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1. 再会






「・・・・・こうたくん・・・」




 だらしなく上を向いて、夢から覚めたばかりの僕は火照った体と熱を持った顔と反応してしまった下半身をそのままにして切ない気持ちを静かになった部屋に放り投げた。




 (・・・また、やらかした)



 気持ちを内に秘めて妄想だけが膨らんでいくのはいいけど、夢にまで出てくる。



「これどうしよう・・・中途半端なんだけど」


 嬉しさと罪悪感が同時に出てくる言いようのない気持ちが自分の中に生まれた。



 こうたくんは幼なじみとは違う。



 たまたま中学生の時に会って、たまたま同じ高校になった。初めて会った時は何も考える余裕がなかったけど、顔だけははっきり覚えている。助けてくれたことに、こんな僕のためにすいませんと思いながらも、高校で再会した彼はあの時と同じで変わらず、とても優しい人だった。





  最初の出会いは中学生の時。


 僕のことを助けてくれたからいつかお礼をしたいとは思いながらも、出会った駅の近くでまた会えないかと似たような時間にうろちょろしていたけど結局彼とは会えずじまいでそのまま中学を卒業した。


 人見知りで女性に免疫がなかった僕は男子高校に入学。

 入学式の時は緊張感がマックスでお母さんとお父さんに心配されたけどなんとか乗り切った。


 同日にそのまま振り分けられたクラスへ向かいドアを開けるとすでに人がちらほらいる。恐る恐る黒板に貼り出された席を確認したあと、周りを見ずに自分の席についてイスをゆっくり引いて座ったら、隣から低く不機嫌そうな声で話しかけられた。



 「よぉ、・・・隣の席ってお前?」

 「・・・・は、はい・・・・・・す、すいません」


 なんとなく隣に座ってる人が居るとは分かっていた。


 それでも話しかけられると思ってなかったから相手の顔を見ずに反射的に口から出てきたのは謝罪の言葉。



 「え、なんで謝んの。俺、桐崎こうたっていう名前だけど、お前は?」

 「・・・・え、えっと、僕は橋本かずきです」

 「そっか」


  怖い。

 顔を見てないから、声色で機嫌を判断するしかない。


 「そっか」だけで終わったから、もう僕に興味を失ったと思いホッとして、次に何処に視線を向ければいいか分からず持っていたカバンを開けようとした。



  トントンっ



 「・・・・」

 「ねぇ、」

 「・・・・・え」

 「ねぇ、なんでこっち向かないの?」



 どうやらまだ僕のほうを気にしていたらしい。机を指先で叩かれてまた声をかけられた。



 「・・・・え、えっと」

 「人見知り?」

 「・・・あ、はい・・・・すいません」


 だけどやっぱり出てきたのは謝罪。



 「ふ~ん。まぁ、俺もそうだけど」

 「・・・え、」


 そんな返しが返ってくると思わなかったから、たったそんな一言に顔を上げて声の持ち主のほうに視線をやってしまった。



 「あ、やっとこっち向いた」

 「・・・・」


 爽やかに笑いながら、嬉しそうに目を細めて僕を見つめるその瞳は彼が背を向けている窓から入ってくる光のせいでよく見えなかったけど、逆にそれが良かったのかもしれない。




 「これからよろしくな」

 「・・・・っ」


 求められた握手から感じた温もりはあの時と同じ。



 「・・・・よ、よろしく」








 初めて出会ったあの時は、暑い日差しが照り注ぐ夏の日だった。


 中学生の時に重たい荷物を持ち運んでいたら駅の近くの道のど真ん中で盛大に転けてしまった。周りが気にも止めず無視していく中で、声をかけて助けてくれた人がたった1人だけいた。




 「お前、大丈夫?」



 顔を上げると太陽の光が眩しくて顔がよく見えない。


 

 「立てる?」



 手を差し出してくれたから、何も言わずに思わず掴んだその手は熱を持っていた。



 「・・・・す、すいません」

 「謝んなって、怪我は?」

 「大丈夫です・・・」

 「すげえ荷物だな、1人で持てるの?」



 立ち上がって彼の顔を見ると、凄くかっこ良くて思わず見惚れた。僕の顔とは月とスッポンぐらい違う造り。



 「・・・は、はい」

 「そっか。ならまぁ、気をつけて帰れよ」




 手を貸してくれて、しかも心配までしてくれた名前も知らないあの時の彼は、1年ぶりに、思いもよらなかったこの場所で僕の目の前に現れてくれた。



 人見知りとは思えないほどにグイグイ来てくれるこうたくんは僕がずっと探していた人。



 「なぁ、かずきって呼んでもいい?」

 「・・・・は、はい。もちろんです」

 「良かった。かずきも俺のこと、こうたって呼んでいいよ」







 再会した入学式の日から毎日会うたびに気持ちが膨らんでいく。


 もしかしたら彼にとっては些細なことかもしれない。でも僕にとってはとても重大なことだった。




 だからこそ、この気持ちを知られてはいけない。


 


 こうたくんは僕の恩人で、とても大好きな人。
















「はぁ~・・・」




せっかくいい夢を見ていたのに途中で終わってしまったことに悲しさと苦しさを覚えながらも、懐かしいあの時のことを少し思い出して深いため息をついた。




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