天使の少女
僕の住んでいる町は電車が1時間に1本程度しか来ない。そんな電車を降りると田んぼに囲まれながら歩けるような町並みだ。
僕はいつものように残業した後帰宅していた。そして最寄り駅を降り、星空の下を通っていると僕の前に少女が歩いていた。
いつもの僕なら少女が前を歩くことなんて気にしないが、気にせざる負えなかった。
僕の前を歩く少女は歌を歌っていた。それはひどく美しい歌声だった。腰が抜けていまいそうになるほどだった。
あまりにも綺麗な歌声に驚いた僕は思わず声を出してしまった。
僕の腑抜けた「えっ」という一言で歌声はぴたっと止んだ。
歌声が止んだと同時に少女の足が止まった。
すると薄暗い街灯の下で、腰まで延びた綺麗な髪の毛を風になびかせながら少女はくるっと振り向いた。
天から舞い降りた天使かのようだった。神様は二物を与えずとは誰が考えたのだろうか、なんて呆気にとられて棒立ちになっていると少女は僕を見て微笑んだ。
「一緒に歌う?」
少女は嬉しそうに首を傾げ僕に問いかけた。
「えっ?」
「一緒に歌った方が楽しいんだ。けれど誰1人として私とは一緒に歌ってくれないんだ。私の歌が届いていないみたい。」
少女はじっと僕を見ながらそう言った。悲しそうな潤んだ瞳に吸い寄せられるようだった。彼女の歌声は綺麗すぎて一緒に歌うには恐れ多いのかもしれない。
あれからというもの少女の哀願もあって僕は少女と歌を歌いながら歩くようになった。
ひどく美しい歌声のおかげか最近記憶が朧気になってきて毎日残業していた仕事の疲れなんてすっ飛んでしまった。
毎日僕はそんな楽しい日々を暮らした。
ある日家に帰りふとテレビをつけてニュースを見た。
ー20代男性行方不明者が発見された模様です。
テレビに映ったニュースキャスターは深刻そうな顔でアナウンスしていた。