待たせていることを微かに悟った僕は緊張感が増してしまった。自分が最後で人を待たせているとどうしても焦って頭の中が空回りする。


(・・・何頼もう・・)


「・・・じゃあ生クリームが上に乗ったココアを・・」

「分かった。他にも食べたい物とかあったらその都度言ってね」

「はい」


 本当はもうちょっと違うものを選ぼうかと思ったけど、頭が真っ白になって最初に目についたものをそのまま頼んでしまった。


(・・・・こうたくんともし万が一でもデートできたら、こんな感じになるのかな・・・あ、っていうか返事返してない・・)


 きりゅうくんに先に返そうとしてタイミングが良いのか悪いのか直接会うことができたから、こうたくんに返事を書く時間がなくなっていた。



 スマホを手に掴んで今すぐにメッセージを返したい衝動に駆られるけど、きりゅうくんの前でこんなことしたら失礼だよねと思いながらチラっと彼のほうを見ると、タッチパネルで注文をしているところだった。


「・・・・きりゅうくんは何頼んだんですか?」

「僕は・・・えーっと、コーヒーフロートと、」

「・・・・」

「〃*パリ♡❞▼♡▼ちゃんのクリームたっぷりのパンケーキ」


(え・・・・ん?い、今なんて)


 

 一瞬早くて聞き取れなかったと思ったけど、きりゅうくんの話すスピードは最初から今の今まで変わらない。もう一度聞こうかと思った僕はよくよく考えるとそれも失礼だと思って、あえて違う質問をした。


「・・あ、アニメのキャラクターとかですか?・・・」

「うん、そうだよ。ごめんね、かずきくんは良くわからないよね」

「そういうものには疎くて・・・すいません」

「いいよ、気にしないで。このお店には僕が勝手にかずきくんを連れてきただけだしね」


 遠慮もなしに普通におかしそうに笑ってるきりゅうくんは、僕にどう思われようが気にしてないという感じだ。



「す、すいません。柄のことお聞きしますが・・・きりゅうくんの好きな人って・・・・店員さんですか?」


自分にしてみればかなり勇気のある質問だと思う。


「ん?違うよ?」

「・・・・・え?」


(え・・・え?じゃあ誰?)


さっきここに好きな人がいると言っていたはずだ。


(・・・あれは僕の聞き間違え?それか常連の他のお客さん?)



「僕は人を好きになることができないから」

「・・・・え」

「まぁ、好きになることができないというか、怖いんだよね」

「・・・・怖いって・・・好きになるのが怖いんですか?」



 きりゅうくんは首を横に振って、悲しそうな顔をした。



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