56『次の計画』
東京護衛、三日目。
早朝のことである。
研究所に併設されているホテルで、僕は朝食を取っていた。
昨日の夜の最後。
僕が黒町と決めた計画を確認する。
忘れないように、スマホアプリのメモ帳に記録しておいたのだ。
『朝十時、東京の第一災害避難拠点にて集合』。
「にしても、結構美味だよなあ、これ」
朝食はなんとバイキングだった。
緊急事態の時に何しているんだって話だが───この研究所は独自で野菜やらを育てているので、材料の件については問題ないとのことだった。
それともっと苦労している人たちがいるのに! という意見が挙がるかもしれないが……、
黒町曰く、
「俺たちはそんな苦労している人たちを助けるのが仕事なんだ。飯食って力つけなきゃ何も出来ねーよ」
だそうだ。
ともかく、
レストランで自分が自由に皿に盛った、スクランブルエッグなどを口に運びつつ計画などを再度、確認していく。
「十時集合で顔合わせ、本格的な行動開始は十時半から。うん、大丈夫」
「何してるの」
唐突に、隣の席に眠たそうな勇者が座ってくる。わざわざ僕の隣に来るなんて珍しいよな。
寝ぼけているのだろうか。
女子力の無さを露見するように、彼女の長い髪は逆立つようにかなり強めの寝癖が出来ていた。
「今日の予定の確認さ」
「予定?」
「計画と表現する方が適切かもしれないけど」
「……ああ、もしかして昨日の夜、黒町さんと話してたのはソレ?」
「ああ、計画についてさ」
「ふうん」
特に興味とかはないのか、それ以上は聞いてこない。
「もぐもぐ。にしても、このオムライス……美味しすぎるわね」
……違った。
どうやら朝食を食べるのに夢中になっていただけだったようだ。僕と違って秋元のお皿には、大盛りの料理がのっている。
なんかご飯とかを餌にしてトラップを仕掛けたら、簡単に引っ掛かりそう。
「秋元」
「もぐもぐ、……なに?」
「梅雨坂が来るらしい」
「えっ」
彼女の食事を進める箸が、動きを止めた。
梅雨坂。
梅雨坂蛍。
クラスメイト。
冒険者にして配信者。
そして僕と秋元と一緒に夢迷宮を攻略した、『死神』の異名を持つのほほん系少女だ。
「蛍が来るって?」
「うん。僕のところに今朝メッセージが届いた」
そういえば東京に逃げていたので、かなり久しい気がする。実際はそんなに日数は経っていないのだけどね。
ただ間にあった出来事が大きすぎて、そう錯覚してしまっているだけ。
「───止めなかったの?」
「止める? なんで?」
「危ないでしょ」
「アイツだってれっきとした冒険者だぜ? それに国指定冒険者ではないにしろ、異名があるぐらいには強い」
「……違うわ。此処はれっきとした被災地ってこと。そういう点で危ないのよ。わざわざ危険な所に進む必要はないわ、ただの女子高生が」
どうやら秋元は、梅雨坂のことを心配しているらしい。
「冒険者、配信者、死神の異名を持ち──"ただ"の女子高生ではないだろ?」
「にしろ、危険には変わりないわ」
「協力してもらえれば戦力になる。確実にね」
「……でも、」
いや、と言ってから秋元は逡巡する。
「どうせ私が断っても、彼女は来るわよね」
「そうだろうな」
実はヒナ───暁ヒナからも『行くよ』というメッセージを受信したのだが、これはまあ勇者には伝えなくとも良いだろう。
別に関係ないようなもんだしな。
「ぁあ、あと秋元」
そうだ。
伝える伝えないで思い出した。
クロマチに言われてたんだった───秋元にも計画について『知りたくなくても』説明しておけよって。
「今度は何よ」
「昨日、黒町と話した内容について説明──ぁあ、いいや。めんどくさいから、簡潔に言わせてもらうよ」
「なによ、意味深で」
「今日の東京護衛は──僕たちの協力役として、冒険者が100人来るぞ」
「…………………………は?」
上手く理解出来なかったようだが、事実である。昨夜、クロマチと作戦の方針を決め終わった二人で配信を行ったのだ。
そこで明日、『僕たちの東京護衛に協力してくれる人を募集、主に魔物を探す仕事』と依頼を出した。
すると僕のSNSに、全国から冒険者によるメッセージが届き──行けそうな人に選別したところ、100人になったわけ。
僕の予想を十分に上回る、超大人数だ。
冷静に考えて凄え。
「そんな訳でよろしく。僕は初対面の人と話すのは苦手だったりするからさ、対応とかは全部、秋元にお願いするから」
「え? え、ちょっと待って、それもなんか意味不明でありえないんだけど、何人だって?」
まだ状況を上手く咀嚼できない勇者に、一言。
「100人」
「ひゃ、100人!?!?!?」
彼女はそのまま卒倒し、帰らぬ人になった。
それは嘘である。
しかしなんでこんなに動揺しているのか、その理由は後に判明する。
どうやら彼女は、初対面にけっこう恥ずかしがり屋だったりするらしい、そうだ。
この作品の番外編である短編を書きました。最近、本編がずっとヒリヒリしている展開続きなのでギャグ調です。
『最強少年、メスガキに『ざぁ~こ♡』と言われたので怒ってみたら、すぐ泣いた』
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