07『大豪邸』
結局、僕と秋元は──秋元家へ訪れていた。いや、秋元にしてみれば普通の帰宅なのだがな。
僕がここに来た理由は『彼女が、配信について──配信しながら──手取り足取り教えてくれる』と言うからだった。
ついでにダンジョンについても。
「にしても、お前の家……豪華すぎないか?」
「そりゃあ仮にも世界に一人の勇者だもの。国からの援助は凄いわよ」
豪華な庭園、という他に表現するのは逆に烏滸がましいかもしれない。左右対称。整えられた草木。入り口には様々な花で造られたアーチ状があり、そこを潜り抜け長い道を進むと……。
いわゆる、お屋敷が間近に迫る。
彼女の話を聞く限り、どうやらそれは3階建てのようだった。彼女が生まれ、勇者としての才が発揮された時に──国からこの屋敷を受け渡されたらしい。
凄いもんだ。
僕の幼馴染、いつの間にそんなことになってたんだ?
……むう、おかしな話だ。
もう十何年の付き合い(幼馴染てして)になる彼女のことを、僕が全くほぼ知らないなんてさ。
どんだけ周りが見えてないんだ、って自分でツッコミを入れたくなる。
それはともかく、僕たちは屋敷の中へと入っていった。
当然だったか。
高級な質感を持っていた木製の扉を開いた先には、大きく広いエントランスホールに繋がっていた。
紅のカーペットが床には敷かれ、埃一つ見当たらなかった。天井には煌びやかなシャンデリアが吊るされている。
「お帰りなさいませ、ご主人様」
どうやら彼女はメイドを雇っているらしかった。
いや、国が雇っているのかもしれない。メイド服を着た大人しそうな、凛々しい顔立ちのショートボブな黒髪の少女。
身長は、僕より低い──勝った!
「ただいま、美波」
「あ、お荷物お持ちします」
「ありがとう。いつもごめんね?」
「いえいえ、これは仕事ですし、私的にも──恩がありますので」
そう言って美波と呼ばれたメイドは、秋元の荷物を持ち、
「今夜の夕食は、ステーキを予定しています」
そして僕を一瞥し、一礼してから去っていった。
「随分とべっぴんだなぁ」
去っていく彼女の後ろ姿を見つつ、僕は心の声を漏らす。可愛い。メイドか、なんか魂の奥底から燃え上がってくるモノを感じる!
もしかすると僕は、メイドという存在が好きなのかもしれない。
「私のメイドに手を出したら、もちろん容赦しないわよ」
「というと?」
「私の聖剣で──取り敢えず五千回は、貴方の体という体全てを切り裂くわ」
赤い背景に、黒の人物像が僕の脳内で映し出された。そこでは一人の黒色少女に、黒色少年が滅多刺しにされている姿が浮かんだ。
……なるほどだ。
「もとより僕は、あんなべっぴんさんに手を出す気なんてないよ。自分という存在に、僕は自信を持っていないしさ」
彼女は僕の言葉に特に反応することはなく、ただある部屋へと僕を誘うのだった。
◇◇◇
「じゃあまず、何について話そうかしら?」
それは、クラシカルな部屋だった。
そこまで大きくはなかったが、綺麗だった。僕は彼女と相対するように、小ぶりな漆喰のダイニングテーブルを挟むような位置に座っていた。
僕が座っていた椅子も、ダイニングテーブルも、洋家具のような挽物の脚を持っていた。
分かっていたが、随分と綺麗だな……。
「何について、ねぇ。あれだろ? ダンジョンについてと、配信のあれこれについて、話すというか。教えてくれるんだろう?」
「……そうね、じゃあまずはダンジョンから語るとしようかしら?」
「ダンジョン、か」
「貴方は……ダンジョンについて理解してるかしら?」
「何も知らん」
そう言うと、彼女は信じられないと言う。僕はいつでも何時でも自分自身を信じているけどな!
「冒険者登録を政府に申請するとき、説明されたはずでしょ?」
「あー……覚えてないな」
「怒って良い?」
「ダメだ」
彼女は頬をふくらませ、僕を睨んだ。
「……まぁずっとイライラしていても仕方がないわね、しっかりするのよ私! ……説明してあげるわ、感謝しなさい?????」
そうして彼女からダンジョンについての説明があった。簡単に言えば、こうだった。
ダンジョンというものの成り立ちは、勇者である彼女もあまり知らないらしい。
それはともかく、ダンジョンには難易度(=危険度)が政府から一個一個に指定されているらしく……。
低い順から危険度が、
『極低』
『低』
『中』
『微高』
『高』
『超高』
とあって、例外として。
『極』
というモノがあるそうだ。
政府に冒険者登録届を出して、冒険者になったいわゆる『なりたて冒険者』の場合は、ふつう『極低』難易度のダンジョンに挑むらしい。
それなのに僕は、実質最高レベルのダンジョンに最初から潜っていたのだ。
──それがどれだけ危険なことだったのかをようやく理解し僕は、青ざめてしまうのだった。
……でも、それにしても。
それなら僕って案外、冒険者としての才能があるんじゃないのか?
微かに僕は、そう感じた。
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