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06『学校で僕は、人気者になっていた』

 



 家に帰ってきた次の日の話だった。

 久しぶりの登校。身体中が痛むのを我慢しつつ、学校へ歩いていた。


 車通りの多い並木道、その歩道を歩いていく。街路樹の新緑は五月らしく綺麗であった。


「……」


 空は憎たらしいほどに晴れ渡っていた。

 穏やかな春風が僕の頬を殴る。


 良い天気だ。


「だってのに、アンタのせいで台無しさ」


「何がかしら?」


「そりゃあもう、この素晴らしいグッドシチュエーションが」


「奇遇ね。私もアンタのせいで、清々しい気分での朝登校が台無しよ」


 僕に会いにきたのは、そっちの方だろうに。酷い責任転嫁だ。黒髪黒目の凛々しさ抜群勇者は──変わらず毒舌っぷりを発揮する。


 いや、ちょっと前までは大人しい奴だと思っていたんだけどな。


 もしかすると、これが本性なのだろうか?

 僕の幼馴染の本性がコレか……。


「で、何の用?」


「覚えてないの? 貴方が私に昨日、フセンって馬鹿にして呼んだこと」


「ああ、いや別に覚えてるけど。いやまさか、天下の勇者様がそんなことをいちいち気にするかよ」


「別に勇者でも気にして構わないでしょ!」


 まあ、名前を馬鹿にするのは良くないと思うが……これはあだ名だ。愛のある、愛嬌のある、友好関係を築けたと意味するあだ名だぜ?


 とは言ってみるものの、相手がそう思わなければ──ダメだろう。


 だから僕は心の中でだけ『フセン』と呼ぶことにした。


「まあ、分かった。悪かったさ。これからはそんなあだ名じゃ言わないよ」


「ふん、分かれば良いのよ」


 ちょろかった。



 ◇◇◇



 僕の個人情報にプライバシーのカケラもないことは、学校についてから直ぐに僕が直面した困難だった。


 学校に着くなり、今まで話しかけてこなかったクラスメイトなどが急に僕に近付いて来たのだ。


「よう、城里。お前って、すげーんだ!」


「そりゃどうも」


「城里っちー、アンタってただの根暗陰キャ変態アニメオタクだと思ってたけど、面白い人だったんだねー」


「……なんか僕に対する解釈度高くないか?」


 配信の影響ってかなり凄いんだなあ、と僕はしみじみ思った。

 移動教室などがあって、生徒とすれ違うたびに僕は話題の的となったのだ。


 恐ろしいもんだ。


 いつも教室の隅で仮眠していた(話す友達が碌にいなかった)僕がこうなったと考えると、随分な大出世だ。


 ……まあ、出世した理由の大半が運だから、自慢するもんじゃないけど。


 それがどれだけ続くのかはともかく、僕は一日人気者になれただけでもお腹いっぱいだった。


 次から次へと知らん人(僕にとって、学校の生徒大半は知らない人である)が話しかけてくるし。その度にまぁまぁなリアクションをしなきゃいけないし。


 ふっ、人気者は辛いぜ……。


「そんなカッコつけないで、キモいんだけど」


「ふふ、ふはははは! 君もどうだい? 僕のファンクラブに入らないかな」


「か、完全に浮かれてる……」


 放課後の帰り道。

 勇者フセンは僕を睨みながら、ぐちぐち言ってくる。この僕に嫉妬しているのだろう!


 僕はみんなから『一緒に帰ろう』と誘われたが、『僕は大事な任務があるから』とカッコつけて断って、わざわざコイツと帰り道を歩いているのだ。


「というのは冗談」


 冗談である。

 流石に、その程度で浮かれるほど僕は甘くない。だから逆説的に苦い、ってワケじゃないんだけどな。


 いささか矛盾みたいだが、そうなのだった。


 因みに帰り道について僕がカッコつけ発言をして、みんなの誘いを断ったというのは嘘ではない。

 真実であった。


「まぁ帰ってから忙しいのは事実なんだが」


「急になに? アンタが忙しくしている姿とか、全然想像つかないんだけど?」


 この地獄耳め。

 僕の独り言に、彼女は介入してきた。


「僕だって忙しいのさ。帰ったら寝るっていう仕事がある」


「つまり、暇ってことね」


「暇じゃない! ──言っておくが、僕は現実逃避が大好きなんだ!」


「……それ、大声で言うことじゃないわね」


 確かに。

 僕は気が狂っていたのかもしれない。


 ふと我に帰った僕はあたりを見渡した。そこには様々な人が、並木道を歩いていた。


 還暦を迎えたであろうお婆ちゃん。

 社会人冒険者をしているのか、黒のスーツ姿に剣を携える男。

 バリバリのキラキラ女子高生(因みに勇者も女子高生だが、キラキラはしていないと断言しておく)。

 幼稚園か保育園帰りであろう幼児の手を連れて歩く母親。


 そしてその全てが、僕に対して奇怪なモノを見る目を向けていた。

 白けるような、引くような、痛い視線。


 ストレートパンチを食らったような衝撃を、疑似的に僕は受ける。


「まぁ暇なら良かったわ」


「僕的には何も良くないのを忘れないでほしいのだが」


「暇なんなら、付き合ってよ」


 僕が暇とわかれば、急に何を言ってくるんだ──この勇者は! 意外だった。


「付き合ってって、デートか?」


「殴るわよ」


「ごめんよ」


 でも分からないな。

 僕が彼女の何に付き合えば良いんだ。


「じゃあ聞くけど、何に付き合えばいいのさ?」


「それは、そうね。──まずはファッションクルーズでのお買い物と、本屋で参考書の購入と、武器屋で聖剣を整えてもらうのと、ちょっとしたダンジョンで肩慣らしするのと、ダンジョン攻略のせいで遅れていた勉強と…………」


 勇者は意気揚々と、これからのプランを絶え間なく語り始めた。

 おい、待て。

 待ってくれ。


 僕はそこで立ち止まって、熱烈にこれからの予定を語っていく彼女に言った。


「……まずは一つに絞ってから、喋れ」


 と。

ここまでお読み頂きありがとうございます!

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[良い点] 頑張って書いてる感あります、面白い頑張って(ꈍᴗꈍ)星5
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